第18話 対決! ン・デラシルーロ
どこからともなくの太い声が森の中に響く。
『愚かな人間よ。立ち去るがよい』
カササーーと草木が揺れる。
その度に、聞こえてくる声の位置が変わった。
どうやら移動をしているらしい。
さぁ、どんなモンスターなんだ?
村人の証言では蛇のようでもあり、獣のようでもあるという。
いつ襲ってくるかわからないから緊張するな。
落ち着け……。俺には石化がある。
近づく気配を感じれば石になればいい。
村人の証言を元にすれば、蛇のように巻き付く攻撃、獣のように引っ掻く攻撃、そして炎の攻撃が主になっているはずだ。
逃げ遅れた村人はン・デラシルーロに食われたという。
無防備な子供一人にどんな攻撃を仕掛けてくる?
おそらく、巻き付くか、噛みつきではないだろうか?
爪で引っ掻いたり、炎で攻撃したりするとは思えない。
『去れ! 人間の子供よ! 去らぬと
……とかいいながら攻撃してこないな。
こちらの様子を探っているのか?
もっと好戦的なモンスターだと思っていたな。
会話ができるなら情報を探れるかもしれない。
「この先にンデラ湖があります。魚が獲れたらいいなって来たんだけど……」
『嘘をつくな……。釣り道具を持っていないではないか。それに、その服装は……貴族か?』
あらら。
ちょっと、頭がいいタイプか。
なら、こっちから仕掛けてやる。
「実はカイリットに頼まれてね。貴様を倒しに来たのさ」
『なに!?』
「僕は魔法の使い手でね。最強の魔法が使えるんだ」
あー、もちろんハッタリね。
最強の魔法が使えりゃ、もっとマシな作戦を立てますよ。
瞬間。
草木がザザザーーーーっと動いたかと思うと、凄まじい殺気を感じた。
この圧は間違いない。
来る!
俺はロープを激しく引っ張った。
これで広場にいるゴコに伝わったはずだ。
それから、防御に徹する。
【
俺の体が石になったと同時。
ガキン! という接触音とともに俺の視界は真っ暗になった。
さては俺を食ったな。
ここは口の中だ。
さっきの接触音は石になった体に牙が衝突した音だろう。
危ねーー。ギリギリセーフか。
一秒でも遅れていたら肉が引き裂ける音になっていただろうな。
俺の体は上空に引っ張られ、やがて後ろに向かってギュゥウウン! っと持って行かれた。
ゴコが俺の体に食いついたン・デラシルーロごと引っ張ってるんだ。
もう一瞬の出来事だった。
俺の視界に青空が広がる。
明るい。
口から出たのか?
と、思うや否や、今度は、ガシッ! と俺の体をキャッチする音がする。
「トル。無事か?」
ゴコ!
俺は石化を解除した。
「どうやら上手く釣れたみたいだね」
「うん!」
振り返ると、広場には赤い毛をした大きな狼が立っていた。
象くらいの大きさはあるだろうか。
グルルと唸りながら、周囲をキョロキョロと見て警戒している。
『なんだこの開けた場所は……? いつの間に作った?』
さて、向こうが戸惑っている隙にこちらも分析をさせてもらいましょうか。
俺はある程度のモンスターの知識はあるんだがな。
……あんな赤い狼は知らない。
王城の書庫にあるモンスター事典には載っていないモンスターのようだ。
ゴコはそんな俺に教えてくれた。
「
ほぉ。それなら書庫で読んだことがある。たしか、
「
「うん。あの赤い狼はカイリットに伝わる伝説の神獣バーストガウ。この森の支配者」
「守り神なんじゃないのか?」
「暴走すれば人間の敵になる」
「なるほど……。ン・デラシルーロの正体は暴走した神獣だったのか」
「広場を作っていて良かった。相手の正体わかった。流石はトルだ」
「まずは分析が必要だからね」
さて、そうなってくると村人が言っていた蛇とか炎の攻撃はなんだったんだろう?
などと思っていると、バーストガウは口を大きく開けた。その中に魔力が集中する。
魔力は真っ赤な炎の火球に姿を変えた。
あ、理解。
俺の思考が追いついた時には遅かった。
バーストガウは大きな火球を俺たちに向けて放つ。
ヤバイ!
あんなの喰らったら三人ともおしまいだ。
「ミカエ! ゴコ!」
俺は二人を【
続いて、俺も【
火球は俺たちに接触、大きな爆発が起こった。
「ゴコ! トル殿、ミカエーー!!」
村長の心配の声をよそに俺たち三人は無傷だった。
ふぅ……。
石化が間に合って良かった。
広場には燃える物はないからな。
爆発した炎はすぐに鎮火する。
俺は炎がひいたのを見て自分の石化を解いてから二人を元に戻した。
「トル様、ありがとうございます!」
「ありがとうトル! 助かった!」
……無傷で敵を倒すのが理想なんだがな。
あいにく、石になったら動けないんだ。
くわえて、【
どうしても、動く時に怪我を負うかもしれない。
なんとかそれだけは避けたいよ。
バーストガウは目を細めて俺を睨む。
『石化の魔法か……。素早い石化……。最強の魔法使いというのは嘘ではないらしい』
おおお……。ここに来て呪いを魔法と勘違いしてくれたようだ。
ミカエは剣を構え、ゴコはナイフを構えた。
さぁて、どうやってあいつを石にする?
「ゴコ! 同時に斬りつけるんです。行きますよ!」
「うん!」
二人はバーストガウに向かう。
「たぁあああ!」
「やぁあああ!!」
ミカエの剣が、ゴコのナイフがバーストガウに攻撃する。
しかし、狼の動きは素早く、彼女らの攻撃が当たることはない。
バーストガウが速すぎるんだ。これじゃあ、彼女たちが先に狼の攻撃にやられてしまうよ。
やっぱり、バーストガウを石化させるのが最優先だ。
「キャアアッ!」
「うわぁあッ!!」
二人はバーストガウの爪攻撃を武器で受け止めて吹っ飛ばされた。
いかん、二人がやられるのは時間の問題だ。
しかも、あんなに素早く動かれたんじゃ俺の石化は使えない。
狼の攻撃が俺に向けば、みんなはダメージを受けることはないんだがな……。
なにか、方法はないか?
俺に攻撃を向けさせる方法……。
……………………………………そうか!
と、俺は片手を天に向けた。
これで魔力を貯めているように見えるだろう。
んで、目一杯大声で叫ぶ。
「こうなったら究極最強魔法を使うしかないな!!」
この言葉にバーストガウは動きを止める。
ゴコは目を丸くした。
「え、すごいな。トルはそんな魔法が使えたの?」
もちろん、ハッタリです。
俺が使えるのは石化の呪いだけだってば。
奴は俺のことを魔法使いだと思っている。それを利用したんだが……。
案の定、バーストガウは俺に向かって走り出す。
『させるか!』
バーストガウは俺の体に噛み付いた。
作戦大成功。
当然、牙が体に当たる瞬間に【
バーストガウの口からガチンと接触音が鳴り響く。
『チッ! 石化か……』
さて、ここで再び問題だ。
【
発動させるには石化を解いてから相手に触れる必要があるんだ。
とはいえ、生身のまんまじゃ、こいつのスピードに追いつけないからな。
じゃあ、どうやって生身のままでこいつに触れる?
『噛み砕いてくれるわ!』
と、大きな口を開けた時である。
ああ……。やりたくはないがこれがチャンスだろう。
ここくらいしか生身で触れれるチャンスがない。
俺の背中にこいつの牙が当たってるから、これがどれほどの被害になるかは想像できないけどね。
でも……やるしかない。
石化……解除。
と、同時。
俺の背中に激痛が走る。
狼の牙がグサリと喰い込んでいるんだ。
「痛だぁあ……!!」
俺はその痛みに堪えながらも、バーストガウの舌をむんずと掴んだ。
「【
瞬間。
バーストガウは石化した。
脳内に女の声が流れる。
『レベルが3になりました。【
え?
レベルアップ早くないか!?
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