第89話 それぞれの動き 1
《side ブライド・スレイヤー・ハーケンス》
与えられた丘になっている小山を利用して築いた簡易拠点の中央に立ち、我は広げられた地図を見下ろしていた。
眼下に広がる湿地帯と草原。その向こうに見える岩場や、湖、そして森と続いている。
これらすべてが敵の陣地として、使われている。
運営からの通達が新たな動きを促して魔物が出現した。
「ブライド様、次の指示をお願いします」
アイクは今すぐにでも飛び出していきそうな勢いで問いかけてきた。その瞳には忠誠と同時に、この戦場への高揚感が宿っている。
「アイク、エドガーが連れてきたゴーレムの視察をしてこい。どの程度使えるのか知りたい」
「かしこまりました」
「湿地帯のアイスの動きも調べられる奴を派遣しろ」
「はっ!」
この戦いにおいて、警戒すべき相手は、アイスとフライの二人だ。
それ以外の有象無象などどうでもいい。歯向かうならば倒すまでだ。
「アイスが、魔物の討伐を行っている間に奇襲ができるなら、弓を使える者で奇襲を仕掛けよ。倒せなくても構わない」
「なるほど、こちらはゴーレムで攻撃をして、人員はそちらに回すのですね」
「そうだ」
「かしこまりました」
アイクは鋭い笑みを浮かべて頷いた。
「ブライド様、このエドガー、魔物の討伐喜んで引き受けます!」
「ああ、頼むぞ」
今回はそれぞれが与えられた役割を持つ。エドガーには傀儡師やテイマーと呼ばれる魔物を使役する役割が与えられている。
自分では戦うことはできないが、ゴーレムに指示を出して戦う特殊な役割であるため、起用してどれだけ使えるのか性能をチェックしておきたい。
これは未来に向けた投資だ。
「ゴルドフェングが草原でどちらに向かうのかも、偵察を送れ。隣接する二つの派閥には特別に注意を払え。奴は単純だが、兵士たちとの力量を考えれば、衝突すると厄介だ。周囲の動きを常に把握しておけ」
我は手元の地図を見つめながら、自らの陣営の動きを整理する。
「一番離れた位置にいるフライ・エルトール……。奴は底知れぬものを感じる。だが、それはすべての陣営が削り合った後に考えればいい」
我は周囲を薙ぎ払うだけよ。
♢
《side アイス・ディフェ・ミンティ》
湿地帯に設置された陣地は、地形そのものが天然の防壁となっている。ぬかるんだ足場と背の高い草が、敵の侵入を困難にしていた。
船を浮かべ、足場が作られた建物が拠点になる。
私は陣地の中央に立ち、運営の通達を聞きながら考えを巡らせていた。
「魔物か……厄介だな」
陣地を守りながら戦うのが私たちの戦術の基本だが、この魔物の出現は、スキが生まれてしまう。
それを狙ってくる陣営もいるだろう。
「各部隊に指示を出せ。湿地帯内の魔物に対処はするが、それと同時に防御も強化しろ。隣接する丘にはブライド皇子が、荒野には自由同盟だ。どちらも気が抜けない相手だ」
指示を受けた部下たちが即座に動き出す。
「敵がこの湿地帯に侵入するには苦労するだろうが、それでも油断は禁物だ。ブライド皇子なら狙ってくるかもしれない」
「ブライド皇子の奇襲ですか?」
部下の一人が尋ねてきた。
「奇襲ではなく、陽動かもしれない。あの男は常に二手三手を考えている。まずは私たちを動揺させ、その後に本命の一手を打つ恐れがある。全体を見渡し、動揺しないようにしよう」
「わかりました!」
私は周囲の湿地を見渡す。この地形が私たちに有利であることは間違いない。だが、それだけに自らの頭脳を使い切らなければならない。
「勝利を掴むのは知略だ。それを証明しよう」
ブライド皇子を警戒しながらも、自分たちの陣地の強化さを利用する算段をつけて、私はどうやって罠を張るのか考えを巡らせる。
♢
《side ロガン・ゴルドフェング》
広大な草原に構えた陣地で、俺は何も考えずに自分の体を動かしていた。戦士としての本能が、こうした余計な思考を削ぎ落としてくれる。
「魔物だと? ふん、ただの獲物じゃねぇか! そんなもの、俺が片手で倒してやるよ!」
周囲の獣人たちが笑い声を上げる。
「魔物なんて敵にならねぇな」
「そうだそうだ。そんなことよりも、隣接する帝国と海人集団の方が戦いたいぜ」
「まぁ、まだ始まったばかりだ。楽しみはとっておこうぜ。まずは魔物の討伐からだ」
血の気の多い奴らだ。だが、それでいい。獣人とは戦いにこそ価値を見出す生き物だ。
「まずは魔物を探す必要があるな。あのブライドやアイスのように頭を使う奴らは、考えすぎて動けなくなるものさ! 俺たちは早々に敵を蹴散らせるぞ」
俺は周囲を見回しながら、仲間たちに指示を飛ばす。
「全員、準備をしろ! 俺たちの力を見せてやろうぜ!」
「「「おう!!!」」」
もしも敵が仕掛けてきたら、それも含めてぶち倒す。
「ロガン様、どの陣営を狙いますか?」
「そんなもん、見つけたやつ全員だ! 奴らが弱いなら、全てを仕留めるだけだ!」
力こそ全てという信念が、俺たちを支えている。この広大な草原を走り回り、敵を圧倒するのが俺たちの戦術だ。
「さぁ、戦の時間だ! 俺たちが最強だと証明してやる!」
俺は仲間たちと共に、草原を駆け抜ける準備を整えた。勝つのは強者。それが自然の摂理だ。
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