ep2.君の美しい素顔を見たかった。
「残像の技が失敗するなんて」
一人裸になり考えるポーズをするフリッツ。
女暗殺者は構えているが、目は逸らしたままだ。
生娘なのだろうか。男の裸に見慣れていないようである。
フリッツは100万ゴールドな笑顔を浮かべて言った。
「次はどうしたらいい?」
「知るか!」
女暗殺者は怒りで震える。
この変態男は、悪びれなく下着もはかずにアレを晒している。
こいつのコンプライアンスはどうなっているんだ、そう問い詰めたい。
「ん……手が震えているよ?」
「うるさい! だいたい下着はどうした!」
「今日は暑いじゃない。そんな日はノーパンで寝るんだ」
そう述べて、フリッツは彫刻像のようなポージングを披露する。
(何だか頭が痛くなる)
女暗殺者は、この男の意味不明な挙動や言動に翻弄されている。
寝込みを襲った時、すぐに刺しておけばよかった。
かっこつけて「死んでもらうぞ」なんて言わなければよかった。
心底後悔していると、フリッツがつかつかと近付いてきた。
「いや全裸は涼しいね!」
フリッツはザ・無抵抗主義と言わんばかりに、両手を広げながら間合いを詰めていく。
どんどん迫ってくるフリッツに女暗殺者は、
「ふ、服を着んか――ッ!!」
と叫んでしまった。
やはり女のサガには逆らえない。これ以上、こんな変態の体など見たくもない。
幼少時より両親の教育で暗殺者に仕立て上げられた彼女。
これまでの暗殺稼業で、これほど殺りづらい相手は初めてだった。
一方のフリッツはピタリと歩みを止める。
「服は隣の部屋にあるんですけど……」
「そこへ行け」
「えっ?」
「さっさと下着をはいて、服を着て、ここへ殺されに戻ってこいと言っているんだ!」
「アイアイサー!」
フリッツは何故かルンルンと、おかしげなステップを踏みながら部屋を出て行った。
女暗殺者はため息を吐く。
「ハァ……
この世界の殺し屋さんの相場は一人一殺につき1億ゴールド。
相手が国の要人や凶悪な魔物であればあるほど法外な値段になっていく。
闇ギルドより強く勧められた今回の仕事。
強力な呪文を使用する魔術師であるが、報酬は低く確実にこなせる消せる相手だ。
(このままでは、暗殺者のクールなイメージが台無しになる!)
彼女は暗殺者であるがまだ若い。
これまで何度か死線を潜り抜けたが、まさか
男の裸ごときで動揺しては、この先暗殺者としてやっていけない。
しっかりせねば。そう思った矢先だ。
「ああっ! し、しまった!」
迂闊だった、マヌケだった。
ターゲットをみすみすと逃がすような選択をしてしまった。
「逃がしてなるものか!」
全裸であろうが何であろうが殺るべきだった。
何で男の裸如きに動揺したんだ、私は女暗殺者だ。
目指すは必殺仕事人! 世界一の殺し屋さんになるのだ!
扉まで走れ! 駆けろ! ダッシュしろ!
今ならまだ間に合うぞ、あの変態魔術師を殺っちゃうのだ!
ドガッ!
「ぐふあっ!?」
女暗殺者はフリッツに勢いよく開かれた扉に激突した。
「お待たせ。オサレな服を装備したぞ……ってアレ?」
床には盛大に倒れた女暗殺者がいた。
フリッツはまじまじと眺める。
女暗殺者のマフラーが外れ、美しい素顔が露わになっていたのだ。
「ああ……思った通りだ。君の素顔は美しい」
フリッツはこの出会いを神に感謝した。
「くゥ!」
女暗殺者は急いで小刀を構える。
「今度こそ貴様を葬る!」
「いやいや……そんなことより」
「な、何だ」
「僕と結婚を前提に付き合って欲しい!」
「ハア?!」
フリッツは自分の命を狙う女暗殺者に愛の告白をしたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます