第7話 レベルアップ

 次々に現れるモンスターを撃退していった。


 余裕の戦いばかりではなかった。

 途中、魔力切れで危ない場面もあったのだ。

 そのときは逃げながらも素手で殴り、どうにか敵を倒した。

 そうして数体倒してると、魔力と体力が一気に回復する瞬間があった。

 あれがレベルアップというものか。

 これまでレベルアップの瞬間を経験したことなどなかったが、俺はここにきて初めてそれを体験できたらしい。


「気に入ってくれたかな?」


 不意に少女の声がした。


「魔王ゼイン……ですか……」

「ふふ……わずか一日で、ずいぶんといい顔をするようになったものよ」

「あなたが俺に力を与えたんですね。あの魔法もパワーもスピードも」

「少し違うな。余は数分ほど、おぬしにバフをかけたにすぎん。そういう類の魔法の使い手は、人間にもいるであろう。余は生き残るチャンスを与えたにすぎんのだ」


 どういうことだ?

 ただバフがかかっただけなら、あの最初に放った魔法はなんだったというのか。


「つまりおぬしはバフがかかった数分の間に、モンスターどもを倒してレベルアップを果たした。そして、自らの力でもモンスターどもを倒せるまでに至ったのだ。見事にチャンスをものにしたというわけだな」


 ふふふと笑うゼインは、やはりただの少女にしか見えない。

 大人びた言葉を使って得意げに語る様子とアンマッチで、危うく笑ってしまいそうになる。


「どれ、おぬしの成長を見てみようではないか……」


 ゼインが俺の頭に手のひらをかざしてきた。

 しばらくして「ほう、なんと!」と、驚いたような声を上げる。


「飛躍的なレベルアップを果たしたようだな。だが、それ以上に興味深いのは、おぬしのスキルだ」

「スキル?」

「うむ。おぬしの固有スキルは『ラーニング』。見た魔法や技をコピーする能力だな。しかも余のダークフレアをすでにコピーしておる」


 俺にそんなスキルがあったなんて。

 だからゼインが使った魔法を使うことができたのか。


「しかしラーニングは、相応の魔力量がないと使えない。余がバフをかけたことでおぬしの魔力量が一時的に上がり、ダークフレア程度のものならコピーできた、といったところか」


 じゃあ今まで見てきた魔法をコピーできなかったのは、単純に俺の魔力が低かったからなのだろうか。

 いや、たぶんあの羽付き帽子のせいだったんだろうな。


「それにしてもおぬしのステータス、魔力の飛躍が異常に高い」

「それはたぶん……拷問のようなやり方で無理やり魔力を上げさせられたからだと思う」


 昨日までの俺は、他のステータスに比べて魔力だけが異様に高い状態だったはずだ。

 魔法をまったく使えない、魔界の入り口を封印するためだけの利用価値しかない魔力だった。

 だが、今は違う。

 俺を利用するためだけに拷問してきたこと、必ず後悔させてやる。


「とはいえ、おぬしの今の魔力量でも、コピーできないものは多いだろう。ラーニングは、自身の属性と相性の悪い属性の魔法や能力はコピーできぬ。そこが最大の難点だな」

「魔属性と相性のいいものとなると、かなり限定されそうな気がするんだけど」

「その考察は正しい。特に厄介なのが回復系との相性の悪さだ。余も例外ではない。魔属性は回復系が壊滅的に乏しいのだ。これが勇者の輩との戦いに敗れた、大きな敗因であった……」


 ゼインはため息をついて、天井を仰いだ。


「余はな。あやつらとの戦いに敗れた最後の瞬間、一つの予言を残したのだ」


 思い出を振り返るように語りだす。


「余の肉体が滅びようとも、必ずや第二第三の魔王が現れるであろう。それまで、束の間の平和を楽しむがよい……とな」


 なんか、よく聞くやつだな。

 魔王の捨て台詞の定番中の定番じゃないか。


「だが! 待てども待てども、余の後釜になれそうなやつが一向に育たぬ! このままでは余の予言も、ただの負け惜しみの捨て台詞になってしまう」


 てか、捨て台詞じゃなかったのかよ。

 まあ要するに、昨日お願いされた魔王の後継者の話がしたいわけだ。


「魔王ゼイン……最初にお願いされたことだけど」


 声をかけられ、ゼインがこちらに目を向けた。


「俺はここに転移させられた瞬間から、もとより人間の敵。ただし俺の望みは、あいつらへの復讐です。そのための力が欲しい」

「いい答えだ。それでもかまわぬ。ではおぬしを、正式な後継者として鍛えてやろうではないか。力をつけたのち、魔王リヴィアスを名乗るがよい」


 なんで俺の名前を?

 名乗ったっけ。


「さきほど、おぬしのステータスを見たからな」


 ステータスって名前まで見れるのか。

 便利だな、俺もすでにラーニングできてるかも。

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