第33話 灯里さん、ごめん。
◆◆◆◆
腰に回した手に力を入れると、それが合図となったかのように、夜空さんは俺の頬にあてた手を首元へと回す。黒ビキニしか身に着けていない豊満すぎる夜空さんの胸が、俺の胸板に当たる。
もう俺の視界には夜空さんで埋め尽くされていた。それほどまでに顔が近づいている。夜空さんの息遣いが、つぶさに感じ取れる。
俺も目を瞑り、夜空さんの頬に当てた手をスライドさせて彼女の後頭部を支えると同時に、顔を少しだけ前に出すと唇に柔らかな感触を感じた。口の中に夜空さんの爽やかな香りが広がる。その香りが、夜空さんとキスをしているのだと意識させた。
以前、夢の中で行った夜空さんとのキスよりも全然いやらしくも激しくもない。しかし、夢の中のキスよりも柔らかく――艶めかしく――生々しい。
”ずっとこのままキスをしていたい。もう離れたくない。”
そう思ってしまうような――麻薬のような口づけ。
腰に回した手の力を強めると、夜空さんは「んっ♡」と小さな喘ぎ声を上げて唇を少し開き、俺の首に回した腕の力を強めた。俺の唇と夜空さんの唇がより強く密着する。
俺、今、実の母親とキスをしているんだよな……。
改めて考えると背徳的な気分になり、気持ちが高まる。俺は変態なのかもしれない。
密着している唇から感じる夜空さんの体温、そして、豊満な胸の奥から確かに感じる規則正しい夜空さんの鼓動――俺の体と夜空さんの体が溶けて一つになるような、そんな感覚。
(灯里さん、ごめん。)
俺は心の中で灯里さんに謝り、さらに両腕の力を強め夜空さんの唇の感触を味わった。夜空さんは俺の母親だ。しかし、そんなことはもう関係ない。俺は彼女を一人の女性――九条 夜空としてキスを続けた。
◆◆◆◆
王様となった女性が、俺と夜空さんの肩を叩いた。
「もう10秒以上経っているから!」
俺はハッとして唇を離しゆっくりと瞳を開いた。夜空さんも同じタイミングで目を開く。そして、夜空さんは高揚した表情で目を潤ませながら、
「えっ……もう終わり……?」
と、小さく呟いた。俺も夜空さんと同じ気持ちだ。唇と唇を重ねるだけのキスだが、体中が溶けて夜空さんと一つになるような――そんなキスだった。
周りの声が全く聞こえず――この世に夜空さんと俺の2人だけしかいないような感覚――。
そっと自分の唇を触る。先程まで、夜空さんとキスをしていたんだよな……自分の母親である夜空さんと……。夜空さんも同じタイミングで自身の唇を触っており、お互いに目が合い笑ってしまった。
よく身体の相性の良し悪しを話す人がいるが、俺と夜空さんは唇の相性が良いのかもしれない。
王様となった女性が訝しげな目線を俺と夜空さんに向ける。
「えっ……もしかして、2人って親戚同士なのにそういう関係……?」
「違うの、そういう関係じゃなくて、ただ、キスをするのが久しぶり過ぎて~~~~。」
夜空さんは、顔の前で両手を振りながら必死に否定をするが、夜空さんの会社の人達はみんな、ニヤニヤとした表情で「え~? 本当ですか~?」と口々に話している。
俺は灯里さんの方を見ると、悲しそうな表情を浮かべ俺から目線をそらした。
◆◆◆◆
灯里さんには申し訳ないのだが、夜空さんとキスをしていたときは俺の全てが夜空さんのものになっていた。そして、夜空さんの全ては俺のものだった。ついこの前、灯里さんに「身も心も灯里さんのものだ。」と言ったばかりなのに……。
「「「「「「「王様だーれだ!」」」」」」」
色々な感情が心の中でモヤモヤと渦巻いているが、そんなことは関係なしに王様ゲームは続く。
今回俺の引いた番号は6番だ。
刺激的なファーストキスを終えて、今の俺に怖いものは無い。もし、俺が誰かとキスをすることになったとしても、誰かから何かを口移しされたとしても、恐らく夜空さんとのキス以上に刺激的な命令は無いだろう。
そう確信が持てるくらいの体験だった。
王様ゲームを提案した女性が手を上げる。2連続で彼女が王様のようだ。「私、王様ゲームをすると良く王様を引くんだよね~。前世は王様だったのかな?」なんて話しをしている。
3回戦目の時点でポッキーゲームを提案した人物であり、過激な命令になることは予想できる。しかし、もし俺が指名されたとしても今の俺は無敵だ。
どんな命令でも来やがれ!
「命令決めた。今回の命令はちょっと過激だよ~。王様の命令は~。」
「「「「「「ぜった~い。」」」」」」
王様は、そっとテーブルの上に置いてあるカクテルグラスを前に出す。
カクテルグラスの中には淡いピンク色のカクテルが入っており、カクテルの色よりも少し濃い色のチェリーがカクテルグラスの底に沈んでいる。華やかでオシャレなカクテルだ。
「このカクテルの中に入っているチェリーを6番の人が口の中に含んで、手を使わずに3番の人に食べさせる。もし失敗したら……今度は20秒間キスして貰おうかな?」
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