一話一会(ショートショート集)

サトウ ナオヤ

節約の極致【ショートショート】

「ついに節約の極致にたどり着いたぞ!」


黒髪を短く整えた男が胸を張る。

着ているのはくたびれたグレーのパーカーと色褪せたジーンズ。

どこからどう見ても節約生活そのものだ。


目の前の友人は、茶髪のミディアムヘアを揺らしながら首を傾げた。

白シャツと濃紺のジャケットが妙にきっちりしていて、男との対照が際立っている。


「また変なこと始めたのか?」

友人は軽く眉を上げながら、ため息交じりに尋ねた。

「今度は何をやらかしたんだ?」


男は待ってましたと言わんばかりに胸を張り、声を張り上げた。

「家賃を浮かすために家を売った!」


友人の顔が引きつる。

「……それで、どこに住んでるんだよ?」


男はさらに胸を張り直し、自慢げに言い放った。

「夜はホテルのロビーで新聞紙を敷いて寝てる!これで家賃もゼロ、電気代もゼロだ!」


友人はその光景を想像してしまう。


・ホテルのロビーに新聞紙を敷く男

・眩しい照明の下、大の字で寝転ぶ姿

・行き交うスーツ姿の宿泊客が遠巻きに見やる

・エアコンの風で新聞紙がふわりと舞い上がり、真顔でそれを押さえる男


友人は呆れ顔のまま言った。

「お前、そこまでして節約するならさ……」


一拍置いてから続けた。

「新聞紙を売ればもっと稼げるんじゃない?」


男は目を見開いた。

数秒の沈黙の後、突然膝を叩きながら笑い出す。


「それだ!何で今まで思いつかなかったんだ!節約の可能性は無限大だな!」


友人は肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。

「まぁ、普通の人はそこに可能性を感じないからな……」

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