01-06.理念の矛盾

 研究所の摂理せつりには一つの大きな矛盾があった。それは、「完全なる存在を作る」という行為そのものが、結局は人間の手によるものであり、人間のあやまりからのがれられないという点だ。


「私たちは完全な存在を作り出すが、同時にそれが本当に正しいかどうかは分からない」


 研究員の一部は、こうした疑念ぎねんいだいていたが、団体の中では声を上げることは許されなかった。それどころか、疑問を口にする者は思想的に排除はいじょされるか、沈黙をいられることもあった。


 このような中で生まれた彼女は、完成品であるべき存在として多大な期待を背負いながらも、人間の矛盾の象徴でもあった。彼女にとって、研究所の摂理せつりは自分の存在意義いぎ規定きていするものだったが、それが彼女自身を苦しめるかせともなっていた。

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