第18話 歓迎されるルシル

 国王陛下らしき人物が、アイザックへと声をかけます。


「アイザック、よくぞ戻ってきた。長い間、お役目ご苦労であった」


 この人たちが、アイザックの両親……!

 そして、ジェネラス竜国の国王夫妻。


 白髪の威厳のある男性と、おっとりした上品な女性が、こちらを見定めてききます。

 国王陛下は人の姿だけど、その正体は竜であるとアイザックから聞いている。

 そして王妃陛下は、小さな鱗が見えることから竜人族であることがわかりました。



「無事に守護竜の責務を終えたようで、我は嬉しく思う。これからはジェネラス竜国のさらなる繁栄のために、王太子として力を尽くしてほしい」


「このアイザック、ジェネラス竜国のために粉骨砕身ふんこつさいしんする覚悟であります」


「期待しているぞ」



 実の父の会話だというのに、アイザックは仰々ぎょうぎょうしい態度を取っている。

 王族というのは、親子の前に王族であるべきだとされているから。


 そういうものだとは知っているけど、なんだか寂しいよね。


 だけど、それは仕方ないことです。

 アイザックの父である国王は、この国では神のように崇められている。


 その理由は、王は人族でも竜人族でもなく、本物の竜だから。


 そんな人物が王になっているのだから、ここジェネラス竜国では国王の権力は絶大らしいです。

 王の鶴の一声によっては、どんなこともまかり通ってしまう。

 逆に王が反対をすれば、それに逆らうことは誰もできない。


 ──だから、少し心配だったのよね。


 もしも国王夫妻が私のことを受け入れないと決断したら、最悪の場合、私はこの国を一人で去る必要があるかもしれない。



 ほほを汗がしたたり落ちます。

 お願い、私のことをどうか受け入れて……!



「それでは、そちらがルシル嬢かな。会いたかったぞ」


「……え?」



 国王は椅子から立ち上がり、大きく手を広げて私に近づいて来ました。


 その瞬間、会場の空気が変わります。

 竜人族たちが、驚いているのだ。



「アイザックから聞いている。我が娘となる人が、こんなにお美しく聡明そうなお嬢さんで、我は嬉しい」



 大歓迎!

 そう言い現わすのに相応しいほどの、好印象でした。



「ルシル嬢、あなたに会える日を心待ちにしていた。我が息子の婚約者として、君を歓迎する」



 これはいったい何が起きているの?

 さっきまでの会場の人たちから冷たい態度を取られていたのが、嘘のよう。



「それにしても蒼竜そうりゅうのドレスを用意するとは、王太子はなかなかやるな。まるで本物の竜天女りゅうてんにょ様とお会いした気分で、こんなに喜ばしいことはない」



 また竜天女。

 その名前がなんなのかはわからないけど、一つだけはっきりしたことがあります。


 竜神族である竜王は、人族だからと私のことを嫌ったりしない。

 むしろ私が人族だからと、喜んでいる感じすらする。


 ──どうやら、竜天女というのがキーワードになっているみたいね。


 竜天女とは、いったい何者なのか。

 あとでアイザックに聞いてみましょう。



「ルシル嬢よ、我のことは義父と呼ぶがいい」


「ありがたき幸せでございます、国王陛下」


「ハハッ! まだ恥ずかしいか、だがそれもいい。次に会った時には期待しているぞ」



 そうして、国王夫妻との謁見えっけんは無事に終わりました。

 ひと波乱あるかもなんて思っていたけど、なんだか拍子抜けしちゃったわね。



「もしかして、アイザックが陛下に何か言ったの?」


「俺はただ、婚約者となるルシルのことを愛していて、他の人とは絶対に結婚しない……もしもルシルと一緒になれないなら国を捨てる覚悟だと気持ちを伝えただけだ」


「やっぱり言ってるじゃん」



 なにが「ご無沙汰しております」よ。

 昨夜のうちに国王陛下に会いに行って、そこで根回しをしていたのね。



「でも、おかげで助かったわ」


「ああ、効果覿面こうかてきめんだったな」



 国王陛下との謁見以降、私を人族だからと蔑むような声はまったく聞こえなくなった。

 これが王の威厳。



「やぱり竜ってすごいわね」


「……なんでその感想になるのか、俺には理解でいないな」



 やれやれといった風に、首を振るアイザック。

 そんなとき、私に近付いてくる人が現れます。



「お初にお目にかかります、ルシル様」


 本当に効果は面覿てきめんね。

 なんと、竜人族の来賓たちが、私に挨拶を求めてくるようになったのだ!


 会場の参加者が、我こそはと私の周りに集まってくる。

 まるで有名人にでもなった気分!


 だから、つい調子に乗ってしまいました。

 竜人族のご令嬢に対して、私は手を差し伸べます。



「あなたの鱗、素敵な模様をしてるのね」


「え……!?」


「触ってもいいかしら?」


「は、はい……!」


 私に話しかけてくる人は、みんな竜人族ばかり。

 竜の血を受け継いでいる彼らと会話をするということは、私にとってご褒美でしかないのだ。


 ──ああ、最高ね!


 私以外のすべての人が、竜にまつわる人物たちばかり。

 つまりいまの私は、大好きなもの囲まれているといっても過言ではない。

 楽しくって、仕方ないわ!


「あ、あのう、ルシル様……わたくし、応援しておりますね」


「ん? ありがとうございます」


 なぜか鱗を褒めてあげたご令嬢たちの様子が変だ。

 私へと敬愛の視線を向けるようになっている。



「ルシル様、今度お茶会にご招待いたしてもよろしいでしょうか?」

「ルシル様は竜を研究されているのですよね。なにかお手伝いできることがあれば、いつでも言ってください」

「その蒼竜のドレス、とてもお美しいです。いったいどちらのお店で購入されたのですか?」

「今度、わたくしの家でパーティーがあるのです。是非、ルシル様にも参加いただきたいですわ」



 ど、どういうこと?


 なんか私、いきなり人気者になったんだけど!



 ただみんなの鱗を褒めただけなのに、いったいどうなってるの!?

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