タイトル未定

侑李

目覚め


輪廻転生を短いサイクルで繰り返し"前世"でやっと天寿を全うできた井浦沙羅。しかし、彼女の魂はまたどこかの世界へ流れ着く。沙羅にとって、過去2度の転生はあくまで自らの意思で選択したものであったが、今回はそもそも転生はもういいと思って、それを管理する神にも会わずじまいだったので、ここで目が覚めた時は動揺を隠せなかった。なお心もそうであるが、その肉体も実際に動揺しているらしかった。どうやら、自分は船に乗っているらしい。そもそもここが現実なのか死後の世界なのかも分からず、ただ呆然とする沙羅を誰かが心配そうに覗き込む。


「艦長、どうかなされましたか?」


(艦長?て事はここは軍艦?)


なるほどそう考えると、恐らく艦長席であろうこの椅子の座り心地も、室内の狭さも妙に揺れるのも説明はつく。どこの世界、いつの時代も軍艦というのはそれほど乗り心地がよくは作られていないのだ。それともうひとつ、沙羅は今声をかけてきた自分の副官らしき人物の顔に見覚えがあった。前世での自らの伴侶だった俊弥にそっくりなのである。とはいえそんな話をこの見知らぬ軍艦の艦橋でするつもりは無い。というかそんな事より何よりもまずは状況を整理せねば・・・・・・


「あ・・・あの、私は誰ですか?この艦は?」


その前世の旦那そっくりの副官らしき人にだけ聞こえるように小さな声で漏らす。今乗っている艦は何かやたら古い軍艦らしいので騒音も多いため聞こえるか分からなかったが、大声でこの艦橋にいる複数人を混乱させてはならないと直感した。幸い、その副官らしき人(どうやらこの人も前世の旦那と同じ三藤姓らしい)は艦長の異変と混乱を避ける意図に気づいてくれたようで


(あなたは井浦沙羅大日本帝国海軍大佐、帝国海軍史上初の女性艦長です。それと、私は海軍中佐三藤俊正、この艦・・・天城型巡洋戦艦二番艦赤城の副長です。現在は本艦の公試中であり、本日は14年6月8日であります)


と、沙羅の知りたい情報をほぼ答えてくれた。さすが戦艦に乗る程の海軍士官、なかなか優秀な人らしい。が、沙羅はこれに更に疑問が生じた。赤城?赤城は確か、自分の前前世の世界と前世の世界の双方とも経緯は少し違えど、軍縮条約の関係とやらでやはり途中で空母になっていたはずで、後の時代に巡洋艦で同じ名前はあったが、戦艦としての赤城など聞いたことがない。それに二番艦という事は一番艦の天城も既に完成している事になる。となると、この世界線ではあの大震災はなかったのか・・・いや、そもそも大丈などという元号も聞いたことはなく、それが西暦や或いは皇紀では何年なのかも分からない。じゃあこの赤城は一体・・・更に混乱する沙羅だが、この公試とやらが終わって陸に上がってから、とりあえず話の分かりそうな三藤中佐にもっと詳しい事を聞くことにした。


「今ですか?西暦だと確か、1902年でしたかね」


「1902・・・私達の乗る赤城ってどっか外国ってかイギリスから買ったんだっけ?」


「はい?なぜ我々がエゲレスからわざわざ戦艦を買うのですか?逆なら分かりますが」


「え、いや、むしろ逆に、今が1902年でしょ?だって、日本の国力的に駆逐艦とかならまだしも、まだまだ純国産の戦艦を造るなんて・・・てか天城型の前に三笠は?薩摩は?河内は?」


「・・・失礼ながら、井浦大佐殿は何か最近、変なもの拾い食いしませんでした?風呂場に生えた変なキノコとか・・・」


「私はそんないやしんぼじゃにゃあぞ!だから言ったろが、私は別の世界から生まれ変わってきたって!」


「はぁ・・・まぁ、そういう事にしておきましょう」


沙羅は興奮して思わず前世のお国言葉が混じっているが、三藤中佐は少しピクりとしただけで特に気に止めず、「私だけは味方ですから大丈夫ですよ」とか何か可哀想な人を見る目をして、この世界の歴史を教えてくれた。三藤中佐の話をかいつまんで要約すると、どうやらこの世界の日本は西暦1300年代辺りから沙羅の居た前世とは全く違う歴史を辿り、太平洋で覇権を握る大帝国らしい。ちなみにこの世界の産業革命は中国で起こったが、その恩恵を日本が上手く掠め取ってアジア、環太平洋地域での覇権を握ったとの事だった。実際、赤城が公試していたのはてっきり横須賀沖か四国沖、日本本土近海だと思っていたら、帰港して見てみれば、そこはどう見てもハワイ、オアフ島の真珠湾だったからそれは沙羅も三藤中佐の話を信じざるを得ない。


「この世界の日本は超大国か」


「といっても最近は新大陸の旧植民地人達(アメリカの事らしい)が力をつけ、脅威になりつつありますがね、その大佐殿の言う前世とやらでは違う歴史なのですか?」


「ええ、全くね・・・この時期は何倍もの国力差があるロシアと緊張が深まって、ロシアと対立する大国イギリスと同盟結ぶって頃だったし、その後の世でも海外領土はこっちより少ないし・・・あ、てか今の中国とかどうなってるの?」


「中国・・・山陽とか山陰とかの?」


「違う違う、本土の隣の大陸の国よ、今はやっぱ清王朝?」


「あぁ、清?とかいう王朝名ではありませんが、恐らく中華帝国の事ですよね?我が国の主導するアジア太平洋連邦の構成国で帝国最大の同盟国ですよ」


「そうなんだ・・・朝鮮は?」


「え、朝鮮は南側の一部帝国領を除いて中華帝国の一部ですよね?沙羅ちゃん、本当に記憶が・・・・・・」


「最初から言ってるでしょ、この世界の井浦沙羅としての記憶はないって。てか今私のこと自然に沙羅ちゃんって呼んだけど、私と貴方は結構な昔馴染み?」


「そうですよ・・・小学校の頃、あなたがベースボールするぞって言って、怖い親父のいる家のガラスを割って僕も一緒に怒られたり、隣の島に泳いで渡ろうとか言って足がつったのか溺れて助けようとした僕を道連れにしようとしたり・・・そんな事も忘れたの?沙羅ちゃん」


実際、覚えてないが前世でも俊弥に似たような事はしていたので、私はこっちの世界でもか・・・と思い当たる節はある沙羅は、そんな事もあったねと頭を下げておく。そして、今の話からすると、どうやらこの世界の自分と俊弥そっくりの俊正はこのハワイで生まれ育って、土地は違えど前世と同じ幼なじみの同級生らしい事が分かる。自分と俊正が海軍に入った理由もおそらく島では海軍さんが身近だったからだろう、それで艦長と副長クラスになっているという事は今の自分達は結構な歳はいっているはずだが、目の前の俊正の顔はやたら若く、前世の新婚の頃の俊弥とあまり変わらないように見えるのだ。


「ねえ俊ちゃん」


「なに?」


「私達って今何歳だっけ?」


「沙羅ちゃん、呆けるにはまだ早いよ・・・この間お互い35歳の誕生日祝ったばかり、歳の事は言うなって自分が言ってたばかりじゃない」


「35?!それで私達佐官・・・になれるのは分かるけど、30代で戦艦の艦長副長って普通なの?!」


「そりゃ帝国海軍は完全実力主義なんだから年齢は関係ないでしょ、駆逐艦の艦長には20代の子もいるし」


「そうなんだ・・・まあ実力社会なのは前世も一緒だったし実咲も20代で艦長だったしな・・・」


「実咲ちゃんがどうかした?」


「え、実咲もこっちの世界いるの?!」


「うん、僕たちの幼なじみで、3人で一緒に海軍入ったでしょ、今は内地にいてあまり会えないけど」


「そっか、実咲も・・・それならこの世界に転生してよかったかな」


「まだそんな変な話し続けるつもり?」


「いやいや本当なんだって!」


「ふぅん・・・」


「全然信じてない!」


「いや、だって昔から沙羅ちゃんは急に変なこと言ってからかってきたりするし」


「そりゃ(前世でもそうだったし)そうだけど・・・で、俊ちゃん、私達って結婚とかしてる?」


「はぁ・・・結婚してくれなきゃ水雷艇で戦艦に突っ込んで死ぬ!って脅迫めいた事してきたのはどこの誰でしたかね?」


「そ、そうよね・・・よかった」


「・・・もう今日は帰ろう。子供達には、ママはちょっと訓練中に怪我しちゃって記憶が混乱してるって僕から言っとくから」


「あ、ありがとう俊ちゃん・・・」



そして帰宅して、やはり前世での子達に顔は似ているが何かが違う子供達に迎えられて、ベッドで1人考える沙羅。


(なんやこの世界は、なんで私この世界に生まれ変わったのか・・・前世そっくりの家族・・・て事は実咲もその家族も多分こっちの世界でもあの顔で・・・・・・)


「まあ、そんな悪い世界じゃないか・・・」


ともあれ、これまでの転生先での事を考えたらこの世界では自分はそんな大変な事に巻き込まれずに済むかなと、それならよかったかなと考え眠りにつく沙羅であった。














































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