第28話 婚活公女は理想の男性に出会いたい 前半
《sideセシリア・ローズ・アーリントン》
公国は決して強い国ではありません。第一王女である私の目的は学園都市にやってきて、より強い殿方の元へ嫁ぐか、婿養子として来ていただき共に公国を支えていただければ幸いです。
ですが、学園都市では貴族から平民まで多くの方々がおられて人を見極めるには時間がかかりますね。どうしても関係が色濃くなる方は限られてしまい。
求めるべき殿方に出会えるのか不安でしかありませんね。
そんな風に思ってお茶会を開いておりますが、各国様々な紳士淑女の方々にお会いしているとどうしても問題を起こす方もおります。
その筆頭である帝国侯爵家の長男であるエドガー・ヴァンデルガスト様には困り果てていました。
帝国貴族こそが最上であると考えられておられ、堂々とした態度は不遜にも受け取れます。
彼の派手な衣装と傲慢な笑みは、周囲の視線を引きつけてやみません。
「これはこれは、公国の第一王女セシリア様ではありませんか、お茶会をされていると聞いて、私も参加させていただいても?」
「もちろんです。ルールを守っていただければどのような方でも歓迎ですわ」
「ルールですかな?」
「ええ、あくまで紳士的な振る舞いをしていただけば問題ありません」
「そうか、ならば問題あるまい。私は帝国貴族だからね」
エドガーは私に向けて深々と頭を下げ、紳士を気取った様子で近づいてきました。しかし、その目にはどこか品のない欲望が見え隠れしていて、残念ながら紳士とは程遠い態度に警戒心を抱きました。
「改めて初めまして、エドガー・ヴァンデルガスト様。お越しいただきありがとうございますわ」
表向きは笑顔を保ちながらも、内心では彼の登場が厄介事の始まりであると感じていました。
本来であれば、ホストを務める私が席を決めるのだけど、エドガーは堂々と私の正面に座り、周囲の空気を無視して私だけに話しかけてきます。
「セシリア様、噂に聞いていましたが、やはりお美しい。公国が誇る薔薇というのも納得です」
「お褒めいただき光栄ですわ」
彼の口調は一見すると丁寧ですが、どこか馴れ馴れしさを感じさせます。その視線は私の顔だけでなく、全身をじろじろと観察しているようで、不快感が募ります。
「そうそう公国は小さな国だ。あなたのような可憐な女性が一人で重積を背負うにはお辛いのではありませんか?」
「皆様のご助力があれば、きっと乗り越えられると信じていますわ」
「なるほど。しかし、それでは十分ではないでしょう。いっそのこと、私がその重責を分担して差し上げてはどうでしょうか?」
エドガー・ヴァンデルガストは椅子から身を乗り出し、声を低めてこう付け加えました。
「セシリア様の隣に立つにふさわしいのは、この私です。帝国侯爵家の長男として、力も地位も申し分ない。お互いにとって悪い話ではないでしょう?」
彼の眼力によって、迫られた瞬間、私は全身がこわばるのを感じました。
彼の言葉はあまりにも突然で、私の意思など一切考慮されていないようでした。さらに彼の態度には、自信過剰な横柄さが漂い、そのすべてが私の心に重くのしかかります。
(どうして、こうも一方的に話を進められるのかしら。私はただ、このお茶会を楽しみたかっただけなのに……)
彼の視線や言葉から感じる圧迫感が、不快感をさらに強めます。彼の申し出がどれほど現実的であっても、そこに誠意や尊重は感じられませんでした。
「それは…考える時間が必要ですわ。すぐに決められることではございません」
私は笑顔を崩さないよう努めながら、丁寧に答えました。ですが、彼はその言葉を「肯定」と受け取ったようで、さらに畳みかけてきます。
「もちろん、急ぐ必要はありません。しかし、セシリア様、私の提案はきっと公国にとっても最善の選択になるはずです。ぜひ、前向きにご検討ください」
どうしてこんなにも自分に自信があって傲慢なのかしら? 入学式でご挨拶されたブライド・スレイヤー・ハーケンス皇子もそのような感じでしたわね。
これが帝国の貴族というものかしら? 確かに力や地位は申し分ないけれど、こうして圧力をかけられるのは本当に迷惑だわ。
「今回はこの辺で失礼しますが、どうぞお見知りおきを、セシリア嬢」
「ええ、ありがとうございます。私からはお呼びすることはないと思いますが、ご機嫌よう」
「ふふ、可愛いお人だ。それでは」
嫌味など聞こえていないかのように立ち去っていくエドガー・ヴァンデルガストの姿に恐ろしい嫌悪感を感じました。
「皆さんお騒がせして申し訳ありません。彼のような方は放っておけば大丈夫ですわ。さぁ今日は素晴らしいお茶とお菓子を用意しましたので、存分にご歓談くださいませ」
ホストとして、場を取りなしはしましたが、今すぐにでも部屋に帰りたい気分でしたわ。
エドガーのような押しつけがましく、しかも公国の立場だけを利用しようとする人物ではなく、本当に公国を救い、支えたいと願ってくださる方との出会いこそが望ましいのです。
「どこかに私を守ってくださる。強くて紳士的な優しい方はいないでしょうか? 出来れば貴族の跡継ぎではない方が良いのだけど」
そのような都合のいい相手がいるはずはございませんわね。
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