第3話 お風呂作り



 さて、お風呂の基本設計は出来た。

 といっても原理は単純明快。風呂桶を用意して、その中に熱効果系の『魔石』を入れるのだ。熱効果系の魔石は周囲の魔素を吸収して高温を発するので水をお湯に変えることが出来る。


 妖精さんたちがまた集まってきて『単純すぎー』、『これを発明扱いとかないわー』、『でっかい水桶に魔石入れただけじゃんー』と文句を付けたので砲丸投げの要領でぶん投げておいた。ヒロイン補正で有り余る魔力を込めたおかげか数キロ単位で飛んでいったのは我ながらいい仕事したと思う。


 ……その後妖精さんが大集合して一種のアトラクション化したのは予想外だったけど。


 さて、そんなことよりお風呂くん一号である。妖精さんにはただの魔石in水桶だとバカにされたが、そんなことで私はくじけない。


 熱効果系の魔石は超高温になるので入浴時には取り出しておく必要がある。もしも触ってしまったら大やけどだ。魔石にヒモを付けて引っ張り上げられるようにしておかないとね。


 ちなみに魔石とは周辺に漂う魔素(元の世界の酸素やら二酸化炭素みたいなもの)を吸収し、様々な魔術的効果を発する石のことだ。熱効果系なら温かくなるし、氷結系なら冷気を発したり周りのものを凍らせたりする。その他にも炎を出したり宙に浮いたり光を発したりと中々バラエティーに富んでいる。


 魔石は魔物の体内にある石が長年魔力を蓄えることによって変質して生まれるらしいのだけど、野生動物(?)なので安定供給は難しいし、取り出してみるまでどんな魔石を持っているのかも分からない。


 その他の入手手段は鉱山ということになるが、いわゆる“発掘系”の魔石は我がレナード子爵領の中にある鉱山でしか採掘できないらしい。


 なんでも大昔の魔王と勇者の決戦で、七日間戦いが続いた結果土壌に高濃度の魔力が染みこんでしまい、それが地中の石と結合して魔石となったのだとか。

 で、その染みこんだ石の種類によって発現する効果が違ってくるのだ。


 熱効果系の魔石については趣味で魔石研究をしているお爺さまに後ほど聞いてみるとして、まず取りかかるべきは水桶――もとい風呂桶だろう。

 元日本人としては木で作りたい。檜風呂とか永遠の憧れだ。


 しかし私に木材を加工する技術はない。

 いや風魔法を応用すれば木を切り倒したり板に加工するのは出来ると思う。これでもヒロインなので火、水、風、土、雷の五大魔法の適正があるし、聖女予定だからか聖魔法も使える。攻撃から回復まで任せて安心リリアちゃんだ。


 ……なぜか原作ゲームでは適正のなかった闇魔法も使えるけど、うん、考えようによっては『この世界はゲームじゃない! ゲームによく似た現実なんだ!』的なよくある展開の伏線になっているような気がする。……決して、腹黒いから闇魔法が使えるわけではない。と、思う。


 そんな私であるから風魔法を応用して『切り刻め! 風刃伐採牙!』とか叫びながらそこらに生えている木を木材にすることは簡単なはずだ。


 けど、材料を作れることと工作することはまた別のお話。特に風呂桶は水漏れがしてはいけないので素人工作というわけにもいかないし。となると職人にお願いすることになるのだけど、いくら貴族の令嬢とはいえ、職人を雇えるほどのお金は持っていない。


 うちは爵位こそ低いものの、元々は大商会を運営する平民が貴族位を賜ったという経緯があるので超お金持ちだ。だから職人の手配くらいはお父様かお爺さまに頼めば何とかなるけど……ドレスや装飾品じゃなくて大工さんをおねだりする貴族令嬢というのは“ない”だろう。変人というハードルを易々と飛び越えすぎだ。


 将来的に商品として販売するなら大工さんに製作を依頼することになるけれど、これはあくまで試作――というか自分で使う用なのだから丸太を削って風呂桶の形にする、というのが一番簡単かな?

 まぁ、風呂桶に出来るほど大きな丸太がどこにあるんだって話になっちゃうけど。


 となると……。


「あ、そういえば裏庭にあれがあったっけ」


 私が前世日本のようにポンッと手と手を打ち合わせていると、


「――おや、何があるんだい?」


 背後からいかにも優しげな声が掛けられた。


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