何もおかしくはない

「愛羅」


「何?」


「……あの下着、いつ仕込ませたんだよ。……つか、セットで二枚までって話だっただろ」


 結局あの状況で今更買わないなんて言える訳もなく、あの下着を買わされてしまった俺は、少し説教をするようにそう言った。

 愛羅は俺にとって可愛い娘とはいえ、約束を破るようなことを許す訳にはいかないからな。ここは大事に思ってるからこそ、ちゃんと怒らないと。


「良く見て。……私、ちゃんと二枚しか買って貰ってない」


 お説教をする覚悟を内心で決めていると、愛羅は俺が持っている袋を指さしながら、そう言ってきた。

 ……正直、娘の下着が入っているこの中を見るのはちょっと抵抗があるけど、不可抗力とはいえ、もうどんなものを買ったのかは知っているし、言われた通りに中を見た。

 すると、そこには愛羅の言う通り、黒い下着と例の下着の二枚しか入っていなかった。


「……マジでいつ入れ替えたんだよ」


 思わずそんな言葉が漏れ出た。

 ……つか、そこまでして、愛羅はこれが欲しかったのかよ。……俺が自分の好みの下着を暴露した意味ってなんだったんだよ。


「ヒロトはこっちも好きそうだったから」


 俺の心の内の呟きに答えるようにして、愛羅はそう言ってきた。

 ……たまたまなんだろうけど、少しびっくりした。

 

「別に好きじゃない」


 正直に言うのなら、男である限り……特に思春期真っ只中の男子高校生であるのなら、100人中100人が好きだと思うけど、俺はそう言った。

 娘相手……じゃなくても、こんなこと、正直に言えるはずがないし。


「うん。ちゃんといつか見せるね」


「…………」


 話を聞いていなかったのかな?

 

「愛羅は何が食べたい?」


 色々と言いたいことを胸の内に抑え、俺はそう聞いた。

 本当にもういい時間だし、遅くなりすぎたろ姉さんに心配をかけてしまうからな。

 ……あれだ。なんだかんだ言って、愛羅も冗談のつもりなんだろう。……そうに決まってる。

 だから、別に無理して触れる必要は無い……はずだ。


「何がある?」


「んー、ちょっと待ってな」


 スマホを取り出した俺は、近くのチェーン店と検索して、色々と料理の画像を愛羅に見せた。

 確かスマホの話はあっちの世界でもどっかのタイミングで多少してただろうし、愛羅にそこまでの驚きは見られなかった。

 ……まぁ、普通に学校とかでもスマホは弄ってたし、愛羅なら普通に見てただろうからな。そりゃ今更驚いたりはしないか。

 ……昼食の時だって姉さんに連絡をするためにスマホを取り出してたしな。


「……むー」


 そうして、愛羅にスマホの画面を見せながら色々とスクロールしていっていると、わざとらしくそんな不満そうな声を出し、愛羅は俺の隣から前に移動してきたかと思うと、そのまま俺に寄りかかってきた。

 そしてそのまま、俺の手を掴んで、俺が愛羅のことを後ろから抱きしめるような形にしてきた。


 いきなりの出来事に俺が固まっていると、愛羅は何も言葉には出さないけど、満足そうな雰囲気を醸し出しながら、ちょうど愛羅の目の前にある俺の手に握られているスマホを今度は自分でスクロールし始めた。

 

 ……大丈夫。愛羅は俺の娘だ。可愛いと思うこと自体何もおかしなことじゃないし、実際可愛いんだから普通のことだ。大丈夫。俺はおかしくない。


「き、決まったら、言えよ。……絶対にそこに行けるとは言わないけどな」


 動揺を隠しつつ、俺は平常を装ってそう言った。

 ……ちゃんと装えてるかは分からないけど。

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