第33話 再会・2
愛理とナユハは幾度か火花を散らしたあと固い握手を交わしていた。どっとはらい。ということにして当初の目的を果たすことにする。
「ん~、この辺かな?」
私はナユハと愛理を引き連れて鉱山の端、採掘され尽くして廃棄された区画にやって来た。璃々愛からもらった地図によるとこの真下あたりに秘宝が眠っているらしい。
ちなみにナユハはお爺さまから『またリリアが来たら仕事よりも付き添いを優先するように』と厳命されているらしく侍女のように付き従っている。むしろレナード家から正式に認められた愛理よりも様になっていた。メイド服でないのが不自然に感じるほどに。
まぁ元々貴族だものね。立ち振る舞いは美しいし、それがメイドという職種にぴったりハマっているのかもしれない。
(メイド服……ナユハ……うん、いいかもしれない)
頭の中で欲望を爆発させながら表向き真面目な顔をする私である。
「穴掘りしなきゃいけないけど、どうするかなぁ? さすがに作業員の人に協力してもらうわけにはいかないし」
私はレナード家のお嬢様だから命令すれば穴掘りもしてくれるだろうが、お仕事の邪魔をしちゃいけないよね。
あ、本当に秘宝が埋まっているかどうかの確認なんかしないよ? 左目を使えば視えるはずだけど、最初から結果が分かってしまったらつまらないもの。浪漫は大切にしないとね。
「リリア様の土属性魔法なら穴も簡単に掘れるのでは?」
「私って力の微調整が苦手だからさ~。埋まってる秘宝を押しつぶしたり壊したりしちゃうかもしれないんだよね」
その名もスキル“未熟なるもの”だ。
「……あぁ」
納得したように深く首肯するナユハちゃん。短い付き合いの中でも私のやらかしを目撃してきたものね。説得力抜群だ。
「パワーショベルでもあれば話は早いんだけど、あるわけないしねぇ」
「ぱわーしょべる?」
「パワーショベルっていうのはねー」
私が身振り手振りを交えて建機の説明をしていると、愛理がにゅっと顔を割り込ませてきた。頭上からいきなり人の顔が現れるのは凄くビックリするね。
『ゲームみたいにゴーレムを錬成して穴を掘ってもらうのは?』
「あ、その手があったか」
ソシャゲ版の戦闘アイテムにゴーレムがあったのだ。コストはかかるけど自キャラを消耗させないで戦えるので広く使われていた。
うまい助言をした愛理はドヤ顔で私――じゃなくてナユハを見た。カチン、という音がナユハから聞こえたのは気のせいだと信じたい。
「……リリア様。差し出がましいですが私の稟質魔法(リタツト)であれば掘った岩の運搬等でお役に立てるかと」
きらりーんと目を輝かせたナユハ。ぐぬぬと唸る愛理。
この二人、実は仲がいいのではないだろうか? 対抗はしても嫌味とか批判は口にしないし。
「ま、いいや。とりあえず基本パーツはこの辺にたくさんある岩を使って、関節部分は砂で流動的に――」
頭の中で設計図を作り、後は膨大な魔力で無理やり形にする。
「――錬成!
フルでメタルなアルケミストのように胸の前で両手を叩く。直後、周囲の岩が踊るように飛び跳ね、組み合わさって体長10メートルほどの巨人となった。ちょっと大きすぎたかな? とは思うけど、まぁ他に人もいないのでいいことにする。
しかし、顔がないのでペプ○マンみたいだね。岩を使った割に表面は滑らかだし。とりあえず自律で穴掘りができるよう術式(プログラム)を組んでみよう。
「さ、さすがです!」
『やっぱりリリアちゃんは凄いね!』
プログラムを組んでいる間、黒髪美少女二人が目を輝かせていた。ふふ~んと即座に調子に乗ってしまう私。ここはもっといいところを見せないとね!
「――さぁゆけ! ゴーレムよ! 前王朝の秘宝を白日の下にさらすのだ!」
ウォオオオォン! という駆動音(?)を上げながらゴーレムが岩を引っぺがし砂を掻き上げ垂直に穴を掘っていく。
「おー、凄い。前世の建機より早いんじゃないの?」
岩や砂塵が飛んできても平気なように私と二人の周りを結界で囲いつつ自画自賛。やっぱり私は天才だね!
……このときの私は気づくべきだった。
あんな勢いで掘り進めたら、地面の下に
愛理とナユハから褒められて調子に乗っていたんだね。
地面を掘り進めて二分ほど経っただろうか。
ゴーレムの指先から『ガリッ!』という鈍い音がした。
しかしゴーレムは止まらず掘削作業を進め、いやぁな音が鉱山に連続してこだまする。
「ちょ、ちょっとストップ! 何か見つけたのならゆっくり丁寧に!」
やっぱり急造のプログラムじゃ応用が利かないかぁと私がため息をついていると――
――突如。
地面が揺れた。
ゲームの世界である影響か、あるいは地盤的な問題か、この世界には地震なんてほとんど起きないというのに。前世の感覚的に震度3程度の揺れが鉱山を襲ったのだ。
「――――っ!」
とっさにナユハと愛理を抱き寄せて結界の強度を上げる。その間にも地震は続き、次第に地面が隆起し始めて……。
「……はぃ?」
どしゃーん、と。そんな効果音を上げつつ地面から一匹のトカゲが姿を現した。……いやいや自分で言っておいて何だけど体高10メートルを超えそうなトカゲなんているはずがない。頭から尻尾までの長さは優に20メートルを超えるだろう。
しかもコウモリっぽい羽まで生えているし。どっからどう見てもファンタジー世界の住人・ドラゴンじゃん。
え? なに、私ドラゴン掘り当てちゃった?
『おぉ! 本物のドラゴンだ! 宝を守るドラゴンとか物語の定番だよね!』
愛理は初めて見るドラゴンにテンションを上げ、
「……ストーンドラゴンですね。一説には年月を経たストーンスネイクが進化したものとされていますから、ストーンスネイクがいたこの鉱山に現れても不思議ではないでしょう」
ナユハは目をグルグルさせながらドラゴンの解説していた。だいぶ混乱しているみたい。
相反する反応を見せた二人を置いてきぼりにするかのように事態が動いた。自律プログラムを組んだゴーレムがドラゴンを敵として認定、握り拳をドラゴンの腹に叩き込んだのだ。
眠りから覚めた直後、自身に匹敵する大きさがある巨人から殴られるとは思っていなかったのか……ドラゴンは油断した体勢のままもろに攻撃を食らい、背後の岩壁に叩きつけられた。
というか、あのドラゴンが目覚めたのはどう考えてもゴーレムが
『――ガァアアァアアァアッ!』
ようやっと目が覚めたのかドラゴンが一旦口を閉じ、何かを吐き出すように喉を動かした。
ドラゴンブレス。
数千度の火炎放射がゴーレムに襲いかかる。
けれどゴーレムは止まらなかった。
龍の息吹によって表面を溶かされながらも、命なきもの特有の蛮勇でもってドラゴンとの距離を一歩二歩と縮めていく。
この敵(ゴーレム)が今まで戦ってきたどんな生物とも異なると気づいたドラゴンが翼を広げた。一旦空へと逃れ仕切り直しを目論んでいるのだ。
だが、遅い。
ゴーレムはすでにドラゴンを掴める位置にまで到達していた。
身体を半ば空中に踊らせていたドラゴンは足を掴まれ――
「――って! なんで怪獣大戦争が始まっているの!?」
ツッコミをしてしまった私である。
いや私だって前世の影響で特撮好きになったからこの戦いを静観したい。したいのだけど……。
愛理は私がどん引きするくらいのハイテンションでゴーレムを応援しているし、ナユハは静かだけどウル○ラマンを応援する子供みたいな純真な目で戦いを見つめている。
しかもどこからか現れた妖精さんは、
『ロボットアニメに必要なのは作画だよねー』
『いやストーリーだよー』
『重量感ー』
という感じにロボット談義を始めてしまったし、ついでに言えば頭の中で璃々愛(特撮バカ)が超ハイテンションに騒いでいてうるさいし……、こんなにも見学者がいるのにツッコミをしてくれそうな人間が私しかいなかったのだ。
「あぁ、もう……」
なんで財宝発掘でドラゴンとバトルになるの、とか、私だってツッコミせずにリアル特撮を楽しみたかった、などという想いを込めて私は叫んだ。
――どうしてこうなった!?
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