淡くて甘い俺の初恋

ちびジュニア

第一話

「うわー、やばい。ネクタイのせいで時間無くなったし、せっかく髪セットしたのにボサボサじゃん・・・」

「ほらー早く門に入れー。入学式から遅刻することになるぞー。」



 門には桜をイメージした花が飾られ、春らしい雰囲気だった。



「広いんだよこの学校。」


 俺は無意識に独り言を言っていたらしい。



「そうだよなー。わかる。あっ、ごめん、勝手に返事しちゃった。」


 これが俺と幸司との出会いだった。



 俺は矢田聖弥。今日からこの高校に通う新一年生だ。


「早く教室入んないともうギリギリじゃね?」


 そう声をかけてくる幸司の軽快な声が妙に安心感を与えてくれた。


「俺は高嶺幸司。俺のこと覚えてないよね?」


 俺は人見知りと独り言を拾われた恥ずかしさで会話も出来ず下を向いて顔を見れずにいたが、そう聞かれて顔を幸司の見上げる。

 バレーをやってる俺より身長が高く、顔は所謂、王道のジャニ顔。

 黒のブレザーを当たり前に着こなし、ぱっちりした二重に長めの睫毛。

 髪もサラサラで地毛の割に茶色味が強く朝の陽光の力でキラキラして見える。



「うーん、ごめん。俺地元が違うから知り合いとか多分いないはずなんだけど。」


 さっぱり思い出せない。


「大丈夫だよ。こうやって話すのは初めてだしね。」

「どういうこと?」

「だってヤダセイでしょ? 俺は全中で準決でフルセット負けした。」

「あっ、あー!」



 俺は記憶を辿り、着いた先はイケメンエリート集団と呼ばれ毎年全中に出場している超強豪校、犬学こと「犬宮学園中学」。

 犬学の歴史の中でも最高クラスレベルと言われ優勝候補筆頭だった。


 そんな犬学に俺がいた中学は奇跡的に勝利したのだ。

 その犬学の中でライトポジションでサウスポーのイケメンがいたような。



「もしかして、ライトの左利きの人?」

「そう! 覚えててくれて嬉しい!」



 喜んでいる幸司の笑顔がキラキラと眩しくて見惚れてしまう。



「すぐ気付けなくてごめん。」

「全然大丈夫! 知ら中で一回試合しただけだしね! それよりマジ走んないと時間ヤバいかも。」



「ふぅー、ギリギリセーフ!」

「たーかーみーねー、先生より教室に入るのが遅いなんて最初からやってくれるなー。明日から気を付けろよー。」


 初日から危なかったー。

 俺はふと幸司の方を見ると幸司は外を見ている。


 綺麗な横顔だなぁと俺は無意識に幸司を見つめていた。



「それじゃ朝のホームルームを始めるぞ。担任の慶樹高雄だ。数学担当で3年間一緒だ。」

「えー、先生私勉強は苦手でーす!」

「俺もでーす。」

「苦手だから何だよ、やるしかないだろーが。部活と一緒だ、頑張るしかない。」

「はーい。」



 さすが、スポーツ専門クラス。

 俺も含めて周りも程度に差はあれどみんな生粋の所謂、ザ・体育会系。


 そんな体育会系の高校生を纏める担任も色んな意味でパワーが無いと務まらない。


 先生は黒髪でセンターパーツ、二重で韓国アイドルがそのまま出てきたかのような雰囲気で幸司と2人で並ぶと少女漫画か雑誌の1ページみたいに映える容姿をしている。

 そんな描写に自己嫌悪に陥りそうになった俺は幸司がこちらを見ていたことに気付かなかった。



「入学式までまだ時間あるな。じゃあ先にこれをやるか。」


 そう言って渡されたのは自己紹介シート。


「体育館に移動するまでまだあと20分あるから全員しっかり書いてくれよー。それで教室出る時にここに入れていけー。自己紹介に何も書いてないやつがいたら、そいつは保護者の方にクレーム入れることになるからなー。」


 ヤバい。ほんとに苦手なやつだ。

 何書いて良いか全然わからない。

 自分のことを書くだけなのだがそれが難しい。

 幸司をちらっと見ると真剣な表情でシャーペンを動かしていた。



「時間だ、体育館へ移動するぞー。」

「うーっす。」


 元気もノリも良いクラスメイトたち。

 総じて男子人口が多め、女子は2割くらい。


 入学式の並び順は名字順に2列なので俺は1番後ろだ。

 俺は前にいるクラスメイトを観察していると幸司が目に入る。

 後ろ姿もかっけーよなぁ。

 絶対性格もいいしモテるよな。

 幸司と同じチームで試合出れるかなー? とか色々考えてると心が弾む。


 式自体はどこもやっているような校長先生が話しをしてくれるのを聞いて、生徒代表からの挨拶等を聞くだけ。

 ただこの学校の違うところは一年生の挨拶が2名あり、そのうちの一名はスポ専からだ。



「スポーツ専門クラス、咲月凌。」



 俺は聞き覚えのある名前が呼ばれたことで危うく寝そうになって下がっていた顔を上げる。

 ステージの壇上でスピーチをする彼は間違いなく全中一位のチームの選手。


 俺の中学は今話している彼にことごとくスパイクを止められ全国2位に終わった。

 それにより高校で日本一になりたいと俺は貪欲になり今こうしてここにいる。


「~~これからの高校生活、精一杯楽しみます。」


 咲月凌が一礼をし、拍手が鳴るなか席に戻っていく様子を俺はぼーっと眺めていた。


 それから俺は幸司の後ろ姿を見ていると幸司が後ろを向いて俺と目が合う。



 トゥクン



 そんな音が聞こえたような気がするくらい、俺は目が合っただけなのにドキドキして目を逸らしてしまう。

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