俺はリス【ショートショート】

「なあ、ミツル。これ試してみろよ!」

タカシがスマホを俺に突きつけてきた。

画面には「アイデンティティ診断」というアプリのロゴが映っている。


「アイデンティティ診断?また変なアプリだろ?」

「違うって。これ、本当の自分が分かるらしい!」

タカシの熱弁に少し呆れつつ、俺は興味を惹かれてアプリをダウンロードした。


診断結果はこうだった。

「あなたのアイデンティティは…リス」


「は?リスってなんだよ!」

画面を睨む俺の目に次の説明が入ってくる。


・貯め込む


・必要な時に忘れる


・最後には全部使い果たす


確かに、給料日には貯金を誓い、気づけば課金とセール品で財布が空っぽになっている俺そのものだ。


「お前、リスっぽいよな」と笑うタカシに俺は反論した。

「うるさい!俺はリスなんかじゃない!」


だがその夜、ベッドでぼんやり考えた。

確かに、俺の人生は「リス的」だ。

小さな安心を得るために貯めては忘れ、結局何も残らない。

それって、この先もずっと続くのか?


「…変わらなきゃ」

そう決意した俺は翌日から行動を始めた。


まず、ポイントカードを処分し、無駄な買い物をやめた。

次に、節約ブログを立ち上げ、『リスの知恵』と題して生活術を発信。

フォロワーは瞬く間に増え、俺は『節約界の革命リス』と呼ばれるまでになった。


だが数ヶ月後、俺のSNSは荒れた。

「お前のブログ見て節約したら、近所の店が潰れたんだけど」

「経済回せって言われた!」

「革命リス、責任取れ!」


気づけば俺のフォロワーも激減していた。


そしてある日、銀行の通帳を見て愕然とした。

「貯金…ゼロ?」

無意識のうちに広告料や運営費を浪費していたのだ。


俺はスマホを見つめて呟いた。

「やっぱ、リスのままでいいや」

次の瞬間、頭に浮かんだのは「次に給料入ったら何買おうかな」という甘い妄想だった。

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