第2話 解決屋! 再始動! ②

「…… なるほど。 当然と言えば当然ですね。 一応聞かせてもらいますが私がついている『嘘』というのは?」


「アンタ、やっぱり『前にどこかで俺と会ってんだろ』? 『いつの状態の俺』と会ってたのかまでは知らねえが……」


「わざわざ『そんな気配を後付けで身に纏ってんのは』俺がアンタの正体に気付くのを防ぐ為か、あるいは少しでもそれを遅らせる為ってところだろ? まあ理由まではまだわからんがな––––」


 藤村の目をしっかりと見据えながら言葉を投げかける黒崎。


 そして祐真や他の仲間達も、自分達のいる場所からなにやら黒崎達の周りの空気が重くなり始めている事に気付いており、とりあえずは静観している状況である。


 ちなみに依頼人である藤村は特に隠す素振りもなく、それどころか皆にも取材をお願いするかもとの事だったので特に皆も各自の席に座ったまま–––– つまりは会話の内容は筒抜けなのであった。



「ふふ。 これはまいりました。 どうやら思っていた以上に勘が鋭いみたいですね」


「流石にちょっと失礼でしたか」




































「–––– 申し訳ございませんでした」


「!」


 ごまかそうともせずに素直に頭を下げる彼女に意外そうな反応を示す黒崎。


 そこから頭を上げ、説明をしようとする藤村。



「貴方のご指摘通り、『私は以前に貴方と会っています』 ですが何故それを隠していたのかは訳あって今はまだ言えません。 といっても、この取材を受けて頂けるならその過程で貴方だったら『私が誰』なのか気付くかもしれないですが––––」


「ついでに言うと藤村沙季っていうのも偽名です。 まあ最初からバレてたみたいですが」


「…… いきなりぶっちゃけまくってんな」


「ええ。 これ以上の嘘は無駄に貴方の私に対する不信感を増加させるだけでしょうから」


「ただ大王様と懇意にしているのは本当ですよ。 でなければ私をこの場に連れてくる事はないでしょうし。 それとフリーのジャーナリストというのもね。 まあ大戦時はとある出版社に勤めていましたが」


「そこの会社に勤めていた頃、あれ程の戦に当時天界に来たばかりの人間の魂が、大王様直々の依頼で治安部と連携しているという噂を聞きつけましてね。 ただの死んだ人間の魂に過ぎない貴方に何故大王様程の方がそれ程期待しているのか……」


「ふふ。 貴方が全支部の司令を交えたグランゼウス要塞での緊急会議で初披露された時、なにやらブチかましたみたいですね♪ 大分カッコイイ事言ってたみたいですし♪ 是非私も見てみたかったな~♪」



 ああ、一部の司令クラスが操られた上で体内に爆弾が仕込まれてた件か。


 その後に俺が敢えて全員の前で閻魔兄妹に身の潔白を証明しろと言って、周りにブチ切れられたりとか、何かと大騒ぎになったっけな。


 あったな。 そういやそんな事も。



「–––– で?」


「まあそんなかなり目立った行動をとった事も含めて、あの後各支部でも話題になってたみたいでして」


「それが噂になって僅かに周囲…… 外にも広がってしまったんですよ。 まあ貴方の正体については殆どの方が想像だにしていなかったものですから先程貴方が言った通り、貴方の懇意にしている方々からの密告ではありませんのでそこはご安心下さい」


「それでその僅かに漏れたその情報を、当時私が所属していた出版社が拾ってそこから調べていったという訳です」



「大王様が見込んだ人物の名は『解決屋 黒崎修二』––––」



「それを知り、貴方も含め天界治安部の行動を調べていくうちに、うちの会社の動きに治安部も気付きましてね。 貴方に関する情報規制を受けてこれ以上の深追いは禁止すると……」


「それを受けて私も会社から言われ、それでも真実を追求したいという気持ちから私は会社を辞めて独自のネットワークを使ってそれからも貴方について可能な限り調べていったんですよ。 貴方と…… 貴方と当時行動していた、もしくは接触していた方々の事も含めてね」


「!」


「そしてその顔ぶれの中には『彼女達の存在』もありました」


 そう言って藤村の流した視線の先には、離れた席で話を聞きながら紅茶を飲んでいる銀髪と茶髪の共に髪の長い二人の女性の姿があった。



「へえ…… 中々良く調べているじゃないか♪」


「って、ウチらの事かいな!?」


 銀髪の女性は閻魔大王の妹にして『剣神』の通り名でも知られている天界最強の剣士の一人 リーズレット・アルゼウム。


 先日、自身の師でもある天界最強の女神との決闘による傷がまだ癒えずに服の中は全身包帯まみれといった天界きっての戦闘狂でもある。


 向かいに座っている茶髪の関西弁の女性は天界屈指の治療士の一人 葉原木京子である。


 二人共、友人同士であると同時に随分昔から黒崎を巡ってのライバル同士でもある。


 視線を黒崎の方へともどす藤村。


「そこに加えて何故大王様程の御方があれ程までに貴方に固執していたのか……」


「様々な視点で天界の裏事情や歴史なんかも調べてその内容も私なりに統合してみた結果、私は貴方の正体について『一つの仮説』をたててみたんですよ……」


「そう…… 『黒崎修二の前世…… それは元天界治安部 総司令だったシリウス・アダマストであると! そしてかつてのその力が覚醒して戦力となるのを期待しているのだろう!』とね!」


「……」


「しっ…… 信じられんわ……」

「ふふ♪ うちの諜報部に欲しい位の情報収集能力と洞察力、そして行動力だね♪ 肝も据わっている♪ なんだか僕も少し君に興味が湧いてきたよ♪」


「ふふ、名高き『剣神』殿にそう言って頂けるなんて光栄ですよ♪」


「話をもどしますね。 その仮説に至った私は大王様に『貴方方の秘密にしている事、黒崎修二さん、そしてシリウス・アダマストさんについてお話があります』と手紙を出し、そこから大王様と特別にご面会をしていただいたんです」


「そして大王様の『眼』の能力を以って私の心の内その全てを視てもらい、私に悪意がないとわかってもらった上で交渉させてもらったんですよ。 まあ先程の仮設に到れたのも大戦が終結して大分経ってからですがね」


「だけど事が事だけに、おいそれと事情は話せない。 その代わり! もし貴方が復活する事が出来た場合に限り! 時と場を選んで可能な限り善処するとお約束してくれたんです」


「そしてその時と場というのが今日この場という訳です」


「…… なるほどな……」


「ちなみに私の『真意』についても今言った通り、諸々大王様はご承知の上で、その上でこの御方は私を貴方と引き会わせてくれました……」


「それと今回得られた情報の一切は口外しません。 というか『できない』と言った方が正しいですかね」


「この取材が終わった後、私はそのまま転生の義を受けて下界で新たな生を受けます」


「!!!!っ」


「元々頃合いをみて天界と別れをつげ、下界に戻ると決めていましたから……」


「そしてご存知の通り、その際の記憶の持ち越しは不可能…… だからこそ、このタイミングでならと許可が下りたんですよ」


「全ては最期にジャーナリストとして! そして何より『私個人』として『真実』を知る為に!」


「どうでしょう…… 取材のご協力願えませんか? 黒崎さん」


「貴方への解決依頼…… かつての大戦の真実、裏エピソード等も含め『貴方という存在、そしてその在り方』……」


「貴方という人…… そして貴方が紡いできた縁がどの様な想いを…… そして道を辿ってきたのか…… 思い残す事がない様に、私を次の生へと向かわせていただけないでしょうか……」


「私から言えるのはここまでです…… 一応、嘘偽りなく話したつもりです……」


 真剣な面持ちで真っ直ぐと黒崎を見据える藤村。


 そしてここまで事の成り行きを黙って見守ってきた大王だったが、遂に彼もこのタイミングで口を開く。



「黒崎君。 今、彼女自身が言った通り彼女は全ての事情を話した訳ではない」


「だがそれでも…… 彼女は信用に足る人物だ。 そして私はそんな彼女の想いに可能な限り応えてあげたいとも思っている…… どうか協力してもらえないだろうか?」


 大王もまた黒崎を真っ直ぐと見据える。



 そして––––



「…… わかりました。 まあ大王様が連れてきた時点で悪人ではないのだけはわかっていましたし、そういう事なら俺としても問題ないですよ。 まあ色々とまだツッコミたいところは正直多々ありますが……」


「藤村さん…… で通していいのかな? 殺伐とした空気を出して悪かったすね。 お詫びと言っちゃなんだが、もう一品サービスさせてくれ。 気持ちを切り替える意味も込めてね」


 ここで警戒を解いて表情を緩める黒崎。


「! ふふ。 ありがとうございます。 真摯な方ですね。 ええ。 藤村でかまいませんよ。 なんだったら沙っちゃん♡なんて呼んで頂いても結構ですよ♪」

「いや藤村さんで」

「ツレないですよ! 黒崎さん! あっ! そうだ! 折角ですから私の方は黒崎さんの事、修二さん♡とお呼びさせて頂きますね♪」

「なんでだよ!」

「ふふ、まあまあ♪」


「修二……」

「修二……」


 下の名前で呼ばれてる事に反応して黒崎に凄みを利かせるリーズと京子。


「って、俺は悪くねえだろ!」


「おお~♪ これは大層おモテになりそうですね! ムムム! 何やら女難の相が!」


「そうだよ! つかこの状況みりゃ誰でもわかんだろ! つうか切り替え早過ぎだ!!」


「おっ! 良いツッコミですね〜♪ あっ! でもご安心下さい! 本当に貴方の事はタイプでもなんでもないので! というか年下は基本興味ないので自惚れないで下さいね♪」


「やかましい!」


「にゃはははは♪ さ~て! では取材の前に、お言葉に甘えさせてもらおうかな〜♪ ん〜、何頼もうかな~♪」


「ふう、やれやれだぜ……」


「あっ! 黒崎君! そしたら僕もなにか奢ってもらっていいかな♪?」


「いや! 何言ってんすか! 大王様! アンタは依頼人じゃないしそれ以前にセレブが庶民にたかってんじゃねーよ!」


「ひどい! 僕と君との仲じゃないか!」


「それとこれとは話が別っすよ!」



 こうして彼女の依頼を受ける形で、かつての話を振り返っていく事になる黒崎達なのであった––––



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