3−7 ゾンビじゃなくて猫の恩返し
「あー、自由っていいなー……」
自由時間に宿のベッドに身を投げ出しているのは今も前も一緒。
だけど、それが奴隷労働に疲れ果てて倒れ込んでいるのと、自由を謳歌する旅をしてきた後の心地よい疲労感を感じているのでは、天と地ほどの差があるもの。
心地よい1日の疲れを感じながら、僕は異世界転移してからこれまでにあったことに思いを馳せていく。
異世界に勇者として召喚され歓待されたこと。
【ゾンビ・マスター】の職業を得て追放されたこと。
冒険者奴隷として酷使されたこと。
騙されてゾンビダンジョンの深部に送り込まれてしまったこと。
そして、運良く【ゾンビ・マスター】の職業が真価を発揮してくれてダンジョンを攻略することができたこと。
「悪いことばっかりだった気はするけど、ま、今の状況自体はそう悪いもんじゃないよね。ただ、気をつけないといけないよな……ベルとか『アマゾネス』のやつらに見つかったら、また酷い目に遭わされる可能性があるんだからね……」
いつかはあいつらに復讐してやりたいという気持ちはあるけど、それは間違いなく勝てるだけの力を僕が身につけてから。
今はあいつらに見つからないように潜伏しつつ、なんとかしてあいつらに復讐することができるだけの力を蓄えていきたいところだ。
「……《ステータスオープン》」
***********
名前:ヒラヤマ・アキト
種族:異世界人
称号:異世界ブレイブダンジョンマスター・腐界の王
装備:封印の指輪(呪)
LV:1 (固定)
HP:481/481(+22%)
MP:724/729(+22%)
攻撃力: 519(+22%)
防御力: 436(+22%)
魔攻力: 731(+22%)
魔防力: 664(+22%)
素早さ: 432(+22%)
固有職業:
【ゾンビマスター】
固有スキル:
《オートトランスレート》
《ステータスアップ・ブレイブダンジョンマスター》(半封)
《パーシャルターンアンデッド》
《ゾンビステータスアナリシス》
《サモンゾンビ》
汎用スキル:
《ステータスオープン》
***********
「悪くはない……全然、悪くはないんだよね……」
だけどS級冒険者や国に所属する騎士なんかが追手として現れる可能性を考えると、十分と言えるほどの能力値ではない。
レベルが固定されてしまっている以上、それ以外のなんらかの方法で僕は力を身につけていく必要がある。
スキルや職業なんてものがあるファンタジーな世界なんだし、人を格段に強化できる魔導具や武具、アイテムなんかがあってもおかしくはないはず。
僕はそういう『何か』を見つけるために旅を続けていくつもりだ。
「……って、あれ? そういえば、僕のステータスって、前と何か変わってる……? いや、前からこんな感じだったか……?」
ステータス画面に微妙な違和感があるような気が、する……?
しばらく考えてみたけれど、その違和感が何からきているのか理解することはできなかった。
まあいっか、そろそろ寝るか……と目を瞑った僕だったのだけど……
──コンッ、コン
僕の部屋のドアから、そんな控えめなノックの音が響く。
どうぞーっと声を返すと、扉がゆっくりと開いていく。
その先にいたのは……
「お兄さん……今、大丈夫かにゃ?」
可愛らしい猫耳を頭部で揺らしている、猫人族の美少女だった。
「ナーニャか……ってナーニャくらいしか僕の知り合いっていないんだし当たり前か。もちろん大丈夫だよ、さあ入って」
「ありがとにゃん」
すすっと扉をくぐり抜けて入ってきたナーニャは、ベッドに座っていた僕の横へと腰掛ける。
「取り引きの方はうまくいったの?」
「にゃ。こんなときだからお互いに譲り合ったにゃ。うちもしっかり儲かるし、ロロ村の人達もミーレルの人達も助かる取り引になったはずだにゃ」
ナーニャは満足そうにうんうんと頷く。
ぴこぴこと動いている猫耳もまた、どことなく嬉しそうに見える。
「それは良かったね。それじゃあ……ナーニャはすぐにここを出るの?」
「んにゃ……商品のやり取りとか、荷馬車の増設とかで後1週間はかかるのにゃ……」
「あー……帰りは食料品を運ぶんだもんね。もっと荷台が必要になるんだね……」
「その通りにゃ。それでにゃんだけどー……」
ナーニャの猫耳が2個同時にくいっと僕の方を向く。
「……アキトお兄さんに、帰りのミーレルまでの護衛を頼めにゃいかなと、思ってるのにゃけど……」
なんでもない風に聞いてくるけれど、ナーニャはちょっと緊張しているようだ。
可愛い二つの猫耳が「返事はどうかなー?」とでも言わんばかりに、ふるふるっ、ふるふるっ、と震えている。
まあ、もちろん僕の答えは決まっている。
「うん、いいよ。僕もナーニャにはだいぶお世話になっちゃったし……実は僕って今さ、特にすることがないんだよね……」
さっき考えていた通り、チャンスがあればベルとアマゾネスのやつらには目にものみせてやりたいとは思っている。だけど、今の僕ではそれが実行に移せるほどの実力はない。
それを実行に移そうと思ったら、訓練やアイテム取得による強化が必要になるのだ。
そもそも復讐なんてものは諦めて、適当に冒険者でもやりながら田舎ほのぼのライフをやるのもいいかもしれないけど……
ま、そのいずれの道を行くにしろ、しばらくの間ナーニャと一緒に活動していくってのは全然悪くない話に思える。
「そ、そうっ! ありがとうなのにゃっ!」
声も嬉しそうだけど、頭で「やったー!」と言わんばかりに、ぴこんっ、と立ち上がっている猫耳が彼女の内心を物語っている。
ナーニャが短い間にだいぶ僕のことを気に入ってくれたようで、なんだか嬉しくなってしまう。
僕は思わず彼女の頭に手をのばし、彼女のサラサラの髪を撫でる。
「あっ……にゃ、にゃぁっ……」
力を失ったように僕に向けて倒れ込んでくるナーニャ。
猫人族特有の匂いなのか、甘くて優しい匂いがナーニャの身体からは香っている。
「アキトお兄さんっ……そっ、その、助けてもらったお礼を……まだしてにゃかったのにゃ……う、受け取って、欲しいのにゃ……」
そう言ったナーニャは、僕の方に顔を寄せると、その大きな目をぎゅっと瞑る。
「……ナーニャ」
彼女の猫耳は、まるで僕のことを誘うように、ぴこ、ぴこっ、と手招きをするように動いている。
さすがにこれは……行っていい、ってことだろうな……
すっと上向きに持ち上げられた彼女の薄桃色の唇に、僕はゆっくりと唇を近づけていくのだった。
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