第3話 俺とミカエのゴブリン退治
俺とミカエは十匹のゴブリンに囲まれていた。
「たぁああああ!!」
ミカエの剣術はなかなかのもんだ。
しかし、十匹相手は結構苦戦している。
今は傷を回復できるアイテムが一切ないからな。
絶対に攻撃を喰らうことができない。
踏み込みが甘くなれば、敵の攻撃は当たりにくくなるが自分の攻撃も当たらなくなるのだ。
「トルティア様。今のうちです。馬車の中に避難を」
たしかに、彼女のいうとおりか。
俺は非力すぎて彼女の足手纏いになってしまう。
馬車の中に入ろうとした時である。
『ギィイイイッ!!』
眼前に斧を持ったゴブリンが俺の行手を塞ぐ。
マジか!
噂では知っていたが、モンスターをこんなに間近に見ると体がすくむな。
刺々しい歯もめちゃくちゃ怖い。
「トルティア様ーー!!」
彼女は九匹ものゴブリンを相手にしている。
とても俺の援護に回る余裕がない。
ゴブリンの斧は俺の脳天を捉えていた。
さぁて、練習の成果を試す時だぞ。
使い方は簡単。全身に力を込めるだけ。
「【
俺の全身は石化する。
別に技名は呼ばなくても石化はできるんだけど一応ね。
必殺技みたいでカッコイイからさ。
ガキン……!!
ゴブリンの斧は刃が砕けた。
『ギギ!?』
フフフ。
残念ながら、おまえの攻撃は痛くも痒くもないのだよ。
『ギギーーッ!!』
ゴブリンは何度も俺の体を攻撃した。
ガキン! ゴツン! ガキン!!
うん。全然平気。
ちょっとだけ三半規管が刺激されてクラクラするけどね。
ゴブリンの斧の刃はボロボロになっていた。
これなら絶対に負けないし快適かもな。
しかし、勝てないのも現実なんだ。
動けないのが大きな欠点だよな。
石のままで動ければこいつをノーダメージで攻撃することができる。
だが、武器は馬車の中だ。動けても攻撃ができない……。
いや、待てよ?
この硬い体を武器にすればいいのか。
ゴブリンは打ち疲れていた。
その隙を見計らって俺は石化を解除する。
『ギギ!?』
「こっちだ! ノロマ!」
俺が走り出すと、ゴブリンは追いかけてきた。
大事なのは距離さ。
俺は踵を返して体当たり。
んで、体が当たる瞬間に、
「【
全身を石化して攻撃だ。
バゴン!
ゴブリンは石化した俺の体に吹っ飛ばされた。
ゴブリンは紫色の血が吹き出して倒れた。
完全に死んでいる……。
「よし!」
一匹は倒した。
残り九匹だ!
ミカエはゴブリンの攻撃に苦戦していた。
どうやら一匹は倒したみたいだな。
しかし、たった一人で残り八匹を相手にするには多すぎる。
そんな時、彼女の背後からゴブリンが矢を放つ。
「危ない! ミカエ!!」
俺は飛び上がって矢を受けた。
もちろん、受ける手前で、
「【
ゴブリンの放った矢は俺の体に当たってぶち折れた。
よし!
「トルティア様! ありがとうございます!!」
「うん! 二人でやろう! 僕が防御に徹するからミカエは攻撃して!」
「はい!」
そうして、ゴブリンの攻撃は俺が石化で受けきって、その隙にミカエが斬撃を打ち込む作戦になった。
三匹、四匹とゴブリンは倒されていく。やがて、すべてのゴブリンを倒すことに成功した。
瞬間、女性の声が脳内に響く。
『【
うん?
レベルアップしただと?
この声の主。一体誰なんだろう?
脳内で質問しても答えてくれないしな。
とにかく、新しい技を覚えたらしい。
特性を知りたいが技の確認は後回しだな。
「ハァハァ……。トルティア様。お怪我はございませんか?」
「ない。僕より君だよ」
「私は大丈夫でございます」
そんなことはない。
全身傷だらけじゃないか。
特に腕の傷が大きい。流れ出てる赤い血が痛々しいよ。
その他にも、深手こそ負ってないが、ゴブリンたちの攻撃を受けてしまっている。
クソ! ヒドォめ。ポーションを盗ったことは一生忘れないからな!
「とにかく、傷の手当てをしよう」
「も、申し訳ありません」
俺は周囲を探った。
やった!
ここは薬草が自生しまくってるぞ!
俺は王城では読書が趣味だったからな。
薬草の種類には詳しいんだ。
いつか、野営をする時にと思って、知識を蓄えていた。
俺はミカエの腕に薬草の汁を塗って、そこを包帯で覆う。
「トルティア様。……いつの間に薬草の知識をお持ちになられたのですか?」
「んーー。城の図書館でね。本を読むのが趣味だったからさ」
「……すごいです」
「大したことないよ。はい。終わり。もう傷はない?」
「ありがとうございます」
「こちらこそ。僕の命を守ってくれてありがとうね」
「トルティア様……。まさか、石の呪いを使って攻撃と防御をしてしまうなんて驚きました」
「ハハハ。まぁ、初めての戦闘だったからさ。緊張したけどなんとかなったね」
「…………うう」
ミカエはプルプルと震え出した。
「傷が痛むのか? 薬草はポーションより効果が薄いからさ。明日にはマシになっていると思うから、ちょっと我慢だね」
「いえ、違います……。うう……」
彼女は、ヒックヒックとしゃっくりを出しながら大粒の涙を流して泣いていた。
「え!? どうしたの!?」
「わ、私……。私がトルティア様をお助けしたかったのに……。私が守られてしまいました」
「べ、別に二人とも助かったらからいいじゃないか」
「うう……。申し訳ありません。私がお守りしなくちゃいけないのに……うう……」
「気にしなくていいよ。大丈夫だって」
「うう……。トルティア様ぁああああああああ!!」
彼女は俺を抱きしめた。
巨乳の中に俺の顔が埋まる。
うう……。や、柔らかい。
そして、めちゃくちゃいい香りだ。
「トルティア様ぁああああああ! 助かって良かったぁあああ!!」
震えている……。
十四歳だもんな。
あんなモンスターを相手にしたら怖くもなるか。
「トルティア様。トルティア様ぁああああああああああ!!」
必死になって俺を守ってくれたんだな。
「ありがとうね。ミカエ」
「ううううううううう」
俺は彼女の背中を優しく撫でてやった。
「トルティア様。私、もっと強くなります! トルティア様をお守りできるように、もっともっと強くなりますぅ!」
「そか……。ありがとうね」
「トルティア様、トルティア様ぁああああ……」
こんなにもがんばり屋さんだったのか。
昼食のサンドイッチは、本当に彼女の気遣いだったんだな……。
それなのに、国王のスパイと思ったり暗殺者だと思ったりさ。
ちょっと、申し訳ないや。
「トルだ」
「……………え?」
「僕の名前……。トルティアは長いからさ。トルと呼んでくれればいいよ」
「い、いけません。トルティア様は新天地で国王になられるお方です。そんな方を愛称で呼ぶなんて、とても失礼なことです」
「ハハハ。そんな風に僕のことを買ってくれてたのかい?」
「もちろんです。トルティア様はかならず素晴らしい君主になられます」
俺のなにを見てるんだろうな?
彼女とはそんなに接点があったとは思えないけど……。
まぁいいか。こんなにも慕ってくれている部下がいるなんて、俺は幸せもんだ。
「ミカエが僕についてきたのってさ。国王の命令じゃなかったの?」
「私が強く志願いたしました……。ご恩返しがしたかったので……」
「ご恩返し?」
「あ、いえ……。なんでもありません」
過去になにかあったのかな?
ミカエはそれ以上喋らなかった。
追及するのは野暮みたいだ。
彼女は涙が止まって落ち着くと、抱きしめていた俺を解放した。
「落ち着いた?」
「はい……。取り乱して申し訳ありません」
「良かった……」
「ありがとうございます。トルティア様」
「トル、でいいってば」
彼女は顔を真っ赤にした。
「………………………………」
「んじゃ、言ってみて。トルって」
彼女は顔を逸らす。
どうやらこれは照れているサインのようだな。
「ト……トル……様」
「ん。よろしくね。ミカエ」
「は、はい……」
ミカエは全身を真っ赤にしてブツブツと呟く。
「い、言ってしまった……。ト、トル様……。トル様……はううう……」
よくわからない反応だな。
まぁ、そんなに嫌じゃないと思うけど。
さて、ミカエの手当ては終わったからな。
次は新しい能力の確認といきますか。
たしか、レベル2に上がったって言ってたよね?
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