6話 なり代わり
翌日の朝に整形をお願いした医者を訪問したの。
「あれあれ、すごい怪我ですね。手当をしましょう。でも、派手にやりましたね。どうしたら、こうなるんですか?」
「ちょっと、言えないことがあって。」
「まあ、プライベートな事情にまで関与しませんが、DVとかだったら訴えた方がいいですよ。ところで、もう、昔の面影はないですね。顔だって、ぷっくらとして小顔になっている気もする。まあ、腫れているのかもしれませんけどね。ただ、すっかり女子大生にしか見えません。ただ、そろそろ若年化は止まってきたようですね。あと半年、そう3歳ぐらい若返ると止まりそうです。卵巣が感じる年齢と、見た目の年齢が同じになったということなのかもしれません。そうすると、これから歳をとることになるかもしれません。」
「よかったです。これ以上、若返るとどうしようと困っていたところなんです。」
「ところで相談があるのですが。」
「なんですか?」
「私の知り合いに、女子高生のお嬢様が行方不明の親がいまして。捜索願も出したらしいのですが、警察も、死亡したような事実がないので、家出をしたんじゃないかと、今は何もしれくれません。そんな中、奥様がお嬢様が亡くなったんじゃないかとノイローゼになってしまい、旦那様が困ったと悩んでいるんです。」
「で、私とどう関係があるんですか?」
「旦那様が、誰でもいいので自分の娘として一緒に暮らして欲しいと言っているですよ。」
「普通、娘はまだ死んでないって、信じ続けるんじゃないんですか?」
「奥様が、このまま何もしないと自殺しちゃうと心配しているらしいんです。」
「いくらなんでも、私が娘じゃないって気づくでしょう。」
「いや、買い物にでても、出会う女子高生に声をかけて、娘に向けて言うように、帰ってきなさいとしがみつくらしいんですって。君と暮らしても気づかないと思いますよ。それに、旦那さんからは、君の写真を見せたら、実の娘さんと似ているって言ってました。背も偶然、同じぐらいらしいし。」
「もう、そこまで話しが進んでいるんですか?」
「まあ、君が嫌だったら断りますけどね。でも、この家の娘になれば、君の戸籍問題はなくなるんですよね。今、君は戸籍上、何歳でしたっけ? 女子高生として人生を再出発できるんですよ。これからは見た目と、社会上の年齢が一致する。保険証だって持てるでしょう。」
たしかに、戸籍の問題は残っていた。
闇バイトの組織からも逃げられる。
「先生は、その旦那様のご友人なのですか?」
「いや、実は飲み屋で、たまたま横に座っていて、悩みを大声で話しているのを聞いたんです。それでぴーんときたんです。君を紹介すればいいってね。それで相談なのですが、私もメリットを得たい。みんながWin-Winになれるようにね。」
「やっぱり、慈善活動じゃないんですね。それで、何をして欲しいんですか?」
「君の年金をもらいたいんです。私を年金受領の代理人として指定して欲しい。君はまだお金をたくさん持っているようだし、これから社会人になってまだまだ稼げる。誰も損しないいい提案だと思うんですけど。」
この部屋を見渡す。
これまで気にもしなかったけど、それほど裕福ではなさそう。
あまり儲かっていないのかもしれないわね。
悪い人でもなさそうだけど、お金が欲しいんだと思う。
ところで、私の年金は私のものだけど、これで戸籍の問題はなくなる。
そのお父様も、お母様も幸せな生活を送れる。
たしかに、いい案ではあるわね。
私は、同意し、先生が出した委任状に記名押印をした。
翌日、指定された家に行ってみた。
渋谷の松濤にある大金持ちの家。
この周辺は大金持ちが多く、地区で警備員を雇っている。
高い塀で中の生活は隠されて、分からないの。
歩くだけで警備員に睨まれる、そんなエリア。
佐久間という表札の家に来た。
厚いコンクリートの壁にあるインターフォンを鳴らしてみる。
「南崎先生からご紹介を受けた者ですが・・・。」
「おお、来てくれたんだね。里見、紬衣が戻ってきたよ。早く、来て。」
私は、佐久間 紬衣として生活をするみたい。
紬衣、男性の頃には考えられないぐらい若い名前。
でも、響きはいい。
門の扉が開き、階段を登っていくと、玄関は二重扉となっていた。
玄関が開くと、目の前はそれだけで20畳ぐらいある玄関。
ドアの上にある大きな窓から陽が入り、明るく開放的。
「え、紬衣、戻ってきてくれたのね。これまで大変だったでしょう。これから、使用人に、紬衣が好きなグラタンを作ってもらうから、待っていてね。それまで、自分の部屋でゆっくりしていて。」
私のことを見ても、紬衣だと疑うことはない。
不思議な感覚。
リビングの奥にある赤い絨毯に覆われた階段を上がる。
階段は2方面から湾曲して2階で合流する作りで、洋館みたい。
リビングは吹き抜けとなり、その上には2階がない開放的な空間。
2階にあがると、部屋は3つと、お風呂、トイレがあるようだった。
その下に、キッチン、使用人部屋、倉庫とかあるらしい。
これからは金持ちとしての生活が保証されているみたいね。
お父様が私の部屋に通してくれた。
女の子らしいピンクが基調の部屋。でも広い。
窓からは、陽の光が溢れんばかりに差し込む。
ベットは、キングサイズで、シーツには可愛らしいヒラヒラもある。
防音になっているのかしら、大きな音響セットもあった。
そして、クローゼットには多くの可愛い服やブランド物のバックが並んでいたの。
引き出しには、アンダーウェアが綺麗に畳まれてしまわれている。
恵まれた環境なのに、どうして家出なんてことしたのかしら。
親に暴力を振るわれているなんて感じはないわよね。
学校でいじめられているとか?
それとも、本当に殺されているの?
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