歴史的挑戦者【ショートショート】

「これが僕の革命的プランだ!」

スズキ課長はホワイトボードを叩き、胸を張った。


ホワイトボードには矢印や数字が無数に並び、カラフルなマーカーで描かれた謎の図が広がっている。

部下たちはそれを見つめながら、互いに目を合わせた。


「課長、それ…どこがスタートで、どこがゴールなんですか?」

イトウが恐る恐る尋ねる。


「ゴールなんて必要ない!」

スズキ課長は自信満々に答える。

「これは新時代の幕開けだ。挑戦すること自体が目的なんだ!」


部下たちは一斉に視線を伏せた。

挑戦の目的が分からない時点で、この計画は終わっている。


1週間後。


プロジェクトは壮大に崩壊した。


現場の状況


・予算は想定の3倍を超えて赤字。


・クライアントから契約破棄の通知が届く。


・社内では責任を押し付け合うメールが飛び交い、オフィスはカオス状態に。


「誰だ!」

スズキ課長が机を叩きながら叫んだ。

「この完璧な計画を台無しにした奴は!」


「課長」

イトウが小さく手を挙げた。

「実行したのは課長だけです…」


会議室は一瞬静まり返る。


スズキ課長はしばらく考え込み、やがて笑顔でこう言った。

「なるほど…つまり、これは歴史的な挑戦だったということだ!ここまで大胆に挑戦できる人間は他にいないだろう?」


部下たちは呆然とする。


イトウがぽつりとつぶやいた。

「課長、歴史に名を残すのは結構ですが…その前に会社が残りませんよ」


部下たちは深く頷きつつ、心の中でこう思った。


『課長がいなければ、この挑戦はもっと簡単だっただろう』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る