3−17 ゾンビの蔓延る世界へ戻る
「うわー、すごいでっかい馬車だねえっ……」
「にゃっ……ロロ村の資材を使って新しく新調してもらったのにゃっ」
太陽が昇りかけ、涼しい風が吹き抜ける朝。
ナーニャと待ち合わせをしていたロロ村の入り口にたどり着くと、そこにはどでかい馬車が待ち受けていた。
そして、その中にはたくさんの食料品が詰め込まれているようだ。
「ふふっ、ミーレルでは食料品はいくらあっても足りないはずにゃ……うちはこれで一財産作れるはずにゃし、この運搬が成功したら大金持ちだにゃ。アキト、道中の護衛は頼んだのにゃ!」
「うん、そうだね……」
一財産作れるってのは嘘ではないだろうけど、ナーニャがそれだけでこんな遠くのロロ村まで来たわけじゃないってのはもうわかっている。
彼女はとにかくこのゾンビパンデミックの状況で人族にとって何が重要なのか、ってのをしっかり考えていて……人族全体のことまで考えて行動していたような素晴らしい女の子なのだ。
僕はそれをよく知っている。
なんでもないことのようにすましているナーニャがかっこよくて好きだから、僕から何かを言ったりはしないけどね。
「それじゃ、アキト、行くとするかにゃ」
「うん、行こうかっ……あ、でも、ちょっと待って」
「にゃっ……にゃー、ライバルたちだにゃっ……」
「はは、ライバルってそんな大袈裟な……」
僕が苦笑しながら振り返ると、そこにはカレンさんとヘレナさんが立っている。
「アキトくーんっ、寂しくなるわーっ……いつでも、帰ってきてねえ……」
「はい。僕も寂しいですよ、カレンさん。ミーレルに戻ってから、またこの村にも絶対寄らせてもらいますねっ」
「絶対よーっ……待ってるからねっ……んっ」
そういってカレンさんはぶちゅっと濃厚なキスを唇にしてくれる。
今思い出してみても彼女との一夜はとても素晴らしいものだった。それだけのために、またここに絶対戻ってこようって思えてしまうくらいだ。
続けて隣に立つヘレナさんの前へ。
「アキトさん、アキトさんが助けに来てくれたおかげで、私も子どもたちも助かりました……本当に感謝しています」
「そう言ってくれると嬉しいです。でも、お礼はヘレナさんからもうたっぷりといただきましたから……」
「は、はいっ……ま、また、この村に来たときには、いっぱいお礼をさせてくださいっ……」
ヘレナさんは何かを思い出したのか顔を赤く染めながらワタワタと慌てている。
そんな可愛らしいヘレナさんに近づき、柔らかな身体を抱擁しながら彼女の柔らかな唇にキスをする。
元々赤かった顔が真っ赤にそまるヘレナさん。
積極的な叔母も良いものだけど、控えめな姪っ子もとても良いもの。
思わず前屈みになってしまいそうになるのを堪えながら、僕はヘレナさんに別れを告げる。
「それでは、また……」
「はいっ……」
僕の腕の中、もじもじと身体を揺する可愛らしいヘレナさん。
彼女のその暖かさは名残惜しいものだけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。
僕は彼女の柔らかな身体を解放する。
もう一度二人にしっかりと別れの挨拶をした後で、僕は馬車へと戻り御者台に座ったナーニャの隣に腰掛ける。
「それじゃ、ガーランドさんもお世話になりましたっ。最後もよろしくお願いしますっ」
「おおっ、こっちこそララ村の救助依頼を受けてもらえて助かったぜっ! 最後もばっちりゾンビを誘導してやるからなっっ! いくぞっっ!」
ガーランドさんが合図を送ると、村の警備の人達が慣れた様子で生きたネズミを放ち、ゾンビを村の門から遠ざけてくれる。
「よーっし、いけえっっ、アキトぉっ! いつでも戻ってこいよぉっっ!!」
ばんっと開け放たれる村の門。
「アキトくーん、またねっー!」
「アキトさん、お元気でっ!」
「はい、またきますっっ!! お元気でーーっ!!」
僕達は一気に門を駆け抜け、ロロ村を後にしたのだった。
「さーって、今日の野営はここでするのにゃ……」
ナーニャが馬車を止めたのは、ロロ村から半日ほど馬車を走らせた場所だった。
「まだ明るいけど……ここでいいの?」
「にゃ……この場所はモンスターも少にゃいし、ゾンビが来ても逃げやすい立地にゃ……それに、ミーレルに戻るのには1日このくらい進むのがちょうどいいのにゃ。焦って進んでも到着する日数は変わらないのにゃ」
「なるほど。ちょうどよい初日の中継地点、ってことなんだね」
「その通りにゃ……それじゃ、ぱぱっと準備しちゃうにゃ……」
ナーニャは手慣れた様子で野営の準備を始める。
こういう野営の知識は僕にはまだ全然ないので、手伝えることはない。
「僕は一応周囲の警戒をしておくね……」
僕は馬車の周りに一応気を配っておくことにする。ここまでの道中にも結構な数のゾンビやモンスターが現れていた。
このゾンビパンデミックの世界に変わり、街道などの治安は刻一刻と悪化しているよう。
街道側だから比較的安全……という常識は過去のものになりつつあるし、この野営地にモンスターやゾンビがやってくる可能性も低くはない。
それがゾンビならばまったく問題がないわけだけど、普通に生きているモンスターの強力なやつとかが来ると危険がないわけではない。
もっとも……
「……《ステータスオープン》」
***********
名前:ヒラヤマ・アキト
種族:異世界人
称号:異世界ブレイブダンジョンマスター・腐界の王
装備:封印の指輪(呪)
LV:1 (固定)
HP:481/481(+170%)
MP:729/729(+170%)
攻撃力: 519(+170%)
防御力: 436(+170%)
魔攻力: 731(+170%)
魔防力: 664(+170%)
素早さ: 432(+170%)
固有職業:
【ゾンビマスター】
固有スキル:
《オートトランスレート》
《ステータスアップ・ブレイブダンジョンマスター》(半封)
《パーシャルターンアンデッド》
《ゾンビステータスアナリシス》
《サモンゾンビ》
汎用スキル:
《ステータスオープン》
***********
「うん……やっぱりかなりステータスアップパーセントが上がってるんだよな……」
ここに来るまでの間の戦闘でも気づいていたのだけど、身体の調子がどんどんと良くなっているというか、僕の戦闘能力はかなり上がってきている。
それが何の理由で上がっているのかは知らないけれど、僕の個人としての戦闘力だって馬鹿にしたものじゃなくなりつつある。
ゾンビが相手じゃなかったとしても、大概のモンスターには僕一人で対処できるようになっていると言ってよさそうだった。
ついでに……
「マリー……悪いけど警戒を頼むね……」
「ゔぁー……」
僕達を隠れて追っているマリーの警戒を抜けてこれるモンスターなんて、そもそもいない。
超有能なゾンビを部下にもった幸運を感じながら、僕は気楽に周囲の警戒を続けていくのだった。
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