第31話 奴隷傭兵、魔術書を買う
「では、風の魔術書をください」
婆さんは、風の魔術書を手に取る。本には鍵がしてあり簡単には開かないようになっていた。
「いくらだ?」
婆さんは俺の質問にニヤッと笑って答える。
「二千万だ」
俺とエルは思わず顔を見合わせた。二千万だって!?ぼったくりもいいとこじゃねぇか、このババア!
「おい、吹っ掛けんじゃねぇよ!?たかが本一冊が二千万もするわけねぇだろ!?」
「何言ってんだい!この本はただの本と一緒にしてもらっちゃ困る!カギを開けて本を開いた人間の血となり肉となったら二度と読めなくなるのが魔術書ってもんさ。嫌なら買わなくてもいいさね」
なんだそりゃ!?くそっ、反論してぇが知識が無いから反論も出来ねぇ。俺は振り返ってエルを見た。
「バーン、この店主の言うことは間違ってません。ただ、貴族間で取引されてる相場よりもだいぶ高くありませんか?」
「はんっ!魔術書なんて市場で出回る前に貴族が買い占めちまう。本来なら市井の魔術師が手に入れることなんか出来ない代物なんだ。私だって倉庫の肥やしになること覚悟で、こういう時のためにここにずっと置いてあるんだ。ビタ一文負ける気はないよ」
なんて強欲ババアだコイツ。
「わかりました、それではその値段でください」
「おいっ!?おまえ本気で言ってんのか!?」
俺の理解が追い付かない。なんで今のやり取りで買う流れになってんだ!?
「仕方ありません。それよりも今は時間が惜しいんです、一刻も早く訓練して戦力として育ってもらう必要があるので」
結局エルに押し切られ、風の魔術書とそのカギを買い取りその日は宿に帰った。俺としては悶々としてたが、知識が無い分悩むほど考えることがない。そして、俺はその日一大決心をする。
空いてる時間を使って文字を学ぶことにした。やはり字が読めないってのは、不便だと痛感したからだ。今回みたいな交渉は今後いくらでも出てくるだろうが、字が読めないと交渉の場にすら立たせてもらえない。
俺の悩みはともかくとして、アニーは早速本の鍵穴にカギを差し込んで開いた。開くと、一瞬微かに本が光る。今のが魔法ってやつか・・・・・・。初めて魔法を見た瞬間だった。
アニーが読み始めると、本に書かれた文字がアニーの指先を伝って腕から肩、そして耳のなかに入って行く。ちょっと気持ち悪い光景だったが、本人は至って平気そうだった。一時間もすると全て読み終わってしまったらしく、本の中身は真っ白になっていた。
【後書き】
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