第26話 友
《sideブライド・スレイヤー・ハーケンス》
学園都市など何一つ面白くはない。
単なる通過点であり、能力がある者を見定めればすでに我の目的は達成されている。
この三年間は、ただ無意味に過ぎるか、それとも学年が変わり、さらに現れる能力ある者達を待つだけか……。
そんな日々に変化をもたらしたのは、あの変人が学校にやってきた時だった。
「おや、おはようございます。ブライド様じゃないですか。お久しぶりです」
我に向かって気安く挨拶をするものなど、今までありえない存在だ。
同じ王族であっても、我を特別扱いして話しかける者はいない。
「ふん、貴様が変人として自由に振る舞っている分には、面白い。だが、その才を我のために使う気になったか?」
我の威圧をものともせずに、気楽に話す変人フライ・エルトール。底が見えない男という意味では、今まで出会った者の中で一番変わっている。
「何を言っているんですか、ブライド様。僕は平凡な公爵家の次男ですよ。エリック兄上の代替え品として、兄の後で控えているしか、脳のない人間ですよ」
先ほどから、アイクが殺気を飛ばしているのに平気そうな口調で話す奴を、平凡とは言えぬだろうに。
公爵領では、大規模な干ばつがあり、水源に火龍がいたという痕跡がある。だが、なぜか火龍は数年でどこかに飛び去ったという。
ドラゴンが一度決めた住処を変えることなどない。一度住み着ければ、数十年数百年単位だと言われている。だからこそ、ドラゴンの住む地は人が住めなくなると言われている。
だが、火龍は姿を消して、今もエルトール公爵家は存続している。
我の勘が、このフライ・エルトールに関与しているのではないかと囁いていた。
「そうか、お前ならばいつでも歓迎しよう」
「ありがとうございます。ブライド様、友人として嬉しいです」
考え事をしながら話をしていると、不意にフライが握手を求めるように手を差し出してきた。その行動はあまりにも自然で……。
何を求められているのか理解できなくて、固まってしまう。
「我を友人だと?」
「ええ、帝国内ではプライド様の位が上ではありますが、同じ王位継承権を持ち、同じ次男。それに同じ歳で、こうして学び屋で机を並べて学ぶ者同士です。十分に友人としての資格は得られていると思いますよ」
あまりにもこじつけも良いところだ。だが、ここまで不快感を覚えない男も珍しい。
「くくく、あはははは。そのような軽口を我に吐くのはお前ぐらいだ。だが、調子に乗るなよ、変人。お前を認めるのは我だ。友人だと思うのか、それは今後次第だと思え」
誰かに友人だと言われたことなど、これまでの人生ではなかった。常に側にいるアイクは我の剣だ。友という立場ではない。
「おい、お前!」
先ほどから、殺気を飛ばしているアイクが立ち上がり、フライを威嚇する。我の剣として友人という言葉が許せなかったのであろう。
これは面白いな。フライを見極めるのに良い。
「なんだい?」
「いい加減にしろ! プライド様に馴れ馴れしいぞ!」
アイクは我が認めるほどの剣の達人だ。剣聖などよりも腕が立ち、将来は剣神に至る男だ。現在は剣帝の試験を受けるために剣聖として修行中の身である。
「君は?」
「アイクだ!」
「そうか、アイク。今、僕はブライド様と話をしている。それを邪魔をしてもいいと思っているのか?」
「うるさい。貴様こそ、ブライド様に対して先ほどから馴れ馴れしく無礼であろう」
わかっていたことではあるが、アイクの殺気に全く動じていない。普通の者は、殺気を向けられて耐えられても、口を開くこともできないほど恐怖を感じる。
多少の強者ならば口は聞けるが、それでも警戒を表す。
だが、フライは一切態度を変えぬ。どこまで楽しませてくれるのか?
「ブライド様、随分と狂犬を飼われているようで」
「くくく、狂犬か。だが、我にとっては忠犬なのだがな」
「そのようですね。このままでは平凡な私は斬られてしまいそうです」
「お前が斬られるなら、それまでの男だ」
我が助けられぬとわかると、フライはさらにリラックスした態度で、アイクを言い負かした。
どうやら格の違いを見せつけられることになったようだ。
友人か……。
考えたこともなかったが、もしも我に友人と呼べる人間が出来るとしたならば、対等に話せるこのような男をいうのかも知れぬな。
「アイク、退がれ」
「ブライド様!」
「面白くはあったが、貴様の負けだ。貴様は剣の腕は立つが、それ以外はまだまだだな。フライよ。もういいであろう?」
「ええ、ブライド様の仰せのままに」
立ち去っていくフライを見送り、目の前で怒りに震えるアイクを見て、我は笑みをこぼしてしまう。
「アイク、世の中とは広いものだな」
「どういうことでしょうか! あのような無礼な者は切り捨てて仕舞えばよかったではありませんか」
「ハァ〜、お前はわかっておらぬな。貴様は激情するのではなく、そうすればよかった。我はアイクという剣を失うことになるかも知れぬが、あいつを排除する最初で最後の瞬間だ」
「どういうことですか?」
わからぬか、確かに剣術家としてアイクは素晴らしい男だ。だが、駆け引きという面ではまだまだ未熟であり、このままでは剣帝になることは難しいであろうな。
それでも将来には期待できる。
「お前以来だ。心から側に置きたいと思ったのは」
フライ・エルトール、我が生涯で対等と認めた《 》なのだろうな。
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あとがき
どうも作者のイコです。
今日はここまで!
日々、読者が増えてくれて凄く嬉しい! 本当にありがとうございます!
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