白百合神話倶楽部

@2lie_kanai

Code:0 日常

六月にもかかわらず、その日は雲ひとつ見当たらないほどの晴天だった。


刑事たちが忙しなく動き回る署内のデスクで、歳相応にくたびれたスーツの男、久櫳は一枚のコピー用紙を片手に、二ヶ月ぶりに何度目かになる怒号を響かせた。


「まぁぁぁあたお前らかあああっ!」


同僚も部下も、上司でさえも、すでに慣れたことと呆れ顔で、今年入署してきた新顔の刑事だけが遠慮がちに声をかける。


「あの、久櫳さん。大事な事件の真相がグシャグシャになっちゃいますよ。」


事件の真相、もとい、事の顛末は黒のマーカーペンで粗雑に書き殴られ、何の予告もなくFAXで送り付けられてきたものだ。


今どきFAXでやり取りすること自体が物珍しいが、何度やめろと伝えても、彼らがそれを止めることはなかった。


いや、本当は、彼らが真相を見つけるよりも早く自分たちで事件を解決して然るべきなのだ。


そんな当たり前のことを、どこにでもある薄い紙一枚に指摘されるような屈辱に、久櫳の手は無意識に怒りに震え、コピー用紙には幾重にもシワが寄ってしまっていた。


彼らから送られてくる“それ”は、推理小説における一方的なネタバレのようなもので、警察の努力の一切を嘲笑うような、ただのお遊びの産物だった。


しかし、その内容が正確であることは前例からも疑いようがなかった。


殴り書きを、捜査一課のエリートたちが馬鹿真面目になぞって答え合わせする必要があるくらいには。


それでも一応、筆跡鑑定だけは毎回行っているが、特徴的な「Q.E.D.」という文字で締め括られる挑発的な文字の羅列を、何度も見てきた久櫳が見間違えるはずもなかった。


彼らが現れたあの日から、この一連の流れを何度繰り返したことだろう。


今回もまた、探偵気取りの一般人にしてやられたというわけだ。


これだけが事件解決という喜ばしい出来事に優るほどの致命的な汚点だと久櫳は思った。


「裏が取れたらまた忙しくなるからな。意地を見せるぞ。」


半ば叫び声に近かったと思う。


声を出さなければやっていられなかった。


俺の仕事は後始末しかないのか、とため息をつこうとして気を取り直す。


不甲斐ないのは警察一同の総意だ、自分だけではない。


まったく、清々しいのはこちらを見下ろす青空と、悪趣味な名前の謎解きクラブだけである。


久櫳は思わず悪態をつきたくなった。

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