第8話 TS

「あれ? え?! 魔王は、どこに?!」


俺の近くで止まって歩きながら聞いてくる。うん、やっぱり浮いてたよな。


「魔王なら、ついさっき倒したよ」


「え?! でも確かに、気配すらない。……さすが装甲勇者アーマーヒーロー様です! 我らが敵わなかった魔王リーパーを単独で倒されてしまうなんて。ぜひ我が城にお寄りくださり、お休みなされてください」


視界の端に王女さんと一緒にいた灰色の鎧二体が、走ってきているのが見えた。あっちはホバー移動できないのだろう。


「あー、寄りたいのは山々なんだけど、たぶん強制回収されると思う」


【ミッションブレイク2】でもミッション終了後の帰還方法は不明なんだよな。描写がないから。まあ地上ミッションだったらヘリとかで回収されるまで待たされ続けるとかゲームとしてどうよ、となるからいいんだけど。コラボで異世界に来てるならヘリとかじゃないだろうし、たぶん瞬間移動とかで戻されるのだろう。


「そうなのですか……。ああ、せめて御身をお見せいただけないでしょうか? 装甲勇者アーマーヒーロー様に関しては全身鎧を着ておられるという話しか伝わっておらず」


「いけるか?」



外部スピーカにではなく、サポートAIに訪ねた。


「問題ありません。大気組成は同じ、検疫も互いに影響を与えないとされております」


「されている? ダウンロードしたデータか?」


「はい、さすがにどちらもチェックする機能は当機にはついておりませんので、その情報を信じる他ありません。もし疑うのでしたら外に出るのは避けるのがよろしいかと」


さすがにコラボとかいって別の世界に落としておいて、大気組成が違うとか検疫が必要とかはないか。まれに【ミッションブレイク2】ではアドベンチャー寄りのミッションでそういうのがあったり、そのため専用の装備とかあったりするから、一応気をつけただけだけどな。


「ハッチオープン。アーマー装備で外へ出る。あ、ヘルムはなしで」


そういうと一瞬暗転し、身体感覚が新たに現れた。MTAに乗ってるときはMTAにシンクロしてるからGぐらいしか感じないようになってるんだよ。


……ってなんかおかしいぞ? いつものアバターの感触じゃない。なんか頭は長髪でまとめている感触があるし、体自体小さい気がするし、胸への締め付けの感触もある。……パーソナルフォートレスの中じゃ分からんな。


パーソナルフォートレスは片膝座りをしているので高さはそれほどでもないので、ハッチから飛び出す。体が軽い。


「まあ、装甲勇者アーマーヒーロー様は女性だったのですね。しかもわたくしより年下に見える? あれ? けど装甲勇者アーマーヒーロー様は二年前にお越しになられたはず、二年も前ではすごく子供ですよ、ね」



えええええええええ?! なんで? なんで俺のアバターが女の子になってんだ? 混乱していると髪留め型インカムからサポートAIの声とは違う音声が聞こえてきた。


「あなたのアバターは現在の姿で固定されました」


あああああああああああああ?! 現地人に見られたからか? 俺、このコラボイベント時はずっとこのままかよ?! まじかー?!


そもそもなんで渋くて俺の理想に近いおっさん兵士のアバターじゃなくて、女の子になってんだよ。……あ。


その理由を思いついて無意識で両膝を付き、両手を地面に下ろす、土下座手前のポーズになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る