3話 階段

窓から朝の光が差し込んでる。

ここはどこだろうか。僕の部屋じゃない。

ワンルームマンションという感じだ。


部屋は狭く、棚に可愛い小物とかがある。

女性の部屋か。

壁も天井も安い造りだ。

どうしてここにいるんだ。


そう、昨晩、階段から落ちて・・・

その後、どうなったか分からない。

女性が僕を助けてくれたのか?


部屋を見渡すと、僕以外に人はいない。

僕は立ち上がった。


ベッドに、机、ハンガーラックだけが見える。

少し先に目をやると、玄関の方に洗ったお皿とかも見える。

廊下横に小さなキッチンがあるワンルームマンションなのだろう。


白に統一された部屋は安っぽいが小綺麗ではある。

窓の白いレースのカーテンも安物ながら品がある。


その時、僕は違和感を感じた。

女性もののパジャマを着てるじゃないか。

レースでヒラヒラしたものがついている。


助けられて、服がなく女物を着せられた?

でも、髪に手をかけるとなぜか長い。


僕は壁にあった鏡を見て時間が止まった。

そこに映っていたのは、女性だったから。


これは、少し前にあった経験と同じだ。

また転生してしまったのか。

これまでの生活には満足していたのに、もう終わった?


手を動かすと、鏡に写る女性の手も動く。

間違いなく、これは僕だ。明らかに入れ替わっている。


わけも分からず与えられた人生。

だから、人生を変えられても、誰に何を文句言っていいのかわからない。

でも、ここまでひどい女性に変えなくてもいいじゃないか。


なんの取り柄もない女性だ。

どんなに頑張っても目立たない顔。

戦後の白黒写真に出てくるようなおばさん顔だ。


パジャマを脱ぐと、そこには幼児体型の女性がいた。

バストは真っ平らで、痩せていて上から下に真っ直ぐな体型。

マッチ棒のようだ。


背も低いし、これでは存在感というものがない。

褒めてあげられるところがない。


この女性は誰なのだろうか。

部屋にあるものを探すと、工務店の総務への入社案内がある。

スマホを見ると入社日は2日後だ。


日付は、階段から落ちた翌日。

時間は、前回と違い変わっていないようだ。


その工務店をネットで調べると、ぱっとしない工務店。

練馬区の平和台にあり、社員25名と出てる。


年齢は1999年6月生まれとあるから22歳なのだろう。

クローゼットには、女子大のアルバムができてた。

就職活動で、貧相な工務店しか合格できなかったみたいだ。

この容姿じゃぁ、しかたがないか。


今日は土曜日。

僕は、スエットと帽子で外に出てみた。

女性の姿で外に出るのは久しぶり。

この姿、どんなふうに見られるだろうか。

でも、こんな女性を見る人なんて誰もいなかった。


最近まで夜中心の生活をしていた僕には、昼間の日差しは眩しい。

少し歩くと目の前にゴルフ練習場が現れた。

ゴルフ練習場に来る人達はおしゃれで、今の僕とは正反対だ。


おしゃれな人には僕の姿は目に入らないようだ。

まるで存在していないかのように。

この女性はそんなレベルなのだろう。


これだと、一生、幸せは手に入るはずがない。

僕は、このまま生きていかなければならないのだろうか。


そこから右に曲がり大通りに向かう。

大通りに出て左に曲がると、平和台の駅があった。

職場の近くに住んでいるのはいい。

ただ、歌舞伎町と違い、ここは住宅しか見えない。


交差点にある大型ショッピングセンターは家族の買物客であふれる。

どの家族にも笑顔があふれる。

子供は、無邪気にお菓子を買いたいなんて言っている。

それを父親は、愛おしいという顔で見守る。


そんな中で、僕だけ別世界にいる。

いかにもみすぼらしい1人暮らしの女性そのものだ。

何歳にみえるかと聞いたら、50代と答える人もいるかもしれない。


まずは今日の食べ物を買おう。

お腹も空いた。

カップラーメンと缶ビールを手に取りレジに向かう。


横のおばさんが、怪訝そうな顔でみる。

女性なら、もっと健康的な食事にしなさいとでも言いたそうだ。

余計なおせっかいだろう。


若い男性が、僕を見ずにロボットのようにレジを打つ。

後から僕がここを通ったなんて思い出しもしないだろう。

僕は、どの人の世界にも存在していない。


僕はショッピングセンターを出て自転車の駐車場を通りすぎた。

交差点に差し掛かると、信号は赤から青に変わる。

もう、お前はここにいる価値がないというように。


誰もいない自分の部屋に戻る。

階段で住人と会ったけどお互いに挨拶はしない。

東京では、他人の生活に接点を持とうなんていう発想はないから。

でも、その前に、こんな女性に気づいていないのかもしれない。


スニーカーを脱ぎ、ベットに腰をおろす。

20分ぐらい歩いただけだが疲れた。

この体は、体力があまりないみたいだ。


お財布には2万円ぐらいあるが、貯金はあるのだろうか?

1円玉をたくさん集めたペットボトルを見つけた。

この女性は、どんなやつだったんだろうか。


スマホに友達と一緒の写真はなかった。

スマホにある写真は、道端の小さな花ばかり。


インスタも、そういう写真をアップしている。

いいねをしているのは、数日前に現れた男性が5人ぐらい。


女性というだけで、なにか期待していいねを押しただけ。

だから、この女性から返事がなく、続かないみたいだ。

そもそも、顔をみたら、失敗したと思うに違いない。


友達付き合いは苦手なのだろう。

まあ、この顔だったら当然か。


まだ昼だが、まずはビールを飲んで落ち着くことにした。

缶ビールを口に近づけ、ビールを口に注ぐ。

何だ。苦すぎる。

そして、10分もたたない間に気持ち悪くなってしまった。


こいつはお酒が飲めないのか?

お酒を飲めないなんて人生の半分を捨ててると言っていた僕なのに。

この体だと、ずっとお酒が飲めないのかもしれない。


トイレで吐いてしまった。

口の中で胃液が残り気持ち悪い。久しぶりの感覚だ。

それでも、夕方まで寝ていると、なんとか気分は戻った。


それからは、部屋にある衣服を着てみてみた。

地味な服しかない。


メイク道具も、リップぐらいで、ほとんどない。

ほぼすっぴんで過ごしているのだろう。


シャワーを浴びると、貧相な体が際立つ。

本当に胸は真っ平だ。

でも、女性には違いない。


久しぶりに、1人エッチを楽しむことにした。

女性の1人エッチは本当に久しぶり。

1人エッチは子供もできなくて安心。

気持ちよさに気持ちを集中できるし。


でも、こんな体で感じることができるのだろうか。

いや、体は女性だし、感じることはできるはず。

手でさすって、試してみた。


いつの間にか、がまんできなくなって体がのけぞっている。

突然、体中に刺激が走り、体が自分の意思に反して震えていた。

この感覚、いつ以来だろうか。


横の部屋の男がベランダからみてるかもしれない。

誰にも相手にされない寂しい女性が1人で自分の体を慰めている。

でも、この顔を見たら、見なかったことにしようと思うんだろうな。


もう1回、シャワーを浴びて今日は寝ることにした。

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