第27話 ルシルの竜の爪
私が意識を取り戻すと、すぐそこにアイザックがいました。
アイザックの手が、私の手を握っている。
目が覚めた時に恋人が側にいてくれることのありがたさを、私は初めて知ります。
ずっと、私についていてくれたんだ。
アイザックはいま、とんでもなく忙しいはずなのにね。
それで、私はなんで寝ていたんだっけ?
たしか会議室で竜茶ってのを飲んだところまでは覚えているんだけど──
記憶が曖昧になっている私がボーっとしている間に、医者が呼ばれ、すぐに検診を受けました。
その間に、何が起こったのか私はすべて思い出します。
そうだ……私、竜茶を飲んだら倒れたんだ!
医者によれば、体に問題はないらしいです。
アイザックが竜の爪の
「アイザックが助けてくれたんだね……ありがとう」
「ルシルが俺の爪を持っていてくれたおかげだ」
10年前。
私は竜の山で、竜の爪を拾った。
その竜の爪は、竜の姿をしていた時のアイザックの物だったわけだけど、今回その竜の爪のおかげで私の命は救われた。
アイザックと私の
「それで、私が倒れたのはやっぱり毒が原因だったの?」
「それがどうも、違うらしい。ルシルの竜茶からもティーカップからも毒は検出されなかった」
ということは、過労かなんかで倒れたのかな?
それにしては変な味がしたし、いまだに体が本調子じゃないのだけど。
「どういう手段でルシルを狙ったのか知らないが、犯人がいるのであれば必ず俺が探し出す。ルシルはしばらくは安静にしてくれ」
「そんな大げさに考えなくてもいいよ。私の体調不良かもしれないし……」
とはいえ、毒が検出されなかっただけで、そういった新種の毒の可能性もある。
けれども証拠がないのに、憶測を言うのは危険だ。
まだ、私が狙われたと決まったわけではないのだから。
「ちなみにだが、イライアス第二王子とヴォーテックス大臣は、毒を入れた犯人ではないと容疑を否定している。立場的には怪しいが、二人もあの場でルシルを毒殺するほど馬鹿ではないはずだ」
「ヴォーテックス大臣が開いた会議なんだし、もしもそれで私が死んだら私が犯人ですって言っているようなものだしね」
そう考えると、あの二人は犯人ではないのでしょう。
ということは、私の体調不良が原因なのかな。
「そのうえでイライアス第二王子とヴォーテックス大臣からルシルに対しての面会を希望されたが、丁重に断っておいた」
「助かるわ。まだ誰かと会うほど体力が回復していないから」
あれからずっと、ベッドで寝たきり生活なのだ。
こんな姿、他人に見られたくない。
そういえば私は、丸三日も寝ていたらしいです。
その間、アイザックはもう二度と私が目覚めないんじゃないかとかなり心配していたらしく、現在私への態度が最高潮に達している。
数分おきに「なにか欲しいものはあるか?」「竜の本を持ってこようか?」などと、尋ねてくるものだから、つい欲しいものを頼んでしまった。
その結果、図書室にあった本が私の寝室に積まれ、さらには私の竜研究室が隣の部屋に誕生してしまったのでした。
これで元気になったら、いつでも研究ができるね!
「それにしても……」
アイザックは時間も忘れて、私のためにせっせと尽くしてくれている。
たまには病人になるのも、悪くないかも。
「そういえばアイザックは、竜の爪が薬になるってどこで知ったの?」
竜研究をしていた私ですら、その知識は持ち合わせていない。
ジェネラス竜国に伝わる、民間医療のようなものだろうか。
「竜の爪のことは、
「……ねえ、その竜天女っていったい誰なの?」
「竜天女はジェネラス竜国初代国王の妻であり、初代王妃であり──人族の人間だ」
「竜天女が人間……?」
まさかジェネラス竜国の初代王妃が、人間だったなんて。
だからアイザックは私のことを、『俺の竜天女』と言っていたんだ。
王の妻となる私と、竜天女を掛けていたから。
「ちょっと待って、竜天女が人間で、初代王妃っていうことは……」
「そうだ、竜天女は俺の先祖でもある」
初代国王である竜と、初代王妃である竜天女の子供が、二代目国王になった。
そうして代替わりしていき、アイザックへと辿り着くらしい。
「なら、竜と人との間に、子供はできるんだ……!」
庭園のお茶会で、大臣の娘であるリップルにこう侮辱された。
『神竜族であるアイザックと人族であるルシルの間に、子供はできない』
悔しいと思った。
種族が違うというだけで、私たちは普通の夫婦のような幸せはつかめないのだと。
だけど、違ったんだ。
私とアイザックの間でも、子供ができる。
まだ子供を産むということは考えられないけど、いまはこのことがわかっただけで十分。
「ルシル、どうかしたのか?」
「ううん。良いことが聞けて、ちょっと気持ちが軽くなっただけよ」
アイザックは私のことを、『俺の竜天女』と呼んだ。
そして、私もなりたい。
『アイザックの竜天女』に。
アイザックの妻になる。
ぼんやりとしていたその未来を、この時にやっと私は受け入れることができました。
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