第28話 竜天女の伝承
思わぬ形で、これから私が目指すべきイメージが固まりました。
国王となったアイザックを支える、妻になる。
初代国王のパートナーだった、
「ねえアイザック。もっと竜天女のことを教えて」
「竜天女は元々、この地を治めていた豪族の姫だったらしい。その後、俺の先祖である初代国王がこの地にやってきて二人は出会い、ジェネラス竜国を建国したんだ」
竜天女は、初代国王と並んで建国の英雄としてジェネラス竜国では非常に人気があるらしいです。
人族を排している竜人族たちも、竜天女の話には夢中になるのだとか。
「竜天女で有名な
「それまで竜は、強い存在じゃなかったってこと?」
「この地にやって来る前に、竜はなんらかの理由で力を失っていたらしい。弱っていたところを、竜天女に助けられたとされている」
つい、弱り切ったアイザックの姿をイメージします。
ずぶ濡れになった野良犬のようなアイザックが家にやって来たら、絶対に介抱しちゃう自信があるね。
「竜天女が発見した竜木の葉には、竜にとって栄養源となるものが多く含まれていた。おかげで竜たちは力を取り戻し、いまの姿となったという伝説になっている」
「竜天女は、竜の生活の向上に貢献したんだ。もしかして、私みたいに研究者だったのかな?」
「竜天女が竜へと
まさか竜天女が国母としての先輩であるのと同時に、竜研究の先輩でもあったなんてね。
ちょっと憧れちゃうかも。
「それにしても、少し変わった伝承よね。他国の建国神話よりは真実味があるけどさ」
「他国の建国神話のような作り話というよりは、実際にあった出来事なのだろう。事実、竜木は存在する。ルシルが会議室で飲んだ竜茶は、その竜木の葉から作られたものだ」
「竜木から竜茶が……」
竜の力の源となった竜木。
それを飲んだことで、私は倒れた。
「竜天女は竜と人を繋ぐ存在だ。俺はルシルに、この時代の竜天女になって欲しいと願っている」
「婚約式の
竜天女が、竜である初代国王と結婚した時の衣装が、
アイザックは神話になぞらえて、私という婚約者の正当性をみんなに示していた。
「私、知らぬ間にアイザックに助けられていたみたいね」
もしも
婚約式があそこまでスムーズに進んだのは、アイザックの作戦のおかげでもあったようです。
「いいや、あれはルシルの
「お世辞はいいわよ。ドレスが素敵だったから、きっとそのおかげね」
「そんなことない。ルシルの美しさは俺が保証しよう」
なんだかアイザックが、前よりも積極的になった気がします。
私のことを褒め殺しにしようとしているし、スキンシップも激しくなっている。
「ちょっとアイザック……触るのはいいけど、そういうのはまた今度にしてね……」
「いいや、我慢できない」
「私は病み上がりなんだから、それまで我慢して」
「……わかった」
待てと命じられた忠犬のように、アイザックの動きが止まった。
か、かわいい!
アイザックの正体が竜だとはわかっていても、かわいいと思わずにはいられない。
──竜天女も、竜に対してかわいいとか思っていたのかな。
「竜天女……一度でいいから、会ってみたかったわね」
「…………だが、竜天女には不幸な逸話もある……一応知っていたほうがいいからあえて教えるが、竜天女は若くして亡くなったんだ」
さっきまで甘い雰囲気を漂わせていたアイザックが、急に真面目な顔になります。
「ルシル、気を悪くしないで聞いてほしい。竜天女が若くして命を落としたことで、そのせいでジェネラス竜国では人族の寿命は短くなったという神話もあるんだ」
「神話のせいで人族の寿命が短くなるなんてこと、合理的じゃないわ」
「もちろん真実ではないだろう。だがこの国の人族は大陸の人族よりもひ弱なのも、また事実だ」
そのせいで、体力のある竜人族が最も発言力を持っているそうです。
たしかに、城で働いている人族は、ドラヘ商会のブラッド以外に見たことがないかも。
「竜天女は竜木を竜に授け、竜茶を発明した。その代償として命を落とし、この国の人族がひ弱になった──まあ、あくまで言い伝えだ」
竜木と竜茶、そして竜天女。
私は、竜茶を飲んだことで、生死をさまよった。
竜天女も、竜茶を作ったことで命を落としたと伝わっている。
私が倒れたことと、何か関係があるのかな。
偶然とも思えるけど、それだけの情報があれば調査してみる価値は十分ある。
だって私は、研究者なんだから!
竜茶──ちょっと調べてみてもいいかもしれないわね。
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