3−8 ゾンビに関する冒険者依頼
「ふわぁぁっ……よく寝れたなーっ…………ってあれ? ナーニャはもうでかけちゃったのか……」
ベッド脇の窓から外を見てみれば、太陽はすでにかなり高く昇っている。
ナーニャと気持ちよく疲れることをしてしまった昨晩。そして、そんな夜の運動を終えた後での、久しぶりの良質なベッドでの睡眠。
熟睡していた僕は、完全に寝坊してしまったようだ。
まだナーニャの匂いが残っているベッドから身体を起こし、ベッド脇のタオルで身体を拭ってから衣服を身に着けていく。
「うーん、少し汗が匂うか? 新しい服とかも買わないといけないなあ……ってこれは……」
僕が見つけたのは……テーブルの上に置かれたナーニャからのメモだった。
『アキトお兄さんへ、取り引きの続きがあるからでかけてくるにゃ。それからこのお金はお礼の一部だにゃ、好きに使ってだにゃ。また夜ににゃ。ナーニャ』
そんなメモの上には何枚かの金貨がのせられている。
金貨1枚で5万円くらいの価値だったっけ……?
「……一文無しなわけだからとてもありがたいわけだけど、夜を楽しませてもらった上にお金までもらってって……これじゃ完全にヒモじゃん……」
ナーニャみたいな猫耳美少女のヒモになれるっていうんだったら……全然有りだけどね。『異世界に来たら追放されたけど、猫人美少女商人のヒモになれたので楽しく暮らしていこうと思います』で一本かけるな。
……冗談はともあれ……散々だったこれまでの僕の異世界人生だけど、いよいよ本格的に好転し始めたってことでいいんだろうか。
「…………何にしろ腹が減ったな……変な時間だけど、まだご飯ってあるのかな……?」
1階に降りると、女将のカレンさんが慌てたようにこちらを振り返ってくる。
「あっ、あらー……アキトさんっ……」
そして、なんでだかは知らないけど、こちらを見る彼女の頬は薄くピンク色に染まっている。
僕より結構年上に見える彼女の見せるそんな顔は、なんていうか妙に妖艶な魅力がある。
「ど、どうかされましたか、カレンさん?」
「い、いえっ、なんでもございませんことよーっ、おほほほほーっ……」
挙動不審にちらちらとこちらを見てくるし、変な口調で高笑いしてるし……何かしら言いたいことはあるんだろうけど。
なんでもないと言われてしまえば追求することもできないわけで……
「カレンさん、まだ何か食べられるのってあったりしますか?」
「あ、あんなに食べたのにっ、まだ食べようって言うのっ!?」
妙なことを口走りながら、身体をびくんっと揺するカレンさん。
「……あんなに? ってまだ朝から何も食べてませんけど……お腹ぺこぺこです」
「あっ、そ、そうよねーっ……ごめん、ちょっと勘違いしちゃったわー。そ、そうねえ……朝食のメニューの残りでよかったらすぐに出せるけどー……」
勘違い……? っていうのはどういうことだろうか?
まあこんな可愛いカレンさんの顔を見させてもらえるなんて、僕としてはありがたいことだけど。
なんかいいよね……年上のお姉さんがあたふたしてる姿ってのは。
「はい、それでいいです。お願いしますっ……」
「はい……それじゃ、ちょっと待っててねー…………ふう、昨日夜通しあんなすごい声聞かされちゃったから、変にアキトさんのこと意識しちゃってるわねー……いけないわっ、私って、欲求不満なのかしらっ……」
カレンさんは顔を赤くしたままぶつぶつと何かをつぶやき、奥へと下がっていったのだった。
パンや果物って感じの軽いご飯を食べ終えると、僕の前に見知った顔の男性が現れる。
「よお、アキト、だったよな?」
「はい、こんにちは。そちらはガーランドさんでしたよね?」
「そうだ。今ちょっといいか?」
「もちろんですよ」
近づいてきたガーランドさんが、僕の目の前の椅子に腰掛ける。
「昨日言っていた件なんだがな……」
「ああ、そういえば……何か頼みたいことがあるんでしたっけ?」
「そうだ……まあ、こんな時勢だ。だいたい想像はつくと思うが、村周りで幾つかやってもらえるとありがたいことがあるんだ……」
「そうですか……」
ガーランドさんが言いだしにくそうなのは、それが普通ならば危険な依頼になるからってことだろう。
ゾンビのうろつく村の周り、依頼が簡単なものであったとしても普通の冒険者にはかなり難しいものになる可能性もある。
「そのなかでも一つ重要で急ぎなものがあってな……できれば、このロロ村の隣村であるララ村の様子を確認できねーかな、って思ってるんだよ……」
「隣村の、ララ村……ですか?」
「ああ、そうなんだ。どうやらあそこで何かがあっちまったみてーでな。俺らの村を囲んでるゾンビたちの一部なんだが……見た記憶のあるララ村のやつらが混ざってるんだよな……」
ガーランドさんは顔をしかめながらそんなことを言う。
「あー、なるほど……それじゃ、ララ村は既に……」
「ああ、落ちちまってる可能性はある……だが、ララ村にはごっつい外壁を備えた教会があってな、盗賊が来た時なんかに立てこもれる避難所になってるんだ。もし生き残りがいるなら、そこに避難してるんじゃねーかな、って思っていてな……」
なるほど。確かにゾンビものの小説なんかだと、安全な場所に立てこもってる生存者がいるってのはよく聞く話だ。ショッピングモールとか、小学校の校舎とか。
現実となったこの世界でも、その可能性があることは否定できない。
「ララ村とこの村は色々と繋がりが多くてな……俺の親戚のジェラードもあそこにいるし、カレンの姪っ子のヘレナもララ村にいる。可能ならば助けてやりてーやつがララ村にはいるんだよなっ」
カレンさんの姪っ子か……ってことは、やっぱりスタイルが最高の女の子なんだろうか……?
カレンさん似の巨乳の女の子が救出できるかもしれないなら……それは危険を押して試してみる価値があるんじゃないだろうか。
「村の関係者でもないアキトに頼むって話ではねーんだがよ、この村の若い奴らは村の防衛だけでも手一杯になっちまっててな……できれば──」
「いいですよ。引き受けます」
話を遮ってしまったけれど、特に悩むことでもないので答えを返してしまう。
村の外が危険なのは、そこがゾンビに溢れた世界だから。
でもそれは僕には当てはまらない。
万が一ゾンビじゃない強力なモンスターが出てきたとしても、僕にはマリーとルーナがいる。
隣村を見に行くくらいで、大きな問題が起こることはないはずだ。
いつまでもナーニャのヒモでいるわけにもいかないし、自立した生活のために冒険者活動ってやつを始めてみようじゃないか。
「い、いいのかっ?」
「ええっ、ララ村の様子を見てきて……もし可能ならば生存者をこちらに連れ帰ってくる、ってことでいいんですよね?」
この村の人達はいい人ばかりだし、そのくらいこの村のためにしてあげてもいいと思う。
この村の人たちは、僕に酷いことをしてきたベルや『アマゾネス』とは何の関係もないのだから。
「ああっ! アキトっ、恩に着るぜっ! もちろん報酬はしっかりと払わせてもらうぜっ!」
「いえいえ。いいんですよ、困ったときはお互い様ですから」
ガーランドさんはそのまま依頼に必要な細かい情報や報酬について教えてくれたのだった。
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