第18話 ダンジョン・コア
5歳の誕生日は、メリアの家族も来て、盛大に祝ってもらった。
もう5年か。
エルフたちにとってはまだ生まれたての赤ちゃんと変わらない年齢なんだろうけど、少なくとも俺の中では、随分と成長した気がする。
「レイちゃん、5歳の誕生日おめでとう。もうこんなに大きくなったのね」
母さんが差し出したのは小さなペンダントだった。
銀の鎖に通されたリングが、かすかな存在感を放っている。
「毎日一生懸命魔法の練習をしているものね。だから、もっと安心して練習ができるように、これを作ったの」
母さんが優しい声でネックレスを俺の首にかけた。
「これには特別な魔力が込められているの。もしレイちゃんの魔力が尽きそうになったら、代わりに魔力を消費してくれるわ。でも無茶はしないでね。あくまでも念のためよ。倒れないことが一番大切なんだから」
「うん、分かってるよ。もう心配かけないから」
「父さんはからはこれだ」
そういって、木のような鉄のような、不思議な素材でできたダンベルをくれた。
「これはつかむ部分に込めた魔力で重さを変えられるんだ。これで筋力と魔力の使い方、両方鍛えられるぞ」
実際に手に取ってみると、魔力を込めることで重さが変わっていく。
これなら魔力の調整も練習できる。筋トレ好きの父さんらしい、でも魔法の練習も考えてくれた贈り物だ。
「父さん、ありがとう! 早速使ってみたい!」
「ははは! レイも筋肉の素晴らしさに目覚めてきたみたいだな」
「さあ、さっそくご飯にしましょう」
テーブルには、母さんの作った料理が所狭しと並んでいた。
エルフ伝統の野菜料理に、滅多に出ない肉料理。
デザートには色とりどりの果物を使ったお菓子まで。
普段は控えめな母さんが、今日という日のために腕によりをかけてくれたんだ。
「アタシも手伝ったんだからね!」
メリアが得意げに言う。
どうせ野菜を切っただけだろうな。
そう思いながらもニコニコと相づちを打っていると──
「これ、アタシが作ったの! 疑ってるでしょ?」
そういって鶏肉を焼いたと思われるものを差し出してきた。
なんで俺の考えていることが分かるんだろう。
メリアの不思議な読心術は相変わらずだ。
プレゼントはどれも嬉しかったし、料理はどれも美味しかった。
けど、俺にはもう一つ欲しいものがあった。
心の中で何度も言葉を選び、ようやく切り出す。
「あのね、もう一つお願いがあるんだ」
両親の顔を見る。
「僕もダンジョンを作りたい。だから、ダンジョン魔法の魔導書が欲しい」
両親は驚いた表情を見せた。
でも、その目には期待の色も浮かんでいる。
まるでこの日を待っていたかのように、二人は顔を見合わせ、小さくうなずき合う。
母さんは立ち上がると、奥の部屋から、古めかしい小さな箱を持ってきた。
「いつかこの日が来るんじゃないかと思っていたわ」
箱を開くと、中から淡い光を放つ赤い結晶が姿を現した。
手のひらに乗るほどの大きさだけど、その中には深い魔力が秘められているのが分かる。
「これはダンジョンコアの欠片よ。レイちゃんのために、練習用としてずっと取っておいたの」
ダンジョンコア?
俺は結晶を受け取ると、それらを眺めまわす。
見た目は赤い結晶の欠片だ。
「全てのダンジョンは、ダンジョンコアによって作られるのよ。まずはこれで勉強しましょう」
これでダンジョンが作れる……。
俺はより精神を集中して欠片を見つめた。
すると、表面にはものすごい細かくて精緻な魔力がびっしりと流れているのがわかった。
極細の線で作られた電子回路みたいだ。
どうやら中にまで回路は通ってそうだけど、今の俺の技術では作ることはもちろん、読み解くことすらも難しい。
ただ、ひとつだけ読み取れたところがある。
これはたぶん起動ボタンのようなものだろうか。
すべての魔力回路がここから始まっているように見えるんだ。
早速試してみよう。
「ゲートオープン!」
言葉と共に、部屋の中に光の門が現れる。
母さんと父さんが同時に驚いた。
「なんだと!?」
「見ただけでもう転送門を……!」
「え? どうしたの?」
驚く俺に対し、母さんが微笑んだ。
「……いいえ。なんでもないわ。ゲートオープンを知ってるなんて、ずいぶん勉強していたのね」
「勉強したというか、このコアの欠片っていうのに流れる魔力をみてたら、そうやるんじゃないかなって感じたんだ」
「そう。見ただけでそこまでわかるなんて、やっぱりレイちゃんは天才ね」
そう言って母さんが褒めてくれた。
ダンジョンを作る事は、前世の俺の夢でもあったからな。
開いたゲートを通ってさっそく中に入ってみる。
そこは小さな洞窟のような空間だった。
部屋の中央には静かに浮かぶ赤い水晶がある。
さっき母さんが渡してくれたダンジョンコアの欠片だ。いつの間にか移動していたらしい。
水晶に触れると、空中にホログラムのような表示が浮かび上がった。
「うわ、マルチディスプレイみたいだな」
「まあ、これは……」
「………………」
いつも落ち着いている母さんが珍しく目を見開き、父さんは口をポカンと開けていた。
空中のホログラムにはまだ何も映っていない。
まだ何もないけど、これが俺のダンジョンなんだ。
そう思うと、感動が胸の奥からせりあがってきた。
「ありがとう、お母さん、お父さん!」
母さんが優しく微笑み返す。
同じように笑みを返す父さんの頬は、若干引きつってる気がした。
──────
というわけでようやくダンジョンつくりに挑戦します。
タイトル回収するのに18話もかかってしまいました。5話もあれば余裕と思ってたのに。なんでこんなことに。
もし短編を読んでくれてる人がいたら、やっとかよと思ったかもしれないですね。
ここからは多少物語も動くと思いますが、これからもスローライフらしくマイペースに進めていきたいと思います。
カクヨムコン10にも異世界ライフ部門で参加中なので、良ければ応援にハートや星なんかをくれると嬉しいです!
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