第8話 魔王の後継者誕生

 俺が魔王の後継者を引き受けてから、だいたい半年が過ぎた。

 魔界のラストダンジョンは常に薄暗いから、正確には時間の経過が分かりにくいのだが……。

 おそらく、そのくらいは経っただろう。


 その間にやったことと言えば、ひたすらレベル上げ。

 そして魔王ゼインやモンスターたちの魔法、能力のラーニング。


 もっとも、あまり役に立たなそうなものも多い。


 攻撃系の魔法は魔王ゼインからラーニングしたものがあれば、他はなくてもいいくらいだし。

 攻撃魔法以外で使えそうなのは……。

 

 【ネクロスコープ】他人のステータスを確認する。

 【シャドウエンパワー】一時的に全ステータスを向上させる。

 【カオスパージ】相手の防御系魔法を解除する。


 他には状態異常系もいくつかあり、場合によって使いどころがありそうだ。


「リヴィアスよ。もう余がおぬしに引き継げるものはない。本来なら余の最大魔法も渡しておきたいところではあったがな。今のおぬしの魔力ならコピーもできたであろうが、肝心の余が披露してやれんのだ」


 魂のみの存在となったゼインには、かつて使えたのに今は使えない魔法がいくつも存在するらしい。


「だが、おぬしの成長は余の予想をはるかに上回った。生前の余に匹敵するかもしれぬほどよ。レベル上げを続けていけば、自ら強力な魔法を覚えることもできよう」

「晴れて免許皆伝というわけだな。しかし、下界への入り口は相変わらず封印されたままだ。他の入口を探すしかないんだよな」


 そんなものがあれば、だが……。

 このラストダンジョンでひたすらレベル上げを続けてきたが、下界へ戻れなければ意味がない。

 最初は下界へ行く別のルートをゼインが知っているかもと思っていたが、そもそもそんなルートがあったら同じように封印されてるだろうし。


「リヴィアス、余についてまいれ」


 それだけ言うと、ゼインは俺に背を向けて歩き出した。


「どこへ行く?」

「魔王城のとある部屋だ。おぬしが魔王を引き継ぐに値する力を身につけたら、会わせたいと思っていた者がいてな」



 * * *



 魔王城に入るのは、実は初めてだった。

 魔王が倒されてから誰も住んでいないのか、魔族やモンスターの気配がまったくない。

 壁にはところどころヒビが入っていて、床には崩れた石が転がっている。

 しかし魔王の間っぽい部屋や真っ赤な絨毯なんかは、割ときれいな状態で残されていた。


「兵どもが夢のあと……と言ったところよな。魔王城にいた者たちも、今はどこにいるのか分からぬ。下界の人間どもに捕らわれた者もいると聞くが……」


 なんとなくだが、悲し気な声だ。

 魔王ゼインにも、仲間たちを思う心があるのだろうか。


 通路を右へ左へ、階段を上り下り。

 迷路のような魔王城を見物しながら歩き回る。


 やがて、一つの部屋にたどり着いた。

 広々とした部屋の中央に、まがまがしい形をしたベッドが置かれている。

 ベッドにはぼろぼろの毛布が敷かれていて、白骨体が横たわっていた。

 骨の形からして、魔族ではなく人間のようだ。

 白骨が身につけている服の胸元には、見覚えのある紋章が刺繍されている。


「まさか、この人は……」

「そう。かつて余を打ち滅ぼした、勇者ロイドの亡骸だ。戦いが終わったのち、大胆にも余の城に住み着いたふとどき者よ」

「ははは、ひどい言われようだね」


 突然後ろから声がして、驚き振り返る。

 そこには若い青年が立っていた。

 青いサラサラとした髪で、とてもやさし気な目をしている。

 ベッドに横たわる白骨と同じ服装だが、ぼろぼろに汚れてはいない。


 彼の顔は学園の像でも見知っている。

 勇者ロイドもゼインと同じ、魂の存在なのだろう。


「くくく、勇者ロイドよ。今日はおぬしに会わせたい者がおってな」

「その青年のことかい?」

「そうだ。余の予言どおり現れたのだ、第二の魔王がな。この者こそ余の後継者、魔王リヴィアスよ」

「へぇ、念願が叶ってよかったじゃないか。おめでとう、ゼイン」

「ふん。そうやって余裕の態度をとっていられるのも今のうちよ。この者が下界へ行けば、必ずや人間どもを支配してくれようぞ」

「でも、下界へ行く方法がないんだよね」

「だからおぬしに会いに来たのだ。おぬしは生前、密かに下界への入り口を作っておったであろう。余が気付いていないとでも思ったか。その入り口、どこにある」

「仮にそうだとして、キミに教えるわけないよね」


 どっちも顔は笑顔を張り付かせているが、空気がピリピリしてる。

 宿敵というより、悪友同士の意地の張り合いに見えるんだけど。

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