ほろ苦くてほんのり甘いハッピーエンド短編集
カタリ
ep1 あいつはただの――
第1話
「達也、カラオケいくから千円ちょうだい」
「わかった」
放課後の教室。女子グループの高瀬凛に呼び止められた俺は、財布を取り出すと千円札を一枚出して彼女に渡した。
「ん。ありがと」
凛の周りにいる女子たちがニヤニヤ笑いでこっちを見ている。居心地が悪い。
「達也くん、お金持ちじゃーん」
「……別に金持ちじゃないって」
絶対にそんなこと思ってないだろう。からかっているのが丸わかりだ。
「あんたたち、達也に絡んでないでカラオケ行くわよ」
「はーい。じゃねー、達也くん。まったねー」
「ばいばーい」
凛と女子グループが教室から出ていきほっと一息つく。俺も自分の席に戻り、カバンを手に取った。
「なあ佐藤。ちょっといいか?」
「ん? 委員長。なんか用か?」
さあ帰ろうというところで今度は委員長の田中から声をかけられた。今日はよく話しかけられる日だな。
早く帰りたいなぁと思いながら田中を見ると、思いつめたような真剣な顔をしていた。なんだいったい。
訳が分からず困惑していると、田中が重々しく口を開いた。
「――もしかして、高瀬さんに弱みを握られているとか脅されているのか? さっきお金渡していたよな?」
「え」
ビックリした。
「……もしもイジメなら俺も力になるからさ。困ってるなら相談してくれよ」
「あ……、えっと……」
あんまり接点がなかったけど、委員長って意外と良い奴なんだな、と思った。伊達にクラス委員長を押し付けられたわけではなかったようだ。
「凛――高瀬のことは問題ないよ。心配してくれてありがとう」
「本当に? 今日の昼休みだってパシリをさせられていたけど、あれも毎日だよな」
よく見てる。
「あれも俺が好きでしているだけだから、委員長は本当に気にしないでいいよ。――あ、すまん、そろそろ行くわ! また明日!」
「あ、佐藤!」
思った以上に時間を食っていた。慌てて教室を飛び出すと凛たちの後を追いかけた。
*
「あ、達也くんが来たよ。ほら、凛ちゃん」
「……別に言わなくていいんだけど」
達也が追いかけてきた。そんなことをわざわざ後ろを振り返ってまで報告してくる友達の姿に呆れる。
「健気だよね~、ああやって後をつけてくるの。ちょっとストーカーっぽいけど」
「ちょっとー、それ言ったら達也くんが可哀そうじゃーん!」
「でもああやって行きも帰りもくっついてくると、まんまストーカーっぽくない?」
達也の話題でみんなが盛り上がるけど、あんまりストーカーストーカーと連呼されるといい気はしない。
「……早く行かないと良い部屋埋まっちゃうわよ」
「あれ? 凛ちゃん焼いちゃった? 大丈夫だよ、取ったりしないからさ~」
「そんなんじゃないっての」
達也に嫉妬するとかそんなわけがない。
「でもあれだけ愛してくれる彼氏ってちょっと憧れるよねー」
「彼氏じゃないんだけど」
私と達也は恋人じゃない。一般的な彼氏彼女の関係ではない。
――あいつはただのセフレ。ただそれだけ。
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