第16話 初めてのクエスト
次の日、今日は早朝に冒険者ギルドへ行き、配達クエストを受けてきた。早朝の冒険者ギルドというだけで、私にとっては軽く試練だった。
私の身長は百三十五ケトル。今まで見てきた限りだと、平均するとこの国の成人女性が百六十五ケトルほど、成人男性は百七十五ケトルほどだ。つまり私の頭が周囲の人のお腹や胸あたりに位置するのことになる。
混雑していることもあるだろうが、ろくに気配も確認していないのか私の存在に気づかず人がぼんぼんぶつかって来ようとする。避けるスペースもないため、魔力鎧を使っていなければ潰れされていた。そして、潰れないだけで埋もれた。
冒険者の中には武具を装備している者が多く、皆硬いから衝撃が大きくなる。そして腰に携えた剣の柄が容赦なく私の胸や顔面を襲う。
ダルア村にいた頃スキル【隠密】を覚えたあたりから、気配を消すと村人の前を横切ったりしても気づかれず、少し面白かった記憶があるのだが、その時のことを思い出した。
街の中とはいえ、冒険者がこんなに無警戒でやっていけるのだろうか。
周りを見ると私より幼い子たちも僅かにいて、潰されながら懸命に進んでいるようだった。私も頑張らないと。
無事にクエストを受けて冒険者ギルドから通りに出る。今回受注したのは、予定通り街の中で荷物を配達するだけのランク外のクエストだ。
フォートンからサザンへ馬車の定期便が出ているという話を聞いたことがあった。そのように街から街へ馬や走竜の定期便を出している業者が、荷物の配達も請け負っているらしい。走竜がどんな生き物なのかは、見たことがないしまだ分からない。
大きな商店は専用便を用意するので、主に小さな商店や個人が遠方に手紙や荷物を届けたい時に使用する。定期便を利用していることから、時間はかかるがある程度料金は抑えられているようだ。
そうして街にまとめて届けられた荷物を冒険者がさらに各家庭まで届けるという流れだ。定期便が運行していないような主要な街道沿いにない小さな村まで運ぶこともあり、そういう場合はGランク以上のクエストになる。
私以外にも配達クエストを受けている人は数多くいる。その中にはゆっくり歩いて運んでいる人もいれば、たくさんのクエストを受けたのか荷車に荷物を積んで運んでいる人もいる。混雑するメインストリートを避けて駆け足で運んでいたり、極少数は建物の上を跳ねながら通っている人もいた。
今も若い獣人の女性が私の上を跳ねて行った。ああいうの、許されるんだ……。細かいことは気にしない街なのかな。あの女性もスカート姿で人の上を通っていったが、自分の下着を見せびらかしていても別に気にしないのだろう。
配達クエストを受けている人たちは、だいたいがジョブなしか非戦闘系ジョブだ。そして一部身軽な動きを見せていた人たちは全て物理戦闘系ジョブだった。
ステータス補正もあるが、氣力の扱いに長けているか否かで大きな違いが出ているんだろうな。
私はズボンをはいているし、建物の上どころか何なら空を飛んでいくこともできるが、やる意味もない。先人にならって、メインストリートを避けて小走りで行くとしよう。
「あなたがケニー? これ、お届け物」
「そうだよ。ありがとう」
完了書、正式にはクエスト完了証明書にサインをもらい、配達完了。これで朝受けてきた三件の配達が済んだ。
これは今朝受付係をしていた男性に、体力のある子供という条件で尋ねたところ、まずは三件位とお勧めされたからだ。
だが朝の内に終わってしまった。三件を軽くこなせることは証明したし、同様のクエストを受ける時は徐々に数を増やしていこう。別に今すぐお金が欲しいわけではないけれど、報酬が安くてこの程度だと安宿の雑魚寝部屋の代金位にしかならない。
同じことを繰り返すのもよくない慣れが生じるし、今日は別の仕事をするクエストをもう幾つか受けてみようかな。
冒険者ギルドに戻り、まずは配達クエストを完了させる。これで初めてのクエスト達成だ。さくさく次へ行こう。
◆◆◆
そうして五日ほどクエストを受け続けた。
清掃作業のクエストではホウキや雑巾を複数借りて、魔法で操り短時間で終わらせた。本当は【見習い治癒師】で得たスキル【クリーン】を使えば一瞬で終わるのだが、今の私は魔法使いというていだからね。
草むしりのクエストは認めたくないが私の真骨頂が発揮された。天賦スキル【学習】を持つ者が何年も繰り返した熟練の技だ。もちろん根まで綺麗に引き抜く。
手間は広さにもよるが、街中という時点で大した面積ではない。訓練のためにわざと難易度を上げて時間をかけても四半刻もかからなかった。
倉庫整理のクエストでは、多くの物を乱舞させ、もし見ている人がいれば魔物の仕業と疑われるような光景だっただろう。もちろんそんな人はいないことを確認している。
建築作業のクエストでは、人目があることからかなり手加減して無属性魔法による高速レンガ積みを披露した。
その他諸々、今日で丁度三十のクエストを達成したことになる。依頼者からの評判も上々だと思う。依頼者と仕事前に面会した際には、ちゃんと仕事ができるのかと言われたり訝し気に見られることもあったが、仕事が終わると褒められることが多かった。
特に建築のように連日の作業が必要となる仕事では、本気で引き留められた。なんなら正式に就職しないかとまで言われた。単発なら今後も受けるかもしれないが、長期では無理だと断ったが。
冒険者ギルドに戻ると丁度受付にいるメルの手が空いているようだった。
「メル、配達クエスト終わった」
「あら、アリシアさん。こんにちは。それでは身分証と完了書を提出してください」
「これ」
メルが事務所に手続きをしに行ったため、周りの気配を確認しながらしばらく待つ。
これまで見たところ、クエスト完了手続きの際に、おそらく足元にあるのだろう引き出しに書類があってその場で作業がすむ場合と、背後の壁に据え付けられた戸棚から資料や報酬を取り出す場合と、事務所まで戻るケースがあるようだ。どのように分類されているのかは、定かではない。
「アリシアさん、お待たせしました。クエストは完了です。こちらが報酬になります」
「ん」
「それとアリシアさんのランク昇格が認められました。アリシアさんが問題なければ今からGランクとなります」
「かまわない」
「それではこちらが新しい身分証です」
「ありがとう。……色が変わった?」
「ええ、ランクによって材質が変更されます。順序は硬貨と同じですね。Hランクは鉄、Gランクだと銅といった具合です」
「なるほど」
硬貨と同じという事は、鉄、銅、銀、金の順か。
それにしても、もう昇格したのか。ランク外のクエストばかり受けていて、まだHランクのクエストは一つしかこなしていない。それも、街の外へ剣を振りに出たときにたまたま遭遇したウサギを数匹、解体後にそのまま納品しただけだ。
何といっても通行税が免除されるからね。これまでHランクだったが、在籍登録してあるこの街では無料で門を行き来できるので、体を動かすために外へ行くこともあった。
クエスト消化速度から魔法使いとしての腕が評価されたのかな。おそらく通常の手作業では間に合わない消化速度だったはず。それにクエストを短期間に多く処理するということは、体力と移動速度が必要になるわけだし、身体能力もある程度保証されるわけだ。
もう少ししたら装備を用意して、外に出るクエストを受けていこうと思っていたのだけど。まあ予定より早まったのだから良いことだ。
「これからも頑張ってくださいね」
「ん」
明日はお昼で仕事を切り上げ、装備を買いに行こう。
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