異世界に召喚されてからほぼずっと傍に居たアサシン娘が現代に戻った俺についてきてしまっている件

シャルねる

ずっといっしょ

大翔ひろと〜、朝よ〜、起きなさーい」


 緩い感じのそんな声と共に、俺の意識は覚醒した。

 ……あぁ、そうか。帰ってきたのか。


 あっちで約8年も過ごして、それだけ歳をとってたっていうのに、何故かこっちに戻ってきた時の体はあっちに召喚された時のままの16歳……高校一年生の時のままだった。

 その事に混乱しつつも、安堵したのは言うまでもないことだろう。


「大翔〜? 早く起きなさいよ〜?」

 

「分かってるよ! 姉さん!」


 俺の両親は俺がもっと幼かった頃に他界している。

 そんな俺を姉さんが自分も大変なくせに、それを一切表に出すことなく育ててくれた。

 だからこそ、あっちの世界に召喚された時からずっと俺は帰ってくることを目標に戦い、旅をしていた。


 帰ってこられたことの安心感はある。

 ……旅の途中、もう姉さんには会えないんじゃないか、感謝の気持ちを伝えられないんじゃないか、俺を育ててくれた恩返しが出来ないんじゃないか、なんてことを何度も思った。

 だからこそ、帰ってこられたことはシンプルに嬉しい。

 ……ただ、それと同時に、確かな喪失感もあった。


 あっちの世界に召喚されて一ヶ月目。

 俺を殺すために来たアサシン少女。

 そいつのことだけが、今の俺の唯一の気がかりだった。

 自分を殺しに来た存在を心配するなんておかしな話かもしれないが、俺を殺しに来た時のそいつはまだ8歳で、まだ召喚されて一ヶ月目だった俺よりも常識を知らないような少女だったんだよ。

 だから、なんの気まぐれか俺はその子の世話をすることにした。

 ……そいつを哀れんだから、というより、俺が心の支えにしたかっただけかもしれない。今となってはもうそれは分からないが、とにかく、俺はそいつを育てた。


 多分、そいつにとって俺は親のような存在になってたと思う。

 ……かなり懐かれてたし、絶対に嫌われてた、なんてことは無いはずだ。

 だって、そいつが14歳になっても、一緒に風呂に入ってたりしてたんだぞ? かなり好かれてると言っても指し違いは無いはずだ。

 ……一応言っとくけど、ちゃんとタオルは巻いて貰ってたからな?

 まぁ、その時の俺は20歳を超えてたから、こっちの世界で言うところの中学生なんかに興奮なんてするはずもなく、仮にタオルを巻いてなかったとしても問題にはならな……いや、あいつがもっと成長した時、流石に羞恥心を覚えるか。

 なら、ちゃんとタオルを巻いてもらってて良かったな。


「……はぁ」


 それも今となっては良い思い出か。

 いつも傍にいたからなぁ。

 ナイーブな気持ちを払拭するように俺は首を横に振った。


 まぁ、大丈夫だろ。

 ……あいつ、15歳を過ぎる頃にはアサシンとして成長しすぎて、俺でさえも感知できない程だったからな。そんじょそこらのやつにやられたりはしないだろうし、平気だ。

 それに、一通り教えるべきことは教えて、ちゃんと別れも済ませてあるんだ。だから、大丈夫だ。

 ……そう思っているはずなのに、目にゴミが入ったのか、俺の瞳からは涙が零れ落ちそうだった。


 ……こんなことなら、一緒にこっちの世界に……いや、何を馬鹿なことを。

 こっちの世界に連れてきたところで、どうするんだって話だろ。

 ……あっちの世界のように成人年齢が15歳だったのならともかく、残念なことにこっちの世界での俺はまだ子供だ。

 つまり、仮にあいつをこっちに連れてきたとしても、面倒なんてみれなかった。

 ……はぁ。そもそも……いや、もうやめよう。

 今の俺があいつに対して出来ることは祈ることだけだ。


「愛羅……元気に​──」


「何?」


 出会った時、名前が無かったから、俺がつけた名前を呼び、元気に暮らしてくれるように祈りを捧げようとしたところで、俺が良く知る声と共に、目の前にあっちの世界では珍しかった黒髪黒目のちゃんと食べさせてたはずなのに身長140cm後半くらいまでしか成長しなかったスレンダーな少女が現れた。


「……は?」


「……ごめん。呼ばれたわけじゃなかったみたい。……早とちり」


 そう言って、再び少女……愛羅は消えた。


「…………は?」

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