第32話 再会


『もちろん私もついて行くよ! なにせ私はリリアちゃんの使い魔――じゃなくて侍女だものね! あと噂のナユハちゃんにも会ってみたいし!』


 お爺さまに許可を取ったあと(リッチ事件の後始末で忙しかったらしく会えるまで三日もかかってしまった)、さっそく小旅行の準備をしていると愛理が自慢げに胸を叩いた。


 愛理とじっくり話し合い、この世界でやりたいことが見つかるまでは私の使い魔でいるということで話はまとまった。まぁ、幽霊とはいえ美少女を使い魔と呼ぶのはアレなので侍女という扱いにしてもらったけど。


 というわけなので今の愛理(さん・・付けは悲しそうな顔をするので止めた)はレナード家仕様のメイド服を着用している。この世界の幽霊は触れるからね、メイド服も着られるのだ。


 もちろんメイド服はロングスカートだともさ。フレンチメイドは認めない。メイドさんの魅力の二十割はふわりとなびくスカートにある。


 ふわふわ浮いている幽霊が侍女、しかも愛理は不吉とされる黒髪黒目なのでかなり悪目立ちする。が、元々私ってば銀髪赤目(&眼帯)で過剰に注目を集めちゃう人間だし別にいいやと開き直ることにした。


「愛理も来るの? じゃあ馬車での旅になるのかな? 転移魔法(テレポート)で移動しようと思ったけど、私はまだ一人でしか転移魔法(テレポート)できないし」


 おばあ様なら数人一緒にできるのだけど、と私が自らの未熟さを嘆いていると愛理が親指を立てた。


『あ、大丈夫。なんか知らないけど私ってリリアちゃんのいるところにテレポート? できるみたいだから。契約したおかげかな?』


「何それ便利」


『昨日なんてマグロを食べに海まで行ったのに一瞬で戻って来れたもん』


 一番近くの海でもたぶん馬車で半月はかかると思う。戻るのは一瞬だとしても、むしろどうやって行ったのだろうか? あのリッチ事件からまだ三日しか経っていないのに。


 まぁ異世界の幽霊相手に常識でものを考えても無駄かな。


「前世の記憶持ちとしては羨ましいなぁ。というかこの世界にマグロっているの? 食べられているの?」


『マグロはいたけど市場にはなかったから素潜りで取ってきた!』


「何この幽霊アグレッシブすぎる!」


『やっぱり醤油がないとイマイチだね!』


「素潜りする前に気づこうよ!」


 おかしい、なぜ私がツッコミ役になっているのだろう? 自分で言うのも何だけど私って天真爛漫で非常識でボケ役のはずなのに……。


 というか璃々愛もそうだけど前世組のキャラが濃すぎるんだよなぁ。こんな人間が一億人以上いるとか……日本、恐ろしい国だ……。


 とりあえず、お父様にこの子の相手をさせてはいけない。胃が殺されてしまう。固く誓った私であった。





「――到着~!」


『どんどんぱふぱふー!』


 私が採石場に着くと同時、隣に愛理が『にゅっ』と現れた。ほんとにテレポートできるんだね。


 それはともかく、これからナユハに会えると思うとテンション爆上がりな私である。


「さぁやって参りました採石場! 正確に言えば作業員の宿舎前! 時刻は朝焼け、ナユハもまだ寝ている時間でしょう!」


『寝起きドッキリ!』


「早朝バズーカ!」


『「いえーい!」』


 ハイテンションにハイタッチする私と愛理であった。前世日本の知識がある人が隣にいるとネタが通じてやりやすいね!


「……お二人方。朝っぱらからうるさいですよ」


 後ろからナユハに声をかけられた。ナユハったら早起きだねー……、というか久しぶりの再会なのにものすっごく呆れられている気がする。

 しかしこの程度でめげる私ではない!


「やぁナユハ今日も変わらずの美少女だね。朝焼けに輝く黒髪はもはや世界の至宝と言っても過言ではないよ。黒真珠のような瞳に私だけが写されている喜びをどうやって表現したらいいだろうか」


「……おはようございます、リリア様。リリア様も変わらずの女たらしであるようで安心しました」


「たらしたことなんてないよ!?」


「失礼、自覚がありませんでしたか。天然だとしたら手遅れですね」


 あっれーナユハさんが毒舌だぞ? 確かにピリリとした毒はときどき吐いていたと思うけど……。『男子、三日会わざれば油断するな死ぬぞ!』とはよく言うが美少女にも当てはまるのかな?


 まぁ、でも、


「毒舌なナユハちゃんもかーわいいねー! なになに? 私にとうとう心許してくれちゃった!?」


 私が破顔しながらそう尋ねると、ナユハはわずかに小首をかしげた。


「えぇ、“友達”ですから少しばかりそれらしく振る舞えるように努力したのですが……どうでしょうか?」


 顔は一見すると無表情。

 だが、その眉が少しばかり不安げに下がっていることを私は見逃さなかった!


「クーデレだー! 璃々愛の気持ちが分かった! クーデレ最高だ!」


 ノータイムで抱きついてしまった私に罪はない。悪いのは可愛すぎるナユハちゃんだ!


 そして私が璃々愛の生まれ変わりだということにも納得するしかなかった。璃々愛の私に対する言動と、私がナユハに向ける言動がそっくりなんだもの。


 でもしょうがない。

 なぜならナユハは可愛いのだから!


 ……これだけ騒いでおいて何だけど、私に百合な趣味はない。断じてない。……と、思う。最近ちょっと自信なくなってきたけれど。


 ちなみに。『ボク☆オト』の移植版の追加シナリオでヒロイン×悪役令嬢の百合ルートが実装されていた(そしてそこそこ好評だった)ので、ゲームの設定的には女の子もいける気がするけれど――うん、たぶん気のせいだ。


 私が前世の記憶からの戦略的撤退を決意していると、ナユハの視線が私の背後、ぷかぷかと浮いている愛理へと移動した。


「リリア様、そちらの方は?」


 ナユハの問いかけとほぼ同時、愛理が私とナユハを引きはがした。そのままナユハににっこりと笑いかける。


『はじめまして。リリアちゃんの前世からの親友・・・・・・・、笹倉愛理です』


 おや? 周りの気温が数度下がった気がするぞ?


 対するナユハもにっこりとした笑顔を浮かべた。


「……そうですか。お初にお目にかかります愛理様。前世など関係なく・・・・・・・・リリア様に友達として認めていただいたナユハでございます。以後、お見知りおきのほどを」


 間違いなく気温が下がったぞ? あれーナユハと愛理って水魔法を応用した氷結系統の魔法が使えたんだねぇアハハハハ。


 ……どうしてこうなった?











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