第2話 火魔術の家系に水魔術が生まれたらどうなるか

 結論から言えば、地獄である。


 それを悟ったのはフレイ・ブレンネンが生まれて物心がつき始めた三、四歳あたりだった。


 とにかく自分に会う人の目つきがどこか冷たいものだったというのがフレイの幼少期の記憶だった。誰もが自分のことを憐みや蔑み、果てにはまるで他人をみるような目つきで見てくるのだ。


 当然表面上は取り繕っていても心の内では似たような感情を抱いているんだと、幼少の頃から悟っていた。そのおかげで視線から感情を推し量るような技能を身に着けるようになるのだがそれは別のお話。


 要するにブレンネン家にとってフレイ・ブレンネンという存在は非常に触れづらい異端な存在として扱われていくことになる。


 少し成長し十歳を迎える頃には落ち着いたが、フレイが生まれた直後はまさに酷い有様であった。


 『ブレンネン家から火の魔術師以外が生まれた』その一報は瞬く間にブレンネン家関係者の間に広がり同時に特級の秘密として扱われた。その後に始まるのは一族からの非難の連続。


 そして疑われるのは正室ターリアの不貞。特にターリアへの一族からの当たりは特に強くこれまで子を成せなかったことへの不満も集まってしまった。


 その結果ターリアは心を病んでしまい床に臥せり、夫オイリルは手当たり次第に女に手を出しなんとか、ブレンネン家正当の血筋を残そうとしていた。


 当然誰も嫡男であるフレイを嫡男に据える気も、気に掛ける者もなく、フレイはせめて死なすことはできないと最低限の執事風よけだけを与えられ誰からも相手にされず育った。


 フレイが心を許していたのは病床に臥しながらも自分に優しくしてくれた母ターリアと執事風よけのコルマンだけだった。


 特に母にはよく懐いており、毎日母のもとに通っては話相手になっていた。そしてその日にあった出来事などを話すと嬉しそうに聞く母が好きだったし、そんな優しい母を悪く扱うブレンネン家の者たちを嫌いになるまで時間はかからなかった。


 その際に母は必ず『炎適正のある魔力に産んであげられなくてごめんね』と謝っていたことが今でもフレイの記憶に焼き付いている。


 誰からも気にされることなく、期待もされることなく育ったフレイだったが、一応ブレンネン家の嫡男として最低限度の教育は与えられていた。主に執事のコルマンからだったが。


 コルマンは良くも悪くも自分のことを特別に扱わない執事で基本悪しざまに扱われていたフレイにとっては中庸的に扱ってもらえるだけでも助かっていたのだった。


 だが、そんな幼い少年が過ごすにはあまりにも過酷すぎる状況はそう長くは続かなかった。母ターリアの第二子の懐妊、そして生まれてきた子によってフレイを含むブレンネン家を取り巻く環境全てがひっくり返ることになるのだった。

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