第5話 金と鐘の響かせて
会場はざわつき始める。それも無理はない話、だって、今日のオークションの最後の出品の品〖歌唱人形・アリア〗の競りの値段が、競売が始まってからというもの上がり続けているのだから。
「1億5000万ティア‥‥」
「3億ティアです」
「‥‥4億ティアだっ!」
「5億ティアです」
「‥‥おいおい。どんどん上がって行くぞ?」
「クリス商会主催のオークションでここまでの額に跳ね上がったのは初めての事じゃないか?」
「でも無理もないわ。だって、競りの対処はあの歌姫アリア何ですもの。お金があるなら、誰だって。あの美声を欲するわ」
「‥‥部外者が良い気になるなよ! 7億ティア出そう! ハハハ。これで流石にあの謎の男の資金も底を尽きて‥‥」
「では、9億ティア。行きましょう」
「な、何?‥‥くっ! (己、アルバ・シュトロノム! 貴様は我が社を、〖リスリラ社〗を破産させる気か? くっ! 仕方がない。ここは裏資金を使ってでも落札するほか選択はあるまい)‥‥10億ティアだっ!」
〖リゴレット劇場中央〗
カンッ!カンッ!カンッ!
「おーっと! ここに来て更に上がります! 10億、何とクリス商会主催のオークションで、初の10億です、10億が出ました!」
「‥‥(不味い。〖リスリラ社〗のアーマルドさんが俺を睨んでいる。このままでは、このオークションが終わった後、命を消されてしまう)‥おのれ、あの謎の仮面の男めぇ。たかだか、一人の落札者の分際で出過ぎた真似をしてくれおって‥‥」
「‥‥11億5000万ティア」
「ま、まだ上がります‥‥10、11億よりも上の方はいらっしゃいますか? いないのであれば、〖歌唱人形・アリア〗は落札者No.77のリーク氏に決定を‥‥」
「「「「「オオオォォ!」」」」」
オークション史上最高額の更新で、会場の方々は熱気を帯びて盛り上がっている。
「では‥‥これにてオークションは‥‥」
「待った!‥‥13億だ! 13億ティアを出す」
〖落札者席〗
「こ、ここに来てまだ上がるの?」
「13億など、どこかの一流貴族並みの資産だぞ。そんな大金をどこから?」
「そ、そうよね?‥‥それにそんな大金を支払ったら、〖リスリラ社〗は割に合わない資金を歌唱人形・アリアだけに使う事になる‥‥下手したら〖リスリラ社〗は破産よね?」
会場の観客達は思い思いに憶測と推測を話し合い、この奇劇を興奮しながら見ている。
そして、リク先生はと言うと‥‥賑(にこ)やかに笑いながら、静かに手を上げて。
「それでは、15億ティアを出しましょう」
「‥‥おのれ‥‥15億2000万‥だ」
「15億5000万を更に出します」
「15億5000万?!‥‥だと? そんな大金、たかだか中流貴族が集まるこの会場に居るものなのかぁぁ?!」
カンッ!カンッ!カンッ!
「長く、白熱した競り合いに見事、勝ちましたのは落札者No.77のリーク氏でございま‥‥」
パンッ!
「‥‥は? 何で司会者である私が魔機弾で撃たれて‥‥い‥‥る?」
ドサッ!
〖落札者席〗
「は? 何あれ? また、何かの演出?」
パンッ!
‥‥ドサッ!
「‥‥射たれて、血が流れているの? キャ‥‥キャアアアアア!」「な、何だ?何が起きているんだ?」「し、司会者とマルシ家の方が射たれたわ」「に、逃げろ! 急いでこの会場から逃げるんだ!」
突然、発せられた二つの銃音により、会場は大騒ぎになる。
「黙れ! 中流貴族共! 貴様達は大人しくしていればこれ以上、危害は加えない。我々の目的地は一つだけ、マキナ公国が誇る歌姫アリア、いや〖歌唱人形・アリア〗のみ。先程の違法な落札額のつり上げなど無効とし、我が社〖リスリラ社〗にアリアを渡す事を請求する。会場を制圧しろ! お前達」
「「「「「ハッ! アーマルド様!」」」」」
リスリラ社のオーナーである、アーマルド・リスリラさんが魔機銃(ガント)を持って大声で騒ぎ出し、それに呼応(こおう)するかの様に、落札者や観客席に紛れていた〖リスリラ社〗の人達が魔機銃(ガント)を持ちながら立ち上がる。
「‥‥やはり僕がつり上げた落札額に納得がいかなくなり、暴力で解決しようと動きますか。ロロ、出番です。お願いします!」
「ハハハ、やっとかよ! リク。待ちくたびれたぜ‥‥〖機天使(リーク)〗解放。眠れ、心荒れる者達よ‥‥〖天翼の鐘〗よ」
カラ~ン!カラ~ン!カラ~ン!
オークション会場の天井に金色の鐘が顕れ、会場内に鐘の音色が響き渡り、と天使の羽根が舞っている。
すると会場内に居た一般客、落札者、リスリラ社の武装部隊ほ殆どが、意識を失い眠ってしまう。
「‥‥強力だろう?機天使(リーク)の安らぎへの誘いは」
〖リゴレット劇場中央〗
「‥‥何だ?あの白い翼を生やした男は? 何故、リスリ社の制圧部隊は動かない? このままではアリアを売って手に入れる、数億ティアの莫大な報酬が消えて失くなってしまうではないかぁ?!」
「機天(デウス)遣者(アポストルス) ロロギア‥‥とんだ大物がいきなり登場するとは誰が予想できるやら」
「お、おい! 〖護衛人ガード)〗ルイ・ギルド! あ、あの宙を浮いている男をどうにか排除しろ。 そ、そうしなければ、私はリスリラ社に‥‥アーマルドオーナーに消されてしまう」
「いや、俺はシュトロノムの旦那。アンタの〖護衛人ガード)〗ですぜぇ、だから、あの宙を浮いている男がシュトロノムの旦那に攻撃を仕掛けないうちはこちらから攻撃する事はできませんねぇ」
「ば、馬鹿を言うな! こ、攻撃なら、もう受けているだろう。み、見てみろ! 会場内の様子を、あの白い翼の奴の魔機で皆が寝入ってしまったではないか」
「‥‥あれはたんに寝ているだけでしょうや。そんな理由だけでは、俺は守護すべきシュトロノムの旦那の近くを離れられませんねぇ」
「くっ!融通が効かない。雇われだな貴様! なら、一度、貴様は解雇し、新たな依頼を出す。あの男の動きを止めておけ。その間に私はアリアをアーマルドオーナーの元へと持って行き、ここを共に去る。ではな!」
「全く。何を自分で勝手に決めているのやら、だが雇われちまってるんだから仕方ないか」スゥー‥‥
〖オークション会場・天井〗
「やっぱり、俺の方に来るのかよ! ルイ・ギルド!」
ガキンッ!
「ルイ・ギルドさんだ! ロロギア後輩!」
〖オークション会場〗
「‥‥これで、一番の障害である。〖護衛人ガード)〗ルイ・ギルドがこちらに来る事は無くなりましたね。では、僕達はアリアさんを迎えに〖リゴレット劇場中央〗へと参りましょうか。マリアさん。お手をどうぞ」
「あ、ありがとうございます。リク先生」
リク先生はそう言うと私の手をとって、私が立ち上がるのを支えてくれた。
「‥‥時にマリアさん。オークションが始まる前に貴女に渡した〖ユグドラの万能薬〗の蓋は開いていますか?」
「万能薬ですか?えっと‥‥」
私はリク先生に言われ、胸袖にしまっていた〖ユグドラの万能薬〗を取り出し、蓋が開くのか確める。
「‥‥あっ‥‥開いています。リク先生‥‥〖ユグドラの万能薬〗の蓋が‥‥開いていますわ」
私は言葉を詰まらせながら、リク先生に伝えた。
「そうですか、それは良かった‥‥それを飲めばマリアさんは人形から人間に戻れるのですね‥‥本当に良かったです」
リク先生の表情は後ろを歩いている私には見えなかった。でも、私が元の人間に戻れると確信して喜んでくれている事は、リク先生の後ろ姿しか見えない私でも分かった。
「後は、アリアさんをアルバ・シュトロノムから救い出し、クリス君に引き渡せば。ここでの役目は終わり‥‥」
ガシャーン!
私達が向かっている〖リゴレット劇場中央〗から
何かを叩き壊す様な音が聴こえて来る。
「‥‥嫌な予感がしますね。急ぎましょうか。マリアさん」
「は、はい。了解しました。リク先生」
私達は音がした方向へと急ぎ走り出した。そして、その何か割れた音の場所には、3人の人達が居た。
劇場の床に倒れているアルバ・シュトロノムさん、何かを抱き抱えて震えているクリスさんに‥‥身体の半分がひび割れ、今にも壊れそうな状態の〖歌唱人形・アリア〗さんが涙を浮かべて、クリスさんと見つめ合っていた。
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