第13話 リリィ 暴走 ①


「…… おい? 大丈夫か? リリィ? なんだか様子が––––」


「えぇ~~なんれすかぁ~ シリウスさあん~♡」


「!!!?っ」

「リリィ殿!?」


 リリィの様子が明らかに変だ!


 足元はおぼつかずいつもの知的な雰囲気も見る影もなく、おまけに顔も一瞬で真っ赤になっている。


 これはもしや……


 酔っぱらっている!?


 一方、その頃他の席で晩餐を楽しんでいたリリィの相方 神獣グライプス、そしてその側近で大戦時には途中助っ人として参戦し、皆と共に天界の平和に貢献した犬狼部隊の二大リーダーことジャンとシェリーもほぼ同時にその異様な気配を察知する!


「!!!っ なんだ!? この感じ!? 妙な悪寒が……」


「!!!っ たっ! 大将っ! アレっ! あそこっ! リっちゃんの様子おかしくない!?」


「なんだと!?」


「ああ、それにこの急激なまでの霊圧の上昇…… これはまさかっ!?」


 三匹の顔色がみるみる青くなっていく……




「え~っと…… どっ! どうしたのかなあ~? リリィ君?」


 …… なんかとんでもなく嫌な予感しかしねえんだが……


「え~別にどうもしてないれすよおシリウスさあん♡」


 色っぽく甘えた感じでシリウスこと黒崎に迫っていくリリィ。


 近くにあった立派な大木の所まで後ずさりして追い詰められていく黒崎。


 そして壁ドンされている体勢で(黒崎の方が)さらにリリィに追い詰められていく。


「–––– にしてもお、シリウスさん…… 相変わらずいい男ですねえ♪」


「知ってました? 今だからカミングアウトしちゃいますけど…… シリウスさんて…… 私の初恋の人なんですよ♪ きゃっ!言っちゃった♡」


 ズガアアアアアアアアアアッ!!!!!!


 テレた拍子で思わず黒崎の胸にリリィの右手が炸裂する。

 

 …… 殺人的なまでの破壊力を帯びた掌底と化して……


 間一髪躱した黒崎だったが背後の大木は木っ端微塵に吹き飛び、更にはその後ろに続く地表さえも先が見えない程の距離まで抉れてしまっていた。


 あまりの出来事に目を点にしてパチクリさせ、絶句してしまっている黒崎。


「……」


 そして大きな破壊音が発生した事により周りの参列者達もこの騒ぎに気付きどよめき始めている。


「あっはっはっは!!!!♪」


 そしてそんな中、既に酔っぱらって大爆笑しているリーズレット。


 ちなみにPSリングからビデオカメラを取り出しこの事態を笑いながらながら撮影している。


 当然、ブレブレの撮影ではあるが––––


「リーズ! テメエっ! やっぱなんか仕込んでやがったな!」


「ははは! ごめんごめん♪ いや~久々にリリィの『こんな姿』を見たくなってしまってね♪」


「隙を見て先程彼女のグラスに一滴だけお酒を忍ばせておいたんだ♪」


「修二…… リリィはね…… 実は––––」


「信じられない程にお酒に弱いんだよ!!!♪」


「だったら飲ますな! え? ちょっと待って。 なに、たった一滴でここまでなってんの?」


「シリウス殿! リリィ殿から離れて下さい!」

「どわっ! あぶねえ! 何しやがる! アイオス!」


 こちらもPSリングから自身の愛槍を取り出し黒崎に突きを繰り出し、彼をリリィから遠ざけるアイオス。


 これまた間一髪で躱す黒崎。


「酔った淑女を手にかけようとするとは! 武人として恥を知りなさい!」


「いやどっからどう見ても向こうから絡んできてるよな! 別に武人でもねえし!」


「問答無用!」

「うおっ!」


 凄まじい超速連突きの嵐を繰り出すアイオス!


 それらを全て捌く黒崎!


 〜〜っ! 流石は元零番隊! 大した槍捌き! そしてスピードだ!


 って感心してる場合じゃねえっ!!!


 激しい攻防の後、先程の場所から少し離れた所に着地する黒崎とアイオス。



「シリウス殿…… かつて彼女が貴方に想いを寄せていた事は知っている。 いつだったか彼女から貴方の武勇と共に思い出話を聞かせてもらった時にその想いも話してもらった事がありましたから––––」


「その話を聞かせてもらった時から自分は悟った! いつか貴方を超えなければならない…… そう! 必ず超えてみせると心に誓った!」


「おお~♪!」

「おお~♪! じゃねえよ! リーズ! …… あ~、そういやこないだ飲んだ時に恭弥達から軽く聞いてた様な気がするな…… あそこの新郎新婦並みに拗らせてる両片思い組がいるって……」


「シリウス殿! 聞いているか!」

「はいはい聞いてますよ」


「なぜなら!!! その…… 自分も…… 彼女の事を…… いやしかし…… 今の自分はまだ未熟…… いやしかし…… とっ! とにかくですね!」


「ってなんでそこで急にしおらしくなって小声になるんだよ! 情けねえな!」


「くっ! 返す言葉もない…… しかし! 自分は未だ修行中の身! 自分が彼女を幸せにできる器かどうか! 心身共に鍛え! 極め! 彼女にこの想いを伝えるに足る資格を得たその時こそ! 全力で彼女にぶつかっていく所存なのです!」


「だから真面目か! 重い! 重すぎるわ!」


「彼、度が過ぎる程愚直な男だからさ~♪」


「真面目もここまでくると一周まわって残念な感じしかしなくなってくるな…… もういいからとっとと告っちまえよ」


「できません!」


「胸を張って言うな! ヘタレがっ!」


「くっ こんな自分が無念でならない……」


「アッハハハ! やっぱこの二人も面白いねえ♪」


「笑い事じゃねえ! リリィアレどうにかしろ! つかいつまでカメラまわしてんだ! げ!っ こっち見てる!」


「なあに三人だけで楽しそうに話してるんですか~♪ 私も仲間に入れて下さいよ~♡」


 炸裂弾の様な地を蹴る音を出しながら一瞬にして黒崎達の所まで飛んでくるリリィ。


「うおっ!!! 速えっ!!!」

「!!! ふふ♪ 大したスピードだ♪」


「つか気のせいじゃねえと思うけどこの状態になってからリリィの霊圧が爆上がりしてねえか? 何これどういう事?」


「しかもこれ…… 霊力の総量だけならお前ら閻魔兄妹にも迫ってねえ!?」


「ふふ、その通り。 彼女の『この姿』を含め、この理解しがたい霊圧の上昇現象は天界の裏七不思議の一つとして数えられているんだけど……」


「はっきり言って…… よくわからないんだ♪」


「何!? 裏七不思議って!? そんなのあったの!?」


「まあ他にも天界には面白い話がいっぱいあるって事だよ♪ どれも真偽の程は定かではないけど♪」


「で、彼女の事だけど一応、一番有力な説はアルコールによって内なる自身を解放? そのついでに普段使いこなせていない…… もしくは表に出ていない彼女の潜在的素質というか真のパワーが一時的に楽しい感じで解放されてるんじゃないかって話だよ♪」


「もうどっからツッコんでいいのかわからねえよ……」


「はは! こんな力が眠っているんなら大戦の時、あの『災厄』にこの状態の彼女をぶつけてみたら超戦力になるんじゃないかなって面白半分で打診したりもしたんだけど、多分敵味方の認識が甘くなってて最悪僕等の方が詰む可能性の方が圧倒的に高くなるからってんで即却下された事があったね♪」


「初耳だぞ! やべえ作戦立てようとしてんじゃねえ!」


「もう~だから私も仲間に入れて下さいってえ♪ じゃないと…… チューしちゃいますよ♪ シリウスさん♡」


「!っ 待て待て待て待て! リリィ!? リリィ君!? そろそろ止まっておいた方がいいんじゃないかな!? じゃないと後で色々後悔する事になると思うなあ~ うん! きっとそうだ! だから一旦落ち着こう! なっ!」


「私とチューするの…… そんなに嫌ですか?」


「うぐっ!」


 ここでそんなうるっとした目で見つめてくるのは反則だろう! リリィ!


「おいコラ浮気か? 修二……」


「京子!? つかこれのどこをどう見ればそう見えるんだ!」


「やかましい! とはいえ、これはとんでもない事になってはるなあ」


「いや、実はウチも以前この状態のリリィはんを見た事があってな…… そん時にドエライめにあわされた事があったんやが––––」


「そんでさっきいきなり爆音が鳴り響いたと思ったらこの有様や…… せやかてもどるにもどってこれんくてな」


「けどなんかアンタが鼻の下伸ばし始めてきたさかいいてもたってもいられなくなってきたんや」


「伸びてねえ! つかテメ何一人だけ避難してやがる! しかもこんな時だけもどってきやがって!」


「ウチだけやないで」


「あん? どういう……」


 京子が振った視線の先に目をやる黒崎。


 そこでは急遽女神の作成した『ゲート』を使って参列者達の避難誘導を行っている大王夫妻の姿があった。


 あいつら…… そうか。 アレで皆の避難を……


 ただそれはできれば誰か他の奴にでも任せてこっちをどうにかするのを手伝ってほしいんだが……



「さあ皆さん! 急いで避難して下さい! 急いで…… !」


「……」

「……」


 ユリウスと目が合う黒崎。



 だが––––























「…… 急いで避難して下さい! 皆さん!」


 おいユリウステメエ……


 今完全に俺と目があってたよな!?


 何楽な役回りを率先して、やばいのはこっちに全振りしてんだこの野郎!


 エレインの奴にいたってはさっきっからこっちを見ようともしねえ!


「ユリウス! エレイン! 手を貸せ! おい! 聞こえてんだろっ! おい!」


 大声で二人に応援要請をする黒崎。


『運悪く何故か』全く黒崎の叫びが耳に届いていない(?)大王夫妻。


 そして––––




「よし! エレイン! 一旦ここまでの出席者を避難させよう!」

「ええ! あなた!」


「おい! 待て! おい! 二人共っ!」


 黒崎の叫びは一切届かず彼等以外の出席者達は『門』を閉めてもらい、一足先にそそくさと避難していってしまった。


「マジか…… バックレやがったあいつら……」


「はっ! そうだぐの丸! 相方の奴ならこういうのも手慣れたもんだろう!」


 ここは現相方のぐの丸を頼りにしようとする黒崎。



「ぬううううん!!!!」


 少し離れた場所で気を解放するグライプス!



 しかし––––



 こちらに応援に来る素振りを全く見せないでいる。


 というかその念動力を使って会場中の料理を皿ごと全て浮かしていくグライプス。



 そして––––



「よし! 後の事は任せたぞ! シリウス!」


「すまねえ! リッちゃんの事は頼んだぜ! シリウス!」


「よろしくね! シリウスさん!」


「ってちょっと待てテメエら! 何バックレようとしてやがる! ぐの丸! おい! このクソ犬共! オメエの相方だろ! コレどうにかしていけ!」


「無理だ! 酔い潰れるまで凌ぐしか手はない! 幸運を祈る! 死ぬなよ! シリウス!」


 超スピードで駆け抜けて危険区域を離脱していくグライプス達!


「おい! コラ! 待て! メシだけ持ってくだけ持ってって丸投げしてんじゃねえ! ぐの丸! おい!」


「だーっ! どいつもこいつもっ!」


 いつものごとく厄介事を押し付けられていく黒崎。


 だがそうこうしている間にも悪鬼と化した(?)彼女は待ってはくれない。


「あ~♪ 京子さんがいる~♡」

「! ひっ! リっ! リリィはん!?」


 ガクガクと恐怖にその身を震わせる京子。


 一体過去にこの状態の彼女にどんなめにあわされたのか……


 それはさておき––––



 彼女の標的が京子に移ってしまった。



 はたして京子の運命は如何に!?





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