第28話 交戦の日々 その4
放課後。陰鬱な気分で部室に向かう。扉を開けると、ソファで本を読んでいる夏月の姿があった。いつもと同じ光景――のはずだったのだが、目に飛び込んできた彼女の格好に俺は思わず声を上げた。
「その水着……今日のプール授業のやつだよな?」
じろりと目をやるが、夏月はどこ吹く風で本を閉じると、白い競泳水着姿のまま立ち上がった。
「プールの時に言ったでしょ? 今日の放課後は『水着プレイ』だって」
ふふふ、と悪戯っぽく笑いながら、一歩一歩近づいてくる。思わず後ずさり、気づけば俺は壁際に追い詰められていた。
「ちょ、ちょっと待て! やめろって! 俺にそんな趣味はない!」
必死に声を上げるが、夏月は動じず俺の首に腕を回す。
「プールで私のカラダをジッと視姦してたじゃない。エロい女が嫌いじゃないのはわかってる」
「やめろってっ! 俺は、なんというかもっとまともというか正当なプレイが好みなんだ!」
「水着でするAVとか知らないの?」
「あれは特定のターゲットを狙っての物で一般向けじゃないっ! 俺は普通のが……」
「知ってるじゃない。というか、見てもいる」
「…………」
俺が論破されたところで、タイミングよく春葉が部室に入ってきた。
「――!」
一瞬固まった春葉だったが、状況を察するや否や、勢いよくこちらに駆け寄ってきた。そして、夏月を力づくで引き離す。
「離れてっ! 条約違反!」
「あら。私はただ冬也と触れていただけ。エッチしているわけではないから条約には違反してないわ」
「その格好!」
「ちょっと暑かったから脱いだだけよ」
夏月が涼しげに手で自分を扇ぐ仕草を見せると、春葉は「むきーっ!」と小さく叫び、勢いよく制服を脱ぎ捨てた。次の瞬間、白いブラとショーツ姿のまま俺に抱きつく。
「冬也君、惑わされちゃダメ! 肌の触れ合いなら私とすればいいから、痴女の誘惑には乗らないで!」
「どっちが痴女なんだか……」
夏月がぽつりとつぶやくと、春葉が勢いよく睨みつける。
「セクハラ禁止!」
「条約ではこの部屋内での接触は許されてるわよ」
「でも冬也君が嫌がってる!」
「ねえ、どうなの、冬也?」
二人の視線が一斉に俺に向かう。俺は天井を仰ぐしかなかった。
しばらくの沈黙の後、ため息をつきながら部室を後にする。
「……疲れた」
◇◇◇◇◇◇
冬也と春葉が部室を去ったのを確認し、夏月は静かに息をついた。
白い競泳水着の上に制服を羽織りながら、部屋の散らかった様子を一瞥する。春葉との一悶着の余韻が、まだ空気に残っているように感じた。
「これでいい。冬也が学園に戻ってきてからここまで、先行していた春葉と同じラインに立てたと思うわ」
静かに呟きながら、自分の心の内を整理するように言葉を紡ぐ。
「私の存在感は、確実に冬也の中で春葉と同等の位置に達している……そう信じていいはず」
部室の散らかったソファに目をやり、夏月は口元にほのかな笑みを浮かべた。そして、制服の襟を正しながら、心の中で決意を固める。
「そろそろ動き出すべき頃合いね」
その言葉は、部屋を去った二人には届かない。しかし、夏月は確信していた。自分の行動が、冬也と春葉を揺さぶり、確実に関係を変えるものであることを。
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