貴方の幸せを願っています……

アニマル

プロローグ 新たに紡がれる想い……  黒崎修二 本格再始動!!

第1話 解決屋! 再始動! ①

 ここは死んだ魂とそこに住まう人々が住まう世界 天界——


 そこの天国エリアの一角にある喫茶店 solveソルベ


 そこを切り盛りするのはこの喫茶店のマスター 泉祐真。


 その長い銀髪の後ろ髪を束ねているこの漢は生前日本の裏新宿の顔役の一人でもあった程の漢である。


 さらに青みがかった黒髪の持ち主が一人。


 祐真の相棒で、かつて天界で起きた大戦を裏で終結に導いた漢でもある。


 その漢の名は黒崎修二。


 祐真の店に現在は黒崎がバイトとして手伝っている状態である。


 他にもかつての仲間達が数人くつろいでいるが、今回はそんな黒崎の前にかつての戦友でもある当代閻魔大王ことユリウス・アルゼウムが『ある女性』を引き連れて黒崎に引き合わせる。


 それと同時に解決屋…… 所謂いわゆる何でも屋や万事屋とも言い換えられる仕事も同時に営む黒崎に、ある仕事の話が舞い込んでくるところからこの物語は始まっていく——




 *     *     *




 まずはコーヒーを出してから話を伺おうとする黒崎。


 大王とその隣に依頼人である女性が席につき、そして出されたコーヒーを口にする。


 黒崎はそのまま二人の向かいの席に座り、その流れで依頼内容を聞こうとする。



「! うっま! 話には聞いてましたけどメチャメチャ美味いっすね! ここのコーヒー♪」


 桃色のショートカット、丸い眼鏡をかけたそばかすのある顔が特徴的なその依頼人は、満足そうに出されたコーヒーを堪能している。


「だろ~♪ 僕もしょっちゅう仕事をサボっては祐真君のコーヒーを飲みに来てる位さ♪」


 はあ…… 全く、この人は相変わらずというか……


 暫くは真面目にやってたみたいだったが、ま〜た仕事場からの脱走癖が復活してきてやがんな……


 この金髪サボり魔無駄イケメンの、こんな軽そうなノリをまざまざと見せつけられるとこの人が当代閻魔大王だっていう事実を定期的に忘れそうになる時があるんだよなぁ……


 つかまたエレインにどやされても知らねえぞ……


 まあ普段はこんなでも、決める時はしっかりと決める! それでいて超ハイスペックな上になんだかんだで人望も極めて高いってんだから大したもんなんだが……


 まあ、普段はほんとにアレなんだが……



「大王様…… 程々にしとかないと奥さんにぶっ殺されますよ」


「ひっ! やっ! やだな~! 黒崎君! そんな怖い事言わないでよ~! 僕達はそれはそれはもうラブラブなんだから~!」


「まあそれは否定しないですけど自分だけ仕事を抜け出したなんて知ったらどうなりますかね~…… あいつ手加減知らねえし」


「だっ! 大丈夫! これも友人である君への解決依頼の斡旋なんだからっ!」


「とか何とか言って、半分以上サボりの口実だったりするんじゃないっすか~?」


「そっ! そんな事は断じてないさ!」


「まあそういう事にしときますよ」


「はは! お噂通り物凄い奥様に尻しかれてるみたいですね~ 大王様♪」


「いや~! ははは!♪ それ程でも~♪」


「いや、褒められてないっすからね。 大王様。 それよりも––––」


 依頼人の女性へと視線を移す黒崎。



 その視線を受け、コーヒーカップを置く依頼人。



「申し遅れました! 私、フリージャーナリストの藤村沙季と申します! この度はかの大戦で大活躍して下さった英雄様方に『改めて』取材をしているところなんですよ!」


「取材? それも今更?」


「ええ。 黒崎さんはまだ『復活したばかり』で聞いてないかもですが、実は大戦終結の折、各出版社も動いていましてね! あれは天界! ひいては世界の存続すら危ぶまれた程の大事件! 当然ながら様々な記事が各社から飛び出していきました」


「ですが内容が内容だけにその全てを記事にするわけにはいかず、当然情報規制、記事を出す前に閻魔一族や治安部上層部の検閲の後、記事として世に出させていきました」


「ただその過程で記事に載せる事ができなかった裏事情…… 例えばそう…… 『誰かさん』みたいにその正体を秘匿され、閻魔一族や『例の諜報部の最強部隊』、さらには女神様達からも一目置かれ、そして影から皆を援護し、最終的に長年天界を蝕んできたとされるあの『災厄』をも叩き潰す事を成し遂げた影の英雄–––」




「その英雄さんが復活したという情報なんかも掴みましてね。 『元総司令さん』–––」


「!」


 こいつ…… どこでそれを……


 俺の『前世の件』は勿論、民間にはその存在を公にされてない『零番隊』の事まで……


 フリーのジャーナリストだと…… そんな奴が易々と手に入れられるレベルの情報じゃねえだろ!


 ナニモンだ。 この女……



 表情は変えずにとりあえずは女の話を聞く黒崎。 



「–––– そこで以前から懇意にさせてもらっている大王様を問い詰めた所、どうやらその情報は真実だったと確信しまして……」


「貴方の事は以前から特に興味を持っていましたし♪」


「閻魔大王様にお願いして『ここだけの話』にしておく事を条件に『貴方にも取材する許可が下りた』という訳です」


「勿論大戦から現在に至るまでの皆さんの面白ほっこりエピソードなんかも聞けたら幸いですね♪」


 周囲にいる黒崎の仲間達にも視線を流しつつ、笑顔でそう告げる藤村と名乗る女性。


 どこか見透かされているかの様な不思議な感覚に見舞われる黒崎。


 だがそんな黒崎も、冷静に口を開き彼女に対して自身の言葉を投げ返す。




「…… ツッコミどころが満載だな」


「フリーのジャーナリストだと? どういう情報源でそんな極秘情報を掴んだのか知らねえが、俺の『正体』を知っているのはごく限られた人物だけだ。 当然、俺の仲間にそこまで口の軽い奴はいねえ。 ただの一人もな!」


「おまけに『ただの』ジャーナリスト風情が大王様とそこまで懇意にしていて更にはこの人が躱す事すらできずにアンタの掴んだ情報が本物だと認めちまっただと?」


「不自然過ぎる位に不自然な話にしか聞こえねえんだがな…… アンタがさっきから纏っているその『妙な質の気配』も含めてな」


「!」


「大王様も…… 『何を隠してる』のか知りませんが、いくらアンタが連れてきた者とはいえ、こんな得体の知れねえ奴のこんな話を聞いて『はいそうですか。 わかりました。 そういう事なら何でも答えさせて頂きます』なんていくわけねーだろ」


「おまけに『嘘』までついてる奴を信用して話す事なんざ何もねーよ! つまんねえ後出しなんざしてねえでアンタが『本当は何者なのか』それとその『真意』についても教えてもらわねえと筋が通らねえしこの依頼を引き受けるつもりもねえ!」


「……」

「……」


 黒崎の返しを無言で受け取る藤村。


 大王も敢えて何も言わずといった様子だ。


 そしてこの返しを受け、さっきまで飄々とした態度であった藤村の表情と眼が変わる。



 そう、彼の問いにちゃんと応える為に––––



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