01-10.研究所の闇

 しかし、その優しさは長くは続かなかった。


 ある日、女性が彼女に優しく接している場面を他の研究員が目撃してしまったのだ。


「君、一体何をしている!」


 声を荒らげた男性研究員が彼女たちの元に駆け寄った。女性は咄嗟とっさに絵本を隠したが、すでに手遅れだった。


「まさか、実験体に情を移しているのか? こんなものはただの失敗作だ! それ以上関われば君も処罰しょばつを受けるぞ!」


「……彼女は失敗作なんかじゃありません。ただ、少し違うだけなんです」


 女性は怯えることなく、静かにそう言った。その声には確かな信念が込められていた。


「彼女は、生きているんです。ただの物体なんかじゃない……!」


 研究員たちはその言葉に耳を貸すことなく、女性を無理やり引き離した。

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