幼馴染に恋の仲介を頼んだら、その幼馴染が浮気を要求してきた件
月白由紀人
第1話 恋のキューピッド
俺の名前は
これから、その呼び出した夏月に対して告白……をするわけじゃなくて、実は頼み事。俺は、長く真っ直ぐな漆黒を風に揺らしている夏月に対して、謝罪から切り出した。
「呼びだしてすまない」
「別にいいわ。昨日今日の知り合いというわけじゃないし。で、何? 私に告白?」
「いや……」
俺は、少し躊躇した。夏月とは小学生からの幼馴染。そのころ俺は夏月、春葉とつるんでいて、毎日一緒に勉強したり遊んだり。その後、俺は親の転勤でこの港南市を離れてしまい、五年ぶりに戻ってきたという寸法だ。
「こんな場所にわざわざ呼び出すんだから、告白だろうと期待していたんだけど。私の五年来の想いが行き場を失ったわ」
「それは……」
俺はうめく。夏月の顔はあくまでクール。本気で言っているのか冗談で俺を揶揄っているのか、まるでわからない。俺への想いというのが本気だとしたら、これから頼み事をするのは失礼というか酷な扱いをするということになる。そう戸惑っていると……。
「冗談よ。本気にしないで。で、要件は?」
夏月が、くすりと笑って俺の心配を溶かしてくれたので、話し始める。
「夏月、恋愛研究会のキューピッドだよな。男子生徒と女子生徒の間を取り持ってくれるという」
「確かに学園内ではそう言われてるわね。否定はしないわ」
「今まで何組ものカップルを誕生させて、学園生の想いをかなえてきたっていう」
「恋愛研究会だからそういう活動もしてるってだけ。恋愛について深く知り経験をするというのが本来の趣旨よ」
そこまで会話をしてから、どう続けようかと夏月を探る。
スレンダーでモデルの様な体形に整った面立ち。長いまつ毛に真っ直ぐな鼻筋。唇は薄い桜色で肌は染み一つない。
可愛いというより綺麗という表現が正しいだろう。それも別格の美少女。感情をあまり表に出さないタイプなので、学園内ではとっつきにくいというか高嶺の花的な立ち位置にいるのだが、告白は絶えなくて、その全てを相手にもしないで振っているらしい。
夏月ってすごいなと、一般生徒の俺は思いながら、後を続ける。
「恥を忍んで言うと、春葉との取り持ちをお願いしたいんだが……」
「冬也が直接春葉に言えばいいじゃない。私も春葉も冬也の幼馴染。そして今は二人ともクラスメイト。勝手知ったる間柄だと思うけど」
「五年間のブランクがある。俺はただの男子高校生になっただけだが、例えばお前は訳が分からないくらいの美少女に生まれ変わってしまったし……」
「そうね。五年間、冬也への想いを抱えていたら、私はこんな女になってしまったわ」
無表情で言い放つ、夏月。相変わらずその本心は知りようがないが、俺は話を進めた。
「そして春葉も今となっては物凄く可愛いJK。どうしていいのかわからないんだ」
「まずは気持ちを伝えたら? 春葉は私の様にひねた子じゃないから、邪険にされることはないと思うわ。真剣に考えてくれるはずよ」
「実は告白した。で、『ごめんなさい』って断られたんだ。『理由は聞かないで』って逃げられてしまって。夏月に頼むのは正攻法じゃないんだが、相談に乗って欲しかったんだ」
夏月が黙り込んで、時間が流れた。俺を見つめたままの夏月の顔からは何も読み取れない。けど、思惑しているんだというのはわかる。そして夏月の声が場の沈黙を破った。
「いいわ。取り持ってあげる。というか、春葉の気持ちを確かめてあげる。でも一つだけ。もし成功したら私の言うことを一つ聞いて頂戴」
夏月が、俺に対して要求を一つ出してきた。その真剣なまなこに、俺は少したじろぐ。
「言うことを一つ……」
「そんなに警戒しなくていいわ。死んでとか殺してとか言わないから。貴方に出来ることよ」
「それなら……」
俺も納得する。
「冬也がわかってくれたところで、指切り」
夏月が左手の小指を差し出してきた。
「そこまでするのか?」
「ええ。私にはとても重要なことだから」
そして、俺たちは指切りの約束をした。これは裏切れないなと思いながら。
「あともう一つ。私には特別な異能力があるとか実はサキュバスだとか言うわけじゃないから、春葉に聞いてみて脈がなかったら素直にあきらめて頂戴」
「わかった。言うことを一つ聞くのと脈がなかったらあきらめる。約束する」
「ありがとう。別に私がお礼を言う筋ではないんだけど、これで先に進めるわ」
「先に……?」
夏月の言う事はわからなかった。でも、恋愛研究会の夏月の手管は本物という噂で……。こうして俺と春葉の『お試しのお付き合い』が始まったのだった。
次の更新予定
2024年12月2日 18:16 毎日 18:16
幼馴染に恋の仲介を頼んだら、その幼馴染が浮気を要求してきた件 月白由紀人 @yukito_tukishiro
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