VRアーケード【ミッションブレイク2】

なぞまる

第1話 プレイヤー

俺は数週間に渡るデスマーチを終え、疲労困憊の中うきうきした気分で一軒の店に入った。


ずっとこの時を待っていたんだ。体は疲れ切っているが、横になって寝るだけみたいなものだから問題はない。


ブリッジという店だ。一般的にゲームセンターとされているが、ここにはクレーンゲームはおいていない。数台ビデオゲーム筐体は置いてあるが、これをプレイするために来訪するものはおらず、ただの暇つぶし用だ。


ここは現在縮小気味のVRアーケードゲームをおいてある店だからだ。何に似ているかといえばカラオケボックスみたいなものだ。各小部屋にカプセルがあって、そこに俺たちプレイヤーは入って、VRアーケードゲームを楽しむのだ。


俺は二年前からここのブリッジの常連だ。常連と言ってもデスマーチ中は来れないので、期間が時々空くけどな。ここが俺んちから一番近いから、どこに救援要員として派遣されてもここに戻ってくるから、デスマーチ中以外は。


「いらっしゃいませー」


受付のお姉さんが変わっていた。研修で来ていたと言っていたから、研修が終わったのだろう。短い間だったが結構仲良くしていたので残念である。けど今度の受付のお姉さんも美人だ。


「空いてます?」


「はい、空いておりますよ」


「では、フルでお願いできますか?」


「フルですと六時間ですが、営業時間を超えてしまいますので五時間となります。また法令上対策が必要ですがよろしいですか? 」


新しい人なので、このやり取りも必須となって疲れている時は面倒だ。仕方ないけどね。

現在VRゲームはコンシューマにも出てきて、皆そっちに移行、はしていない。

自宅で出来るのはいいんだけど、法令で一時間プレイしたら強制的に最低五分は休憩を取らないといけない(ソフト側ハード側双方で対策されてて動かなくなる)し、嗅覚、味覚、苦痛はオミットされているから。


だから俺もアーケード派なのだ。こっちなら連続で六時間までプレイできるしすべての感覚が味わえる。がこれも法令で排泄対策をしておかなければならない。

これが面倒&恥ずかしいとかで若者があまり入ってこない要員だと言われている。直接は自分で使い捨てのカバーをつけるだけなのだが、それらのやり方の説明を美人のお姉さんにされるので、確かに恥ずかしいかもしれない。

俺も最初はそうだった。



「はい、分かっていますので説明はいらないです」


「分かりました。IDカードをお預かりします。……あ、上級者の方でしたか、失礼いたしました。ご案内いたします」



ブリッジの受付はかなりの高給でかつ有能らしい。看護師の資格を持っている人も多く採用されていて、そうでなくてもいろいろと万一の際の講習を受けているそうだ。……俺はその万一に遭遇したことはないけど、ごくたまにあるとは聞く。


IDカードを読み取れば俺の総プレイ時間がある程度表示されるらしいから、受付にも俺がどれだけ手間のかからない客かどうか分かるようになっている。


部屋に案内された。普段通りきれいにされているカプセル室だ。ここは着替え室も兼ねていて、ここで手術着みたいなものに着替え、股間に使い捨てのカバーパンツをつける。これがいやって人も多いのも分かる。

全てのVRゲーム、コンシューマも含めて排泄関連は抑制されるようになっている。が、それでもどうしようもない場合があるわけで。

だから規制されているわけだ。


だけど万一があったら皆が困るし、他人が接触するカプセルで不衛生があってはならない。だから全てのカプセルには全自動の洗浄装置がついているし、プレイヤーも直接肌を触れないよう、使い捨ての紙の服を着るし、カバーも付けて万一の対策をしているわけで、だから六時間のぶっ通しプレイが許されているのだ。


慣れているから疲れていてもちゃっちゃと背広から着替え、自前のバイザーもつけて準備完了だ。そしてカプセルに横たわる。


カプセルで横になると、バイザーに組み込まれた機械から情報が流れ出してくる。

この時の感覚が一番不思議だ。

ゲーム世界の中に入っていているのに、現実の体の感覚も残っているから。次第に視覚も聴覚もゲーム世界に入っていくのだが、その前にゲームの選択をする。


現在VRアーケードでプレイできるのは三種類ある。一つは最初のVRアーケードゲームであり、俺がこれからプレイするロボットシューティング【ミッションブレイク2】、現在最大プレイヤー数を誇るらしいファンタジーMORPG【ファーストギアス】、気弾が飛び交う格闘ゲームらしい【ナイトキューブ】だ。


【ミッションブレイク2】は一人用のロボット(ではないのだがロボットとしておく)に乗って、数々のミッションをこなしていくシューティングゲームだ。MTAと呼ばれるロボットに凄まじい拡張性があって、ほぼオリジナルのロボットを組めるのが売りだ。組み上げ専用のツールも一般向けに無料で提供しているほどだ。

1は長い間運営されていて、今では2となりフレンドやチームの仕組みも実装され複数人で同じミッションを攻略したりできるらしいが、俺はずっとソロなのでほとんどやったことはない。

他にもいろいろと実装しているようだが、俺はあまり興味がわかず、ずっとソロミッションで遊んでいる。そのソロミッションも結構短期間でどんどん追加されていくので飽きないんだ。今回も数週間は空いたからなんか新ミッション来てると思う。



カプセルの蓋はプレイ中は閉まっているらしいが、出るときも気づいたら開いているので閉まっているという感覚はない。……なんでも閉所恐怖症対策でそうなっているらしい。


ゲームの選択を終え、ゲーム世界に意識が入っていく……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る