さかなのうた

月鮫優花

さかなのうた

 もう遠い記憶になります。あなたの声を聞いたのは。

 私の二度目の生も終わろうとしています。

 暗いくらい海の中で、私だけずっと人の心を持って泳いでいました。とはいえ、時間としては短かったのでしょう。魚の一生は、あなたの一生よりずっと短いのですから。

 同じ形のヒレをしている皆様のことが、何もわからなかった。仲間だということを理解しても、なお。

 自分だけ明らかにずれていた。気味が悪かったんですよ。ここは私のいるべき場所ではなく、私のいるべき場所はここではないと知りながら過ごすのは居心地が悪かった。

 今日は、海の中に何か尖った人工物が見えたのです。すぐ確信いたしました、これはみちしるべであると。

 私は口を開き、近づきました。

 何よりも確かな、喉の痛み。それとともに、私は勢いよく釣り上げられていきました。

 最期に、ゆらめく水面を見ました。あなたとあの日見たものと変わらずありました。救いでした、私もあなたも変わってしまったのに。

 そうして、ここに辿り着くことができました。私がいるべき場所。ここは、きっと市場のまな板の上。冷えた鋭利なぎんいろが、私を今に3枚におろそうとしています。骨まで裸になり、身をみられる。このぎんいろが、私の正体をおしえてくれる。きっと今度こそ、何かがわかる。

 ああ、あなたは知っていますか。このぎんいろを。

 おしえてくれようとしたのですか。

 もう遠い記憶になります。私があなたに殺されたのは。

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さかなのうた 月鮫優花 @tukisame-yuka

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