第210話 公国救出 1

《side:フライ・エルトール》


 エドガーが率いるゴーレム軍との戦いを制し、公爵領の再建も始まった。


 だが、休む間もなく次の報せが届いている。


 公国が危機に瀕している、と。


 敵は帝国軍だという報告だった。


 だが胸騒ぎが収まらない。


 エリザベートやアイリーンに公爵領を任せて。


 私はレンナ、ジュリアたちと手早く準備を整え、《アルカディア》を再び発進させた。


 雲を割り、空を駆ける飛行船の甲板で、私は祈るように窓の外を見つめていた。


「公国にはセシリアがいる。……そして、バクザンも防衛に協力してくれているはずだ」

「焦らずにいきましょう、フライ様。ここまで来たら、私たちの力を信じてください」


 レンナが強い目で言った。


 フリーダム竜騎士たちも協力してくれる。


 アルカディアは公国の上空に到達する。


 眼下に広がるのは、見慣れた美しい町並み……のはずが、城壁の外側では火の手が上がり、騎兵と魔導兵が入り乱れて戦っている。


 帝国軍の紋章……は、見当たらない。


 だが、黒い獅子の旗、獣人王国。


 さらに、空では竜人たちが咆哮を上げて飛び回る。


「な……! 帝国軍じゃない……。これは、獣人と竜人の混合軍です?」


 獣人はこれでま味方だった。


 だが、ロガンからの手紙で決別が告げられていた。


「こういうことだったのか」


 さらに、これまで沈黙を貫いていた。竜人たちが動き出して、獣人と手を結んでいる。


 どこまでも世界を操ろうとしているのか? メイギス!


「フライ様! 地上にバクザン隊長を発見しました! セシリア様は……公国の本邸に籠もって抵抗しています!」


 トアが望遠鏡を使って二人の姿を見つけてくれた。


 レンナは竜の姿で偵察に飛び立った。


「まずは空から支援だ。《アルカディア》、全砲門開放、敵の包囲陣を叩き潰す!」


 魔導砲の閃光が、夜明けの戦場を照らす。


 バクザン率いる公国の防衛軍が、獣人族の猛攻に押し負けそうになっている。


 すかさず私は、竜人部隊の一団に向かって伝声管で呼びかけた。


「レンナ! 味方の竜騎士部隊と連携して、敵の空中優勢を奪え!」

「ああ!」


 空中戦が激化する。地上ではバクザンが豪腕で獣人の騎士たちをなぎ倒しているが、数の差はいかんともし難い。


「セシリアは……無事か?」


 通信機からノイズ混じりに、セシリアの声が入る。


『……フライ様? やっと……お戻りになったのですね』


 息を切らせながらも、凛とした声だ。


「もう大丈夫、すぐに助けに行く!」


 アルカディアの側面ハッチから、私は竜人部隊と共に空挺降下した。


 着地と同時に、乱戦のただ中へと飛び込む。


「バクザン!」

「フライ様か! 待ってたぞ!」


 バクザンは血まみれのまま、笑顔で私を迎える。


「ここは任せてくだせぇ。セシリア様の元へ行ってやってくれ! この公国が持っているのは彼の方のおかげだ」

「わかった!」


 私は最短経路で公邸に突入する。中ではセシリアが数人の侍女と共にバリケードを築き、獣人兵と斬り結んでいた。


「セシリア!」

「フライ様!」


 私は剣を抜いて、獣人兵の突撃を切り倒す。


 レンナの竜の咆哮が外から響き、竜騎士の援軍が敵の空軍を一気に追い払う。


「無事か!?」

「はい、ですが……公国の兵は皆、限界です。もう……」

「大丈夫だ、アルカディアが空を制圧した。バクザンも持ちこたえてくれている」


 私はセシリアの肩を抱き、彼女を救護班に預ける。


 最後の防衛線ではバクザンが、竜人と獣人の混成軍の指揮官と一騎打ちを繰り広げていた。


「援護する!」


 アルカディアの魔導砲。


 そして公国の魔術師たちが援護に入り、押されていた環境が均衡状態に入る。


 レンナたち竜人部隊が追い払う。


「援軍か?」


 獣人の将軍に向けて剣をとる。


「名のある将軍をお見受けする。我名はフライ・エルトール。この公国の主人である」

「ほう、お主が! 我名はバジウ! 獣人国が三大将軍が一人。牙王、バジウである」


 象のような将軍と相対する。


 冗談に構えた剣。


「フライ様」

「バクザン、ここはまかせろ」

「はっ!」


 私は全身を強化して、上段に剣を構える。


「いざ」

「チェスト!」


 たった一刀の斬撃に全てを込める。


「ぐっ?!」


 バジウ将軍を切り倒して、広場に、ようやく静寂が戻った。


 周囲の獣人や、竜人が距離を取り始める。


 均衡状態に入ったことで、相手も体力を消耗して戻ってくれたようだ。


 私はセシリアの手をしっかりと握る。


「フライ様……私、怖かった。でも、信じていました。あなたは必ず……きてくれると」

「約束しただろう。何があっても迎えに来るって」


 彼女の涙に、私はうなずいた。


 味方だったはずの獣人と竜人が敵に回る。


 世界の秩序は崩れ始めている。


 だが、守るべきものはまだ、ここにある。


 私はもう一度、強く心に誓う。


「どんな絶望も、必ず希望に変えてみせる。ここから反撃だ」


 僕は公国の最終防衛ラインに人々を集めて、反撃の準備に入る。

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