第26話 奴隷傭兵、戦地放棄して街へ
「エル、ありがとな。街へ戻ろう!俺たちブラックシープは街の防衛をする!」
エルは俺の言葉に大きく頷いた。急遽、そのことを部隊長のドミニクに話す。奴は俺たちの意見を聞いた途端笑い出した。
「おい、おまえら聞いたか!?ゴブリン討伐の英雄さまは、妖魔兵が怖くって街に帰りたいでちゅってよぉ?」
それを聞いてドミニクの周りの傭兵どもも笑い出す。
「おいおい、おまえら土壇場になってそれはねぇだろ?敵前逃亡ってやつか?」
「いや、ですから僕たちは街への襲撃が——」
エルが懸命に説明を続けようとするが、俺は止めた。
「エル、こいつらに言っても意味がねぇよ。俺たちは俺たちのやることをやるぞ」
「おいおい待てよ。俺は行って良いとは一言も言ってないぞ?」
ドミニクがエルの手首を掴む。その瞬間、俺はブチ切れた。同時に全身の血が沸騰するような熱さになり、身体中から汗が蒸気のようになって噴き出す。俺はドミニクの手首を軽く掴んで持ち上げた。
ミシミシと手首の骨が歪み潰されていく音が聞こえると、ドミニクは悲鳴を上げる。
「勘違いすんなよ?俺らは別の傭兵団だ。
俺とエルがその場を離れると後ろからドミニクの叫ぶ声が聞こえる。
「てめぇら覚えとけよ!任務放棄で報告しとくからなぁ!」
俺たちはドミニクの罵倒を背に戦場を逆走する。傍から見りゃ敵前逃亡だが、そんなこと構ってる場合じゃない。走って走って東へ向かう。どんどん味方部隊から遠ざかり、街へと走った。
街のだいぶ近くまで来たとき、南側の山から一団が飛び出す。エルの予測は最も嫌な形で当たっちまった。俺たちが街に到着した時には妖魔兵どもが既に侵入していた。すでに道端には住民たちの遺体が転がってる。エルには怪我をした住民の治療と避難を優先してもらい、俺は妖魔兵の群れに突っ込んだ。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺の咆哮に気付いた周囲の妖魔兵たちが集まって来る。全身から蒸気のように汗が吹き上がると、身体は完全に戦闘モードになっていた。突撃兵としての役割を担う妖魔兵たちの持っている武器は大抵剣か槍であることが多い。
レラの街に侵入した妖魔兵も例に漏れず剣と簡素な盾を装備している。妖魔兵の集団が一斉に咆哮するバーンを敵だと認識し突撃した。それぞれに街を襲っていたので、戦場のような集団行動は取れてない。
数匹ずつが各方向からバラバラにバーンに突撃するも、剣の一振りで肉塊となっていく。ホブゴブリンは人間に比べると一回り小さいが筋力は人並みにあった。
【後書き】
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