クリスマスとしあわせ/クリスマスツリーに星願い/みんなのクリスマス/神聖なる星のクリスマス
紙の妖精さん
第1部 第1話 アメリカ
外は雪が降り続けていた。小さな家の窓からは、薄暗い灰色の空が見える。雪は静かに積もり、空気を冷たく、重くしている。街の灯りがほんのりと家々の屋根に映り込んで、すべてが静かな夢の中に包まれているかのようだった。クリスマスの前夜。家の中にいる者たちは、その雪の降る景色に、どこかしら心が安らぐのを感じていた。
台所では、暖房が効いている部屋の一角で、母親が腕まくりをして料理をしていた。彼女はいつものように手際よく、少しだけ焦げ目がついたポテトをテーブルに並べる。時折、窓の外を見つめる。その視線の先には、冷え切った空と、雪の降りしきる道路が広がっていた。家の中は暖かく、しかしその温もりが外に向かって逃げていくようで、どうにも気が気ではなかった。
父親はソファの前で手を動かしていた。クリスマスの靴下を飾るために、きちんと壁に引っ掛ける場所を決めていた。彼は靴下を一つ一つ並べている。それを見つめながら、昔のことを思い出していた。彼が小さかった頃、クリスマスの準備が始まると、家全体がどこかしら活気づいたように感じたものだった。母親が急いで料理を作り、父親が壁に靴下を吊るし、家中にキャンドルを灯す。そんな些細な行動ひとつひとつに、子供心に何か大きな意味があるように感じていた。
だけど今は、何もかもが少し違って見えた。妻も、子供も、暖かい家も、何もかもがただ流れていく時間の中で、つい無意識にこなしているだけのことのように思えていた。そのことに、特に違和感を覚えるわけではなかったが、心の奥底で何かがどこか遠くへと引き離されていくような気がした。
静かな音が台所から聞こえる。母親は鍋をかき混ぜながら、ついでに窓の外に目をやった。雪が降るその風景に、何かを感じていたのだろうか。それとも、ただただ過ぎる時間に何かしら安らぎを覚えていたのだろうか。母親は顔を上げ、父親が靴下を飾っているのをちらりと見る。それに、目を合わせたが、その目には言葉もなかった。ひどく静かな瞬間だった。
突然、家の中で静寂が破られる。電気がパチンと切れた音が響き、すぐに暗闇に包まれる。窓からの薄明かりだけが、部屋の隅々をかすかに照らしている。母親が小さな声を上げた。「あら、停電?」父親もそれに答えるように、無理に明るく言った。「まあ、雪のせいだろう。すぐに戻るよ。」
しかし、停電の予想以上の長さに、二人の間に微妙な空気が漂い始める。外は雪がますます激しく降り、窓の外で見える白い世界はまるで途切れることなく続いているかのようだ。家の中の静けさも、気づけば空気が重く、冷たく感じられるようになっていた。子供は寝室で遊んでいるのか、静かにしたままのようだ。
父親は立ち上がり、手探りで壁に近づいていく。足元を気にしながら、暖炉のところまでたどり着いた。そこに積み重なった薪の束を手に取ると、すぐにマッチを取り出して火をつける。その炎は小さく、しかしすぐに大きく広がり、暖かな光を部屋の中に放った。母親も、ようやく目を落ち着けて暖炉に座った。
暖炉の火の前で、家族が集まる。その温もりは、外の冷たい空気と対照的に、まるで空間を包み込むかのように優しく広がっていった。父親は、暖炉の火をじっと見つめながら、少し肩をすくめるようにして座った。その顔に浮かんだ表情は、これから何をどうすればいいのか、わからないというような、言葉にならない不安を含んでいた。
母親はソファの端に座り、暖炉の火を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。静かな、穏やかな息使い。何も言うことはない。彼女の視線は、火の中に消え入る薪を見守りながら、どこか遠くを見ているようだった。それが、昔の思い出を探しているように見えた。
子供の足音が、階段の上から軽く響いた。彼の声は、今の家の中の空気と完全に調和していた。「寒いけど、クリスマスはやっぱり好きだよ。」小さな声で言うと、父親は不意にその言葉に微笑みを返した。
そして、暖炉の火を囲んで座る。それぞれが静かな気持ちで、家の中の暖かさを感じながら、外の雪が降る様子を見つめている。言葉は少なくとも、その静かな団らんの中に、しっかりとした絆があることを、何となく皆が感じ取っていた。
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