第2章 ブスを愛せますか?

1話 転生(TS)

ここはどこかしら?

黒を基調とした、シックな部屋。病院じゃない。

さっき、爆破に巻き込まれたような。


立ち上がり、鏡をみたときに時間は止まった。

前にいるのは、男性だったから。

ガウンを着た、20代後半ぐらいの美しい男性が立っていた。


どういうことなの?

昔、男性の人生を過ごしたけど、こんなに格好よくなかった。

丸顔で、お腹がでて太っていた姿とは全く違う。


背は高かったけど、こんなに女性受けしそうな姿じゃなかった。

そもそも、何が起きたのかしら。


どうやら、若い男性に入れ替わったみたい。

転生というのかしら。

でも、どうして、どうやって入れ替わったの?


生まれ変わり? いえ、この体は20代後半だから違う。

この体の持ち主が消えて私が入り込んだ、又は交換をした。

そんな感じかしら。


でも、どうしてなの?

そんなことあり得ないでしょう。


足元にあるゴミ箱に、いくつもの手紙が捨てられているのが見えた。

いずれも女性からのもの。

楽しかった、また会って、今度は抱いて欲しいというものまであったわ。


AQUAでの夜は忘れられないという手紙。

AQUAをネットで調べると、ホストクラブがでてくる。

そのサイトでは、1番人気ホストとして、目の前にいる男性の顔がでてる。


今は何時かしら。

お昼の3時。窓を開けると、高層マンションのベランダから街が広がる。

テーブルに置かれたスマホをみると、ここは新宿5丁目みたい。

時間も、だいぶ昔に戻っている。

空気は少し車の排気ガスぽい。


ホストって、出勤時間は何時なんだろう。

スマホのアラームをみると、17時半となっている。

ここから歩くことを考えると18時半ぐらいに出勤ね。


男性としての生活はそれなりに知っている。

ホストクラブのページの自己紹介では、メイクはしないと書いてあった。

メイクしなくても肌がキレイということ。楽で助かる。


私は、おそるおそるホストクラブに行ってみたの。

すでに、5人ぐらいの男性がいて、挨拶をしてくる。

少しいつもと違うと気づいたのか、イメチェンですかと笑いかけられる。


何がどこにあるのかわからない。

そんな姿を見て、具合が悪ければ今日は休めばなんて店長が声をかけた。

いえ、大丈夫と答えて、控室で接客の声がかかるのを待つ。


開店と同時に声がかかった。

陽菜という女性からだと言っている。


女性の気持ちは分かっている。

だから、よくわからないけど、ホストを演じることにした。


きらびやかな世界。絨毯やソファーも上品。

席で待っていたのは、若くてキレイな女性だった。

エレガントなワンピース姿。


以前の人生でホステスみたいなことはやったけど、ホストは初めて。

女性を褒めて、気持ち良くさせるのかと思っていた。

相談にのってあげたり、笑顔で見つめたりとか。


普通の女性はわからないけど、この女性は違った。

最初から、女性から積極的。

すぐに体を寄せて、手を握ってくる。


私の手をとり、自分のバストに当てる。

その後、私の手を自分のモモの上に置き、両足の中に入れて、私の顔を覗き込む。


ずっと、今日、起きたこととか、今日も素敵とか話し続けていた。

私が、話す隙間も与えないぐらい。

ずっと、私のことを上目遣いで見つめながら。


ボーイが持ってきたシャンパンを開ける。

1時間ぐらい経ったころかしら。

女性が私の耳元で囁いた。


「今日はドライなのね。そんなツンデレも好きよ。ねえ、アフターでどこか美味しいお寿司屋さんに行こうよ。」


そんなものかと思っていたら、女性はボーイを呼んだ。

これから、私をアフターで連れて行くって。

ボーイは深々と頭を下げ、席を外した。


5分程経つと、ボーイが何やら紙を持ってきた。

そこには120万円と書かれていたの。びっくりでしょう。

さっきから、何もしていないのに、こんな金額なの?

多分、これからの時間もチャージされているのね。


目の前の女性は、違和感もなくカードで支払う。

そして、私の手を取って、立ち上がった。

クラブの店長も違和感がない。

おそらく常連なのね。


ビルの外に出ると、ネオンで眩しい。

まるで昼間のようね。こんな世界は初めて。

夜の新宿歌舞伎町は知っていたけど、行ったことはなかったもの。


その女性とは寿司屋に行き、お金は全額払ってくれた。

もと弁護士でお金持ちの私でさえ、あまり食べたことがない高級寿司。

これも、高いに違いないけど、なんの躊躇もなく支払っている。


そして、その晩は、ホテルでその女性と寝た。

不思議と、その女性を抱き、エッチをすることができたの。


もとは男性だったから、経験はある。

でも、体が若いからかしら、力強く続ける自分がいた。

そして、昔ほど嫌な感じはしない。


というより、女性を貫きたいという気持ちに満ちていた。

普通の男性は、こんな感じなのかしら。

目の前の女性は今夜も良かったと喜んでくれている。


すべてお金を支払ってもらい、こんなんでいいのかしら。

おそらく、この体が持っている才能の対価なのね。


私は、半年ほど、こんな生活を続けた。

そして、昔の苦労なんて忘れて、驕り高ぶっていたんだと思う。

将来への夢とか、信念もなくなって、ただ目の前の快楽だけを楽しんでる。


昔は、あれだけ苦労もしたのに。

人の気持ちに寄り添うことを学んだのに。


でもしかたないんだと思う。

だって、こんなに簡単にお金がもらえて、楽して生きていけるのだから。


昔に戻ったみたいだから、まだ日本が中国に売り渡されることはない。

でも、売り渡されるとしても、今の自分には関係ないと言ったに違いない。

僕は、どの国であろうとモテるんだから関係ないと。


何十年も経験したことを、どうしてか一瞬にして忘れていた。

体が変わるって、こういうものなのか。

前は、身体自体は変わっていなかったから、気づかなかったのかも。


毎晩、クラブにでかければ、女性が僕を褒め称えてくれる。

陽菜も、いつも大金を支払い、僕は毎月、クラブで1番の成績。

適当に時間を過ごせば、毎月、かなりのお金が手に入る。

女性は、全て僕を尊敬し、愛して、お金を払ってくれるんだと疑わなかった。


昔、男性だったころのまじめな生活はバカバカしいと感じた。

そして、女性としてお金がなく闇バイトした時間もそう。

こんなに楽しくて、お金に不自由なく過ごせるのが当たり前だと思っていた。

昔のことなんてすべて夢だったんだと。


半年だけなのに、考え方がこんなに変わっていることに驚いたこともある。

あんな苦労を経てきたのに、今は何でもできると自信があふれる。

気持ちの変化を抑えることはできない。


人間は忘れやすい生き物なのかもしれない。

反省せず、学ばない生き物なのかもしれない。


僕を褒め称える女性達がくだらない生き物だとさえ思い始めていた。

だって、そうだろう。

体も含めて、ただ、僕になんでも捧げたいと言うんだから。


僕は神様だ。

人間とは、経験から学ばない生き物なのかもしれない。


その時は、とんでもないことが起きるなんて思ってなかった・・・。

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