第11話 子供たちの成長は魔王もおそろしいようです

「大丈夫って言ってたから、もう大丈夫なんだよディナ」


エリーお姉ちゃんに今日は大人しく帰りなさいと言われてその帰り道。

ディナは未だしょんぼりとしていた。


「ヴィラもごめんね、私が余計なこと考えてたから。せっかく剣術できるようになってきたのに。トラウマになってない?」

「んー平気。ディナ相手だったから大丈夫だったというか、寧ろ冷静になれたというか」


ディナだから平気だった。

これがもしも別の人だったら、どうなっていたかわからないけど。

ぶつかる、と思った時自然と木剣を無理やりでも引っ込めようとしていた。

シータお兄ちゃんが間に入っていなかったら、ディナ相手なら抱えて倒れ込むくらいはできそうだった。


「そろそろ立ち直ってよ。ディナが落ち込んでるとなんか気持ち悪い」

「気持ち悪いって何よ!私だって落ち込む時あるもん!」


ディナが落ち込んでるのってやっぱり変な感じがする。

僕は思わず笑ってしまった。誰かを傷つけた時の僕ってこんな感じなのかな。

面倒くさいな。


「何よ」

「……おじさんがね、あ、僕が村に来る前に育ててくれたおじさんの事ね。僕が全然能力を制御できなくて、おじさんの事、しょっちゅう吹き飛ばしちゃってたんだ」


部屋から出ようとしたらかち合っちゃったり、飲み物が入ったコップを受け取ろうとしたら冷たくて思わず弾き返しちゃった事もあった。


「毎日ごめんなさい、ごめんなさい、って言ってたら今日とても眠くて何も手がつかなかったんだ。お陰で目が覚めた、ありがとよって。逆にお礼を言われちゃったんだ」


今思い返すと、おじさんは僕が傷つかない方法をいっぱい考えてくれていた。


「今日のは確かに危なかったけど、僕はなんとなくだけど力抑えながら動けるようになったって実感できたし、ディナがいつも稽古の相手してくれるからすごく助かってるよ」


僕はディナの手を掴んだ。


「それにほら、ディナになら自分から触れるようになった」


うん、やっぱり緊張とか何もない。怖いっていう気持ちも湧かない。


「ね?だから今日の事は大した事ないんだよ。むしろ、今日もありがとう」

「………」


あれ?ディナが硬直している。励ましたつもりだったんだけど、何か間違えたかな。


「ディナ?」


どうしたんだろう。呆然としているというか、なんか顔が赤い。


「熱でもあるの?ディナって熱出るの?」


シータお兄ちゃんからディナが頑丈なのは皮膚だけで目とかは普通の人と変わらないし、病気にはなるって聞いたことがある。

力というものは万能ではないのだ。


「……出たことはある、けどっそうっ、じゃないっ、けどっあ”ーーーーー」


熱があるのか確認するため額に手を当てると突然叫び始めたディナ。


「そういうのいいから、そういうのなし、本当、その、もうわかったから!」


ディナに腕を掴んで腕を降ろされてしまった。

勝手に触ったのが良くなかったのか。

でもいつも寝癖ついてるとか言って治らない癖毛を引っ張ったりそっちから触ってくるんだから不公平じゃない?


昔初めてディナに出会った際、いきなり遊びに行くよと部屋から無理やり連れ出されたことを思い出す。

大人より遥かにか弱い女の子。一瞬で壊れてしまう、傷つけてしまう、と怖くて必死に触らないようにしていた。

でも連れ出されてみたら、それはそれは中々に頑丈な女の子で。

弾き飛ばされても起き上がり小法師のように立ち上がって、今のもう一回やって!とキラキラした目で言ってきた。

その後調子に乗って壁をぶち抜いていたから怒られていたけれど。


ディナは僕が遊んだことが無いとわかれば引きずってでも僕を連れ出してくれる。

やり方は乱暴だけど、いつもちゃんと誰かの事を考えてくれる優しい女の子。


「ディナ、お腹すいたから早く帰ろ」


手を繋ぎ引っ張るように走り出す。

ディナには悪いけど、立場が逆になったようで嬉しくなってしまう。


「次はうまく避ける練習とかもできるように教えてもらおうよ」


「そうね」


無理やり繋いだ手は今度は払われなかった。

振り返ると夕日がディナのいつもの笑顔を照らしていた。



〜後日、魔王城にて〜


「最近、サイハテ村付近の魔物が激減しているとの報告が」

「そうか。原因は」


魔王と宰相は前回の大きな襲撃(村長親子の魔力放出パレード)により心の中で突っ込むことさえできない程疲れ切っていた。


「以前剣術をしていた子供二人が飛んできたボールから避ける練習をしているらしく、そのうちの少年が飛ばしたボールが弾丸となってこちらに。そのまま魔物が乱獲されているようです」


「しばらく近づかないように。食糧は?」


「はい、備蓄していたものがあるためしばらくは大丈夫かと。魔物もこちら側に逃げるようになり、しばらくすれば生態系も落ち着くかと思われます」


部下は少し暗い顔をした。


「ただ……流れ弾に当たって全治1ヶ月となった平民もいた為、研究者から個人でも普段から物理結界を張ることのできる術式を開発したいとのことで」


「許可する」


前回は木をも飛ばす風圧。

今回は死傷者を出す豪速球。


今もこのような被害が出ているのだ。

もし村の外に出てきて魔王城攻略、なんてことを考え始めたら。


「子供の成長が怖い」


魔王はもうすぐ成人となる息子のことを考えた。

最近はサイハテとの攻防で構ってやれずにいたので、食事にでも誘おう。

そして今よりも更に鍛え上げねば。


サイハテが成長する前に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る