第7話 渓谷の先に

「サーシャ様。天魔獣達が鎮圧されました。このどさくさに紛れて、奥へと参りましょう」


「えぇ、シシル。やってやるは、マリア・シュリルよりも目立って、テリクス様に振り向いてもらって、ロロギアを失脚させて、私が新生〖機天騎士団〗と隊長になるのよ」


「はい! あの座にはアーノルド家の次期当主たる。サーシャ様が相応しいかと」


「当然よ……そして、あの私を傷付けたくそ人形のマリア・シュリル。あの女はテリクス様の前で私、直々に壊してあげるわ。このアークスの力をもってね」



〖渓谷の空〗


「リリカラ。とんでもない悪意を持つ娘が入って来ちゃってるんだけど?」


「あの魔機……確かに可笑しいわね。何なのかしら? あの娘」


「どうする? 捕まえる? 入り口近くに居た子達は戦利品の天魔獣達を与えたら、それ以上、入るのを止めたけどさぁ」


「四人はわざと通してね……もう少し様子を見ましょうか。ここで捕まえて、抵抗でもされれば、渓谷が傷ついてしまうもの」


「はーい。了解でーす」



〖ハーピストの渓谷 霧の谷間〗


「何か……最初っから四人で進んでた方が効率良かったと思うのは私だけ? 何でこんなにサクサク進むのよ」


「そりゃあ、お前、あんだけの露骨にお荷物の大団体の調査隊が付いてくりゃあ、行軍も遅くなるさ。まぁ、騒ぎが起こってくれたお陰で、少数精鋭に切り替えられたんだから儲けもんだろう」


「それで? ロロ。どこまでが計算だったんですか? 長い事、あの第三団長と話し込んでましたよね? もしや、最初から決まっていた事だったりしませんか? まさか〖記録院〗に入って来た時から、この日を狙っていましたか?」


「……ほれ、リクとマリーが大好きな〖記録〗と〖手記〗だ。魔機車の振動で読みづらいと思うが、必要な単語だけでも記憶しておけ。色々とお前ら二人に関係がある内容だからな」


 ロロギアさんはこう言うと、何かが〖手記〗された数枚の紙を私達に渡して来ました。


「……拝見しましょう。マリアさんはこちらを」


「ありがとうございます。リク先生」


 リク先生に渡された〖手記〗の紙で太く書かれた文字だけを確認していきます。


『シュリル家のご令嬢の破壊、ロロギア団長の失脚、調査隊の全滅を、テリクス家とアーノルド家の縁談を組ませる、〖ハーピストの渓谷〗の資源を独占、この罪を全て〖開発課〗に擦(なす)り付ける』


「なんと……これは凄い〖手記〗が書かれていますね。ロロ」

「これは、明らかに私達を嵌める為の……」

「作戦書じゃん。うわぁ、全ての罪を〖開発課〗の私に擦り付けて、処刑にまでもって行き、最終的にはカンデラを廃嫡させ、マキナ公国での市場の独占を狙うだって、エグいわねぇ」


「だろう? 俺もそれを最初にハルスの奴に見せられた時は、度肝を抜かされてな。そんで、最後の文章が一番、衝撃的なんだぜ」


 最後の文章? なんでしょう?


『……全てはアークス教団の利益の為に』


「「「アークス教団?!」」」


 私、アイナさん、リク先生は声を揃えて驚いてしまいました。


「なあ? 腹立つだろう? どこの馬鹿が誘惑に負けて犬になったのか分からないがよう。やろうとしている事がメチャクチャ過ぎるぜ。今のマキナ公国を支える。シュリル家、テリクス家、カンデラ家と現役最強の騎士団長たる、この俺、ロロギアを失脚させ、あの副団長成り手のアーノルドが団長に席に付くなんてな」


「アンタ……自分で自分を普通、最強とか言わないわよ。話は分かったけどさぁ」


「……まぁ、ロロのいつもの冗談は置いといてです。今は、この〖手記〗に書かれた。事の対処が先ですよ。ねぇ、マリアさん」


「は、はい……でもリク先生、この手紙だけでは何の証拠にもなりません。しかも、私達を陥れる様としている貴族は、貴族からお金で位を買い、新しく貴族となった〖アーノルド家〗です。アーノルド家は確か、あらゆる事を金銭で解決するとお父様が言っていましたが……」


「そうですか……ならば、僕達は久しぶりに暴力で全てを解決する事に致しましょうか」


「おっ! 良いな。それ、一番手っ取り早いじゃねえかよ。リク」

「は? 何を言ってんの? リク君」

「……あの、リク先生……私、いつもはとてもお優しいリク先生から、絶対に聞かない様な単語を聞いてしまった様なのですが、気のせいですよね?」


「……これ程、念密に書かれた計画書です。これを企んだ方も相当な神経を使っている様ですし……とても神経質な方の様なのですで正面から叩き潰しましょう。それにしても、何ですか? この〖シュリル家のご令嬢の破壊〗? 僕の大切な助手であるマリアさんを破壊?……マリアさんを破壊するですて?……成る程、〖記録院〗は少々、舐められていたということですね」


 リク先生の表情はとても怒っていました。今まで、こんな顔、見た事がありません。


「あ、あのリク先生」


リク先生はゆっくりと魔機車を運転する、ロロギアさんの所まで行くと会話をし始めました。


「大丈夫ですよ。マリアさん、僕が貴方を守りますからね……ロロ。首都〖リアシア〗に帰ったら……ですよ」


「おお、遂にやるのか? やるんだな。リク」


「ええ、そして、その後は隣国に向かいましょう」


「おう。なら、さっさとここでの役目を終えちまうか……夢の中のアイツが言っていた通りなら、そろそろ、ハーピィーの街に着く頃だからな。やってやろうぜ。リク」

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